第十九話 金毛狐の事情
自分は今、村の中央にある石像に、こっそり向かっている。誰も起きないように、静かに歩いて。
・・・・・・3人が寝た後に、こっそりと抜け出してきた。見つかったら面倒だし。
「よし、着いた。」
自分はとりあえず、石像を調べた。しかし、何もない。
次に土台を調べた。すると、扉のようなものがあり、中には小さな宝箱のようなものがあった。
鍵がかかっているのか、宝箱は開かない。あの時拾った鍵でも開かない。いや、開くわけないか。
最終手段として壊して開けるってのもあるけど、中身まで壊してしまいそうなんだよな。今の自分の力だと。
そうこうしていると、誰かの気配が近づいてきた。もしかして、無断外出がばれた?
自分は近くにあった草むらに隠れた。
・・・・・・来たのは、村の長だった。それに、村の奥の森へ足を進めている。
あっちに何かあるんだろうか。とりあえずついて行ってみよう。
自分は長を追って、こっそりついて行った。持っていた箱は、バッグにしまった。
森に入り、百段以上ある階段を上った先には、古い神社があった。
そして、神社には、狩猟者としか言いようのない恰好をした女性が1人いた。
長が話しかけたってことは、知り合いなんだろうな。情報収集も兼ねて、話を盗み聞きしよう。
「おお、今日はおいでくださったのですか。」
「・・・・・・久しぶりだな、長。」
「三か月ぶりですな。・・・・・・やはり神様は忙しいのでございましょうか。」
「いや、こっちの私用だ。特別忙しいってことではない。心配はいらない。」
神様か・・・。ここの守り神ってことかな。
この後の会話は、村の様子などの話で一切情報は手に入らなかった。
そうして話は終わり、長は村に戻って行った。
神様はまだ戻らないみたいだ。・・・いや、何かうろうろしている。もしかして、自分の気配を感じているのか。
とりあえず、自分はこの場を離れようと方向転換した時だった。
「さて、そろそろ戻るか・・・・・・ひゃん!?」
自分が帰ろうとした方向にあの神様がいた。
「あ、あ、あ、あの、・・・な、なんですか?」
その神様に怯える自分の腕をつかんで、神社の方に連れて行く。当然、力では敵わない。
そして、その神様は、自分を神社の中に連れて行った。
神社の中は薄暗く、明かりは月の光がさし込む程度しか無かった。
視覚はかなり強化されている方なので、大体は見えるけど。
自分が辺りを見ていると、その神様はお茶とお菓子を出してくれていた。
「・・・・・・どうぞ。」
「は、はあ・・・・・・ありがとうございます。」
自分は戸惑いながら、お菓子を口にした。
・・・・・・普通、立場が逆でしょ。あなたは神様でしょうし。
戸惑っている自分を見て、その神様は話をしだした。
「おっと、失礼した。私はアルテミス。狩猟神だ。お前をここに連れてきたのは、ちゃんと理由があってのことだ。無理矢理連れてきたみたいなことになって、すまない。」
・・・・・・別に神様だし、それぐらいのことをしても自分は何も問題ないとは思う。
自分が気になるのは、その理由と、自分が上司みたいな対応をされていることだ。
とりあえず、理由を聞くか。もしかしたら、上司的扱いの理由も分かるかもしれないし。
「とりあえず、連れてきた理由だが、それはあなたが金毛の九尾狐だからだ。1500年前に会った金毛の九尾狐、『飯綱』以来、ずっと金毛の狐を見ていないからな。」
「・・・それって一体どういうことですか?」
「1550年前に、人間の手によって金毛の狐はほとんど殺されてしまったのだ。当時、金毛の狐は相当強い力を持っていて、人間たちは危険と判断して、根絶やしにしたんだ。飯綱は何とか生き残っていたが、この世界にいるのは危険と感じて、今は天狐・・・・・・神の使いとして生きている。その飯綱から、伝言を預かっているいるんだ。『もし、私と同じ金毛の九尾狐に会ったら、渡してほしいものがある』と。」
そういって、アルテミスは自分に箱を渡した。大きさはあまり大きくはない。そして軽い。振ってみても、何の音もしない。・・・・・・空箱?
「開けていいですか?」
「いいんじゃないかな。」
箱を開けると、中には何も入ってなく、魔法陣が描かれていた。
「・・・・・・何ですか、これ。」
「ん、これは魔法陣か。少し離れた所に置くといいぞ。」
アルテミスの言った通りに、自分は箱を少し離れたところに置いた。
すると、箱の中から、白い光と共に、金毛の九尾狐が現れた。あれが飯綱か。
・・・なんていうか、立体機能の付いたプロジェクターみたいな感じだな。これも魔法の一種だろう。
まほうの ちからって すげー!
