第二十一話 港町でも事件
朝、自分が起きると、そこは荷台の中だった。もうあの村からは出発したのかな。
自分は荷台から降りて、アリスの歩いている隣を歩いた。
「おはようございます。」
「あ、おはよう。・・・・・・もうお昼過ぎてるけどね。」
「あ、そうだったんですか。何時ぐらいにあの村を出たんですか?」
「朝早くには出たわ。起こそうとしても起きなかったし。それに、楽しそうな夢を見ていたから、起こさないでおいたの。」
「もしかして、寝言でも言ってました?」
「ええ。『ポコッた』とか、『外した』とか言ってたし。腕バンバン振ってたし。」
ああ。それは夢見てたんじゃなくて、ただの病気です。ゲーム3日やってないだけでここまで酷くなっているのか。対策考えなきゃ。後々大変なことになりそうな気が・・・・・・。
「あと、ヌバからあなたに言っておいてって言われたから、一応伝えておくね。えっとね・・・。」
「『もう二度と村に来るな』でしょ?」
「あ、うん。何で分かったの?」
「なんとなくね」
いや、そう言われて当然でしょうな。プライドを傷つけられ、さらに自分勝手な行動までして、その上にこの村を出るまでずっと爆睡。・・・・・・怒らないわけがない。
ま、いいか。もう行かないと思うし。
「あ、そういえば、お腹空いてない?朝も昼も食べてないでしょ?少しなら休んでも夜までには港町に着くから、一度ご飯タイムにしてもいいと思うから。」
「大丈夫ですよ、港町に着くまで我慢できますよ。」
1日半大丈夫なんだから、1日ぐらい何の問題もないよね。
「そう?じゃあ、どうしても我慢できなくなったら、私に言ってね。」
「あ、はい。わかりました。」
自分達は、港町の近くまでは狩猟の村のことについて話しながら、歩いていた。
~数時間後~
「・・・・・・なんですよ。」
「へぇ~、そんなところがあったんだ・・・・・・あ、誰か来るね。尻尾と耳、隠して。」
そういえば、出てたね。すっかり忘れてた。
自分は人間に化けた。ついでに服に付いていた自分の毛を払い落とした。
前から来たのはいかにも水兵と言える恰好をしたごつい男だった。
「こんにちは。おじさん。」
「おお!アリスちゃんじゃないか。久しぶりだな!・・・・・・ん?」
その水兵は自分を見て、ニヤニヤしながらアリスに話しかけた。
「どうしたんだい、その子は。まさか、隠し子かなんかかい?」
「そ、そんなわけ無いじゃないですか!」
そう言いながら、アリスは水兵さんを軽く殴った。
「へへっ、冗談だよ冗談。知り合いの子だろ?・・・・・・ああ、港町に来たってことは、太陽島に戻るのかい?」
「はい。明日の朝の船で。」
アリスがそう言うと、水兵のおじさんは困った顔をした。
その顔はとても深刻そうだった。明らかに何かあったと言わんばかりの顔だ。
「・・・・・・何か問題でもあったんですか?」
「ああ。実はな、今日の朝、港を魔物に占領されてしまったんだ。だから、水兵がこんな時間にここにいるんだよ。早く解決してもらわないと私はずっと仕事ができないんだよ。ああ・・・・・・誰か勇者でも来てくれないかなぁ。」
「そ、そんなあ。これじゃあ、家に帰れないよ。」
・・・・・・なんでこんなにトラブルに出会ってしまうのか。自分はゲームの主人公かよ。しかもこればっかりは自分が解決できることかどうか。
ま、解決しないと自分も太陽島に行けないし、やれることはやろう。和解の一つとしてこなせばいいかな。
やるからには、アリスさんを巻き込まないようにしなくちゃ。
とりあえず、港町に着いたら、アリスさんと別れて別行動をとろう。その後のことは、後で考えるか。
自分は船に乗れないことにショックを受けて落ち込んでいるアリスに話しかけた。
「ねえ、とりあえず港町に行こう。様子を見に。」
「う、うん。そうだね。港町全体が支配されている訳ではないし、解決するまで町で待っていようか。」
そう言って港町に向かう自分たちを、水兵が止めた。
「お、おい。やめた方がいいぞ。危険だぞ。」
「町は安全じゃないんですか?」
