第十八話 そうだ、村に泊まろう。
自分は、馬を引き連れて草むらの外に出た。
そこには、あの女性はいなかった。あったのは、足跡だけだった。しかもご丁寧に、行先もしっかりわかるように足跡はあった。
自分はその足跡をたどっていった。
すると、足跡の終着点には、少し大きめの木箱があった。
その木箱からは、人の気配がする。多分、あの中に隠れているよね。あの木箱、震えているし。
・・・ス〇ークかな?
自分はそんなことを考えながら、木箱を持ち上げた。その中には、やはりあの女性が隠れていた。
その女性はすごく怖がっていた。顔はもう、絶望としか思えないぐらいの表情をしてた。
「あのー・・・」
「こっ、来ないでっ!命だけは許してっ!」
うーん・・・。どうしようか、この状況。何とか話ができる雰囲気にしないと、一向に事が進まないな。
というか、人間に化けているはずなのに、どうして怖がっているんだろう。もしかして、あのやり取りを全部見てたのかな。そうじゃなければ、怖がるはず無いし。
自分はとりあえず、人を襲う魔物ではないということを分かってもらうしかないと思い、彼女に説明しようとしたが、彼女は怖がって話を全く聞こうとしない。
・・・もう仕方が無い。脅そう。そうでもしなきゃ、話を聞いてくれない。
自分は目を尖らせ、声のトーンを相当低めにして、彼女に話しかけた。
「・・・いい加減にしなさい。これ以上騒ぐなら、喉を潰すわよ。」
その一言で、彼女は大人しくなった。怖がっているのは変わりないが。
とりあえず、自分は彼女に、馬車のことと、自分のことをちゃんと伝えた。すると、彼女の怖がる様子は無くなっていた。
「そ、そうだったの・・・。ありがとう。あと、あなたのこと、勘違いしてごめんなさい。さっきの鬼に襲われたのが怖かったから・・・。」
「いえいえ。別に気にしてませんよ。あと、変わり身が早いですね。」
「私は太陽島の北部に住んでいるの。そこでは魔物と人間が一緒に住んでいるの。危なくない種族だけなんだけどね。だから、こんな感じなの。」
「あ、そうなんですか。・・・・・・とりあえず、馬車返しますね。」
自分は彼女に馬車を返した。
自分はとりあえずやることはしたので、港町まで走って行こうとした時だった。
「あ、あの・・・。よかったら、馬車に乗ってく?歩いて行くのは結構大変だと思うよ。」
・・・うーん、どうするか。多分この馬車では一日はかかるだろう。早く港町に行きたいけど、食べ物とかの問題を考えると、乗って行った方がいいかもしれない。楽できそうだし。
「・・・じゃあ、よろしくお願いします。」
「よろしくね、狐さん。後ろの荷台のスペースで休んでいて。」
「あ、はい。あと名前はクラッセと呼んでいただければいいので。」
「うん、分かった。私はアリス・フェリス。アリスって呼んでね。」
自分は頷いて、荷台に入り、荷台のスペースに座り込んだ。・・・疲れていたのか、そのまま寝てしまっていた。
~暫くして~
「クラッセさーん。おーい、クラッセさーん!」
アリスが自分の体を軽くゆすりながら、自分に声をかける。
自分はその声に気付いて起きた。
「・・・う~ん。もう着いたんですか~?」
自分は眠たい表情のままでいる。アリスは自分を抱っこして荷台の外に連れ出した。
「・・・ここ、どこですか・・・?」
そこは、森の中だった。緩やかな風が心地よく吹いていて、前には何やら入り口みたいなものがあった。
ちなみに、時間は夕方ぐらいで、もう日が沈むぐらいの時間だった。
「今日はこの村に泊まるから、一応一緒に挨拶しなくちゃね。」
「ふぁ~あ・・・。だから起こしたんですか。」
自分は大きなあくびをして、地面に降りた。
そして、自分とアリスは村に入って行こうとした時だった。
「・・・誰だい?あたいの村にはいろうとしているのは。基本的に、部外者は立ち入り禁止にしてるってことは、商人なら知っているでしょ?」
後ろには、女性の弓使いと男が数人いた。獲物を持って。