「・・・・・・聞こえるか。名も知らぬ金毛の狐よ。私は飯綱というものだ。一度しか言うことができないから、聞き漏らしの無いようにお願いする。大事なことだからな。」
「はーい」
「とりあえず、お主に伝えることは2つだ。1つは、お主自身が金毛の九尾狐だということを人間に知られてはいけないことだ。・・・・・・過去の人間たちから、おそらく今の人間達にも語り継がれているから、ばれたら確実に殺しにかかって来るわ。指名手配とかも普通にされるだろうから、絶対に気を付けて。」
「なるほど、人間の前でいつもの姿は見せてはいけないってことか。気を付けないと。」
「2つ目は、勇者の試練の役目をあなたに任せるということです。簡単に説明すると、打倒大魔王と言っている勇者にはいつかどこかで試練のことを聞くと思うので、挑戦を受けに来た勇者と戦うのです。ルールは簡単、相手が戦えなくなるまで戦い続けるのです。ただ、殺してはいけません。それで、勇者が勝ったときには、光の力を授けるのです。金毛の九尾狐だから、あなたの主属性は光のはずですし。受け渡し方は、アルテミスさんから聞いておいてください。時間はほとんどいらないので。あと、簡易覚醒のアビリティもアルテミスさんからもらっておいてください。試練の時はその簡易覚醒の状態で戦うのがルールのひとつなので。これで説明は以上です。・・・・・・頼みましたよ。私はもうこの世界に戻れないので・・・・・・。」
そうして、伝言を言いつくした飯綱の姿は消え、光も一気に収まり、箱の中の魔法陣もなくなり、ただの空箱だけが残っていた。
アルテミスは箱を片付けて、自分に外に出るように促した。
自分は神社の外に出た。アルテミスも自分を追うように出てきた。
そして、神社の境内で力の受け渡しの仕方について教わった。
ついでに、簡易覚醒のアビリティももらった。
Newアビリティ!
〇簡易覚醒・・・・・・自分を覚醒状態にする。力は本当の覚醒時の半分。
自分は早速、そのアビリティを使ってみた。すると、自分の姿はまるで大人みたいになっていた。高い身長、美しい長髪、豊満な胸、モデルのようなスタイル、そしてモフモフ度がさらに上がった9本の尻尾。まさに美しい妖狐である。
アリスにも見せてあげようかな。後ででも。
自分の体が一気にいい大人なスタイルになったことをアルテミスに見せようと思ったが、アルテミスは地面に伏している。
「あの、どうかしたんですか?」
「と、とりあえず・・・・・・元の姿に戻って・・・・・・。姿ならちゃんと見たから・・・・・・。」
自分は覚醒状態から戻った。それから10分ぐらいして、アルテミスはゆっくりと立ち上がった。
「はあはあ・・・。一瞬命の危険を感じた・・・・・・。あ、姿はすごく美しかったよ。あれこそ妖狐って感じが出てるね。」
「ありがとうございます。・・・・・・なんで倒れていたんですか?」
「覚醒スキル(空間の歪み&強力な瘴気)で。さすがに神様でもきついわ。本当の覚醒状態になったら、誰も勝てないんじゃないって思うよ、これ。」
(自分の)覚醒スキルの説明
空間の歪み・・・・・・自分以外の属性魔法効果半減。無効不可。
瘴気・・・・・・バトルフィールドが毒霧に包まれる。(毒の効果【麻痺+筋弛緩+ダメージ〔極小〕】)
・・・・・・アビリティは一度使うと、しばらく使えなくなるから、このスキルは試練の時か、どうしようもないとき以外は使わないようにしよう。第一、人のいる所で使ったら、大量に犠牲者を出してしまうし。
「ご苦労様。こんな神様のつまらないことに付き合わせちゃって。」
「いえいえ。別に。」
「明日、ここの村を出るんでしょう。もう夜も長くはないと思うから、早く帰って寝なさい。」
「はい。」
「あ、そうだ、ごめん。最後に一つだけ聞いてもいいかな?」
「何ですか?」
「紋章のこと、あなたが知っていることだけでいいから、聞かせてほしい。」
「紋章ですか、いいですよ。これは守り人の紋章です。イザベルさんと同じ紋章ですよ。」
そう答えると、アルテミスは表情を変えずに話をした。
「とりあえず、言えることが一つある。その紋章は守り人の紋章ではない。イザベルが勘違いしていたんだろう。」
自分はその一言にとても驚いた。驚きすぎて、思考回路が少しの間、止まった。
「じ、じゃあ、この紋章は何ですか?」
「・・・私の口からは言えない。この紋章のことは、神様達は口外してはいけないルールなのだ。ただ、大魔王なら知っているから、そこから聞くといいだろう。」
「わ、分かりました。・・・おやすみなさい。」
「・・・・・・。またな。」
自分は神社の鳥居をくぐり、階段を下りて、森を抜けて村に戻って来た。
森に通じる村の入り口には、メリノがいた。
・・・・・・どうやら気づかれていたようだ。こっそりと家から出たのが。
自分は隠れもしないで戻ってきていたので、メリノは村の方に来る自分をはっきりと見ることができていた。
「あっ、いた!何してたの?」
「ちょっと散歩に・・・・・・。寝付けなくて。」
「もー。それなら言ってくれればよかったのに。ヌバ、怒りながら探してるよ。こっそり出て行くから・・・。」
「・・・・・・それはやばそうだね。」
「とりあえず、私たちの家に帰って寝てていいよ。ヌバには私から伝えておくから。」
「あ、ありがとう。・・・・・・おやすみ。」
自分は、ヌバたちの家に戻り、寝た。
・・・・・・明日の朝は説教確定だな。この村を出て行くまで寝たふりしよう。