「い、いや、そうではないけど。何か嫌な予感がしてな。だから私は町の外に出てきたんだ。」
「水兵さん。私には頼りになるボディーガードがいるんです。ね!」
「あ、うん。」
アリスは、自分に笑顔を向けた。自分はその笑顔に応えるように返事をした。
・・・・・・そうしないと港町に行かないでここで野宿することになりそうだし。
一昨日に野宿したけど、もう虫がうざくて。だから野宿はもうしたくない。どこでもいいからお家に寝たい。この馬車の荷台に寝るとしても、ドア無いから虫が入って来る。だからこんなところで野宿はしたくない。
こうして、自分たちは水兵さんの言うことを無視して、港町に行った。
~港町~
自分たちが港町の入り口に着くと、そこには水兵さんが沢山いた。もちろん、兵士もいる。
アリスと自分は念入りに調べられ、かれこれ1時間ぐらいかかった。
そして、港町に入ると、町の人達が外には一人もおらず、皆は家か飲食店に避難していた。
自分達も、小さいバーに入った。自分は未成年だけど、今は非常時だから入らせてくれた。
バーのマスターは自分たちに飲み物をくれた。そして、今の町の状況を教えてくれた。
どうやら、町の剣士や兵士、旅をしている剣士達が戦ってくれているらしい。
戦況は五分五分らしい。多分、このままだと人間側の方が、ジリ貧になって負けるだろう。
魔物はまだいそうだし。
さて、どうするか。このままでは恐らく人間側が負ける。でも、ここからこっそり出るのは難しい。何とかして外に出なくては。
自分はとりあえず、トイレに行って考えようとした。すると、アリスは自分にこっそりとこう言った。
「ねえ、戦いをこっそり見に行って来てくれない?何かアイテムが必要になるかもしれないし。あなたならある程度の魔物ぐらいなら、やっつけれるでしょ?」
「え。あ、う、うん。」
正直、自分はその言葉に驚いていた。アリスは『絶対行かないで』的なこと、言うと思っていたから。
自分はバーからこっそり出て、港の方に向かった。なるべく誰にも見つからないように。
~港町・船着き場付近~
自分は港の船着き場の近くまでやってきた。船着き場では、人間と魔物が戦っていた。
魔物の8割はマーメイド、クラーケンなどの海にいる魔物で、残りは治癒系で空を飛べる魔物。
どうやら、治癒系の魔物を倒せば、かなり楽になる。但し、1人だけ圧倒的に威圧感のある魔物を何とか抑え込むこともしなくてはならないね。多分、リーダーはあいつだから。
自分は、こっそりと魔物軍の方に近づいて、治癒系の魔物を一匹ずつやっつけていた。
治癒系のモンスターは最大体力が低く、防御もほとんどないから、倒すには頭にパンチ一発で十分だった。
自分は治癒系の魔物を次々と気絶させ、誰もいない場所に置くということを繰り返しやった。
~港町・貨物船着き場~
クラッセが治癒系魔物狩りを始めてから15分後、魔物軍のリーダーの魔物が異変に気付く。
「・・・・・・治癒系の魔物の数がめっきり減っている。どういうことだ?」
その魔物は辺りを見わたす。しかし、周りは人間と魔物が戦っている姿しか見えない。
すると、別の魔物が焦りながらここに来た。
「どうしたんだ。まさか、人間相手に負けそうなのか?」
「は、はい・・・・・・。このままでは勝てないと・・・・・・。」
「・・・・・・仕方ない。私が行くとするか。治癒系の魔物がいなくなった理由も気になるからな。私のスキルで人間には見えなくしていたからな、治癒系の魔物には。まあ、人間側に魔物が味方しているからだろうがな。」
「私たちはどうすれば・・・・・・。」
「後ろで待機してろ。後でまた指示を出す。他の奴にも伝えておけ。」
「りょ、了解しました。」
さっき来た魔物は、他の魔物に伝えるためにこの場を去った。
そして、リーダーの魔物は船着き場付近に向かった。
「・・・・・・誰だか知らないが、人間に手助けなどする魔物がいるとはな。しかも月島で。よほど信頼されているんだろうな、そいつは。・・・・・・まあ、相手が人間だろうと魔物だろうと、私がすることは変わらない。・・・・・・この町を制圧するだけだ。」