アリスは何とか泊めてくれるように頼んでいるが、断られている。
・・・夜は魔物や盗賊団が出るから、商人はあんまり野宿はしない方がいいと言われてるらしいので、何とか泊めてあげたいと自分は思っている。
・・・実力行使でいけるかな。
「ねえ、本当に泊まらせてくれないの?」
「ええ。無理よ。他の村をあたってもらえるかしら。」
「じゃあ、勝負で勝ったら泊めてくれる?」
自分のその一言に、弓使いの女は表情を変えた。
そして、後ろにいた男たちと話し合った。
「・・・ちょっと待っていろ。長と話し合ってくる。」
そう言って、弓使いの女は村に入って行った。男たちは、自分たちが勝手に村に入らないように見張っていた。
~数分後~
弓使いの女が、長らしき人を連れて、戻って来た。
「・・・待たせたね。」
彼女の両手には、弓が2つ、矢が6本あった。どうやら、勝負をすることになったらしい。
弓使いの女は自分に弓と矢3本を渡した。
そして勝負は、50M先にある小さな的に先にあてた方の勝ちというもの。長が判定をするらしい。
先攻は自分だ。・・・弓なんて使ったことないからよく分からないな。
自分が構えに困っていると、村の人が教えてくれた。
・・・多分、当てなければ負けだ。相手は弓使いだし、このくらいの距離を外すわけがない。
緊張している自分を見て、アリスが話しかけてきた。
「だ、大丈夫?」
「ちょっときついね。追尾機能でもあれば・・・。」
・・・ん?まてよ。確か、自分の魔法弾には追尾機能がついてたような・・・。もしかして、魔法を込めればいけるかも!
自分は弓をかまえた。そして、矢に光魔法を込めた。そして、その矢を放った。
放たれた矢の角度は相当よく、魔法を使ったことがばれない程度の誤差で飛んで行って、そして、的に命中した。
見ていた村の住民たちは驚いていた。素人だった自分が当てているんだし、当然である。
すると、弓使いの女が怒ってこっちに来た。
「ちょっと。魔法を使うなんて卑怯よ。あたい、見てたから。」
「卑怯?なんでそう言えるんですか?ルールで一切そういうことは聞いてませんよ?」
「そ、そういう問題ではなくて!いいからもう一度・・・・・・」
怒る弓使いの女を、長が止めた。
「ヌバ、お主の負けじゃ。」
「で、でも・・・!」
「ちゃんと言わないお主が悪い。・・・この子の言う通りじゃ。」
「お、長さま・・・。うう~・・・」
落ち込むヌバを横目に、長は自分に話しかける。
「お見事じゃったのう。・・・さあ、村に入りなさい。旅の者よ。」
自分たちは長老に連れられて村に入って行った。
・・・村に入ると、とりあえず、村の中央に連れていかれた。
村の中央には、少し薄汚れた石像が、奉られていた。
「・・・これは何ですか?」
「これはな、この村の住民を襲った魔物の像なんじゃ。祟りに遭わないように祈ってほしいんじゃ。」
その石像は、明らかに動物ではない形をしていた。
・・・長老から話を聞くと、昔、この村の住民の一人がこの石像のような魔物に強力な呪いをかけられて、苦しみながら死んでいったらしい。みんなの目の前で。
呪いをかけられた人は、無駄遣い癖があったらしいから気を付けろ。と言われた。
そして、村の中央を後にして、自分たちは今日泊まる場所に案内してもらった。
その家は、いかにも民族的な家だった。
そして、この家から、あの弓使いの女、ヌバが出てきた。
「あ、長様・・・。」
「責任は自分でとるんじゃぞ。」
「わ、分かってますよ。ほら、さっさと私の家に入んな。・・・馬車はこの家の近くに置いときな。後でその馬に餌あげとくから。」
自分たちはヌバの家に入った。馬車は家の横に置いておいた。
・・・家の中は結構広く、一人で住むにはかなり大きい作りだ。
ヌバはとりあえず、自分達が寝るスペースを作ってくれた。
「・・・とりあえず、お前らはここで寝ろ。商人だから、寝袋は持っているだろ?」
「あ、はい。分かりました。・・・クラッセ、寝袋はある?」
「うん。」
「・・・今、ご飯作っているから、待っていろよ。・・・あと、ここにはもう一人、住んでいる奴がいるから、そいつが帰ってきてから自己紹介はする。」
そう言って、ヌバは調理場に行った。自分たちはとりあえず料理を待っている間、体を綺麗にすることになった。
「クラッセ、体拭いてあげるからこっち来て。」
「別にいいですよ。汚れていても大したことないですし。それに、自分一人でキレイにできますよ。」
「自分で?ちょっと見せてー。」
自分は回復魔法で体と服を綺麗にした。
アリスは驚いていた。さっきまで汚れていたのが一瞬でキレイになったもんだから。
「ね、ねえ。私にもお願い。」
自分は頷き、アリスに回復魔法をかけた。アリスの体はキレイになり、服の破れていたところはふさがっていた。
「すごいわね。やっぱり。」
そんなことをしていると、誰かの気配と足音がした。おそらくヌバが言っていた同居者だろう。
「ただいまー!・・・ってあれ?見掛けない人たちがいるね。誰?」
そう言っているこの子はブーメランを手に持っていた。どうやら、これが彼女の武器なんだろう。
「そいつらは、今日泊まっていく奴らだよ。まったく、インチキしやがって・・・。」
そう言いながら、ヌバは出来上がった料理を持ってきた。
・・・あの勝負のこと、やっぱり根に持っているのか。
「インチキって・・・あなたがちゃんと言わなかったせいじゃないですか」
「う、うるさい!あたいは負けてないからな!」
自分とヌバが口論しているのを、ブーメラン使いの娘が止めた。
「まあまあ・・・。そんな事よりも、ご飯食べようよ!・・・あ、私はメリノっていうの。よろしく!」
自分たちは、ヌバが作った料理を召し上がった。自分はアリスと、ヌバはメリノと話し合っていた。
そして、食後・・・・・・
「・・・とりあえず、おまえらがどんな奴かを教えてもらってもいいかい?」
「あ、はい。私はアリス・フィロ―といいます。太陽島から来た商人です。」
「ふーん。まあ、怪しいものは持ってなさそうだし、いいか。次はインチキ野郎だ。」
アリスは名前と出身を答えたけど、自分はどうしようか。嘘とかばれたら大変なことになるし、正直に話しておくか。・・・というか、インチキ野郎ってひどくね?
「自分は、ノワール・クラッセっていいます。・・・・・・魔物です。」
自分が魔物だということを伝えると、ヌバとメリノは自分の体をジロジロと見ていた。
そして、自分の体を触って確認しだした。
自分はくすぐったくて大声で笑っていたが、それを気にせずに自分の体を触り続けていた。
このままでは笑い殺されると思い、元の姿に戻った。
すると、ヌバは耳を軽く引っ張り、メリノは尻尾を引っ張った。
自分は引っ張られる痛さに耐えられず、大声を出すが、やはり二人は気にせず引っ張り続ける。
それを見ていたアリスは二人を止めてくれた。
「へー、妖狐は久しぶりに見たよ!すごいもっふもふだね!」
メリノは自分の尻尾をモフっている。ヌバはそれを冷ややかな目で見ていた。
「・・・ふん。狐ならインチキなんて、朝飯前よね。」
・・・まだ言うか。確かにそうではあるんだけど。
アリスはヌバに、あの石像のことについて聞いた。
「ねえ、あの石像の魔物って、どんな奴なの?」
それを聞いたヌバは鋭い目つきをして、アリスを見た。
「・・・・・・知らん。あたいが生まれる前のことだからな。だからといって、外に出るなよ。魔物に襲われても、あたいは責任を取らないからな。あと、もう寝るから寝袋の準備しておけ。」
アリスは寝袋を準備した。それを見て自分は、尻尾からメリノの手を放してもらい、寝袋をバッグから取り出し、準備した。
「じゃあ、電気を消すぞ。」
「おやすみなさーい!」
そうしてヌバたちは就寝した。アリスは自分と少しお話してから寝た。
・・・自分は寝ない。あの石像の魔物を見たいし。みんなが熟睡してからこっそり出るつもりだ。




