第十二話 四天王・たまも
「ん~。なかなか面白かったな。」
自分は今、闘技場を出て、広場から見える塔に行こうとしている。ラスクはまだ迎えに来てないから、こっちから迎えに行ってあげようと思って。
・・・何というか、試合は男たちが剣を振り回して戦っている感じだった。少し昔の格ゲーって感じ。見てて少し戦いがぬるい感じもしたが、普通の人間ならあれぐらいでいいんだよね。観客は大熱狂してたから。自分がゲームでマヒしてるだけなんだよね、これ。
そんなことを考えて歩いていた時だった。何やら塔の方で騒ぎが起きている。何があったのか。見に行って来よう。
自分は、全力疾走で塔の方向へ向かった。誰にも見つからないように。
「・・・ハァハァ・・・つ、着いた。・・・ハァハァ・・・何があったの、コレ・・・。」
自分は塔の前にやって来た。・・・塔の前には人が数十人倒れていた。その倒れてた人たちの中に、ラスクはいなかった。
「・・・見たところ、怪我をして気絶しているだけだね。とりあえず回復魔法で治しておこう。」
自分は少し力を溜め、そして塔の周りを範囲とする回復魔法を放った。塔の周りで倒れていた人たちの傷は、ほぼ一瞬で治っていた。ついでに壊れていた武器も元に戻っていた。
「これで良し。死んでなければじきに目を覚ますはず。・・・ここにはいなかったけど、ラスクさん、大丈夫かな。」
自分は心配しながら塔の中に入っていった。
~塔・1階~
「・・・とりあえず塔の中に入って来たけど、何も無いな、ここ。何の施設なのかな?」
そう言って奥の階段に進んでいる時だった。
「そこの子供!ここは通さないぞ!」
そう言って1匹の妖狐がどこからか来た。しっぽは二本、毛の色は白、忍者みたいな恰好をした妖狐が。顔や体格は子供っぽいし、そこまで強くはないだろう。
「上で何してるの?」
「お前には関係ない!」
・・・うーん。どうするか。もしラスクさんが上で魔物に襲われていたら大変だし、かといって妖狐とばれても後々問題になるし。
とりあえず選択肢は3つ。
①妖狐の姿に戻って、上まで行かせてもらう。
②とりあえずこの妖狐を倒して、上に行く
③外からよじ登って最上階の窓から入る
・・・①は駄目だね。相手のリーダー格に妖狐だと伝えられる時点でダメ。③も誰かに見られたら誰かに止められるだろう。それに対策とられてそうだし。
じゃあ、とりあえずこの妖狐を倒そう。あんまり力は出さないで。
「あのさ、どいて。上に行きたいから。」
「だ、駄目だぞ!上には行かせないぞ!」
そう言って、その妖狐は階段の行く手を阻む。・・・まあ、当然か。
「・・・言葉だけで済むと思ったら大間違いだよ。何を言われても自分は上に行かせてもらうから。」
「お、お前!魔物をなめるなぁ!いくら子供でも容赦しないぞ!」
・・・うーん。そんな事言われてもなあ。頭と腕以外は全く動いてないし。なんか可愛いな。
「だって全然怖くないし。なめられても仕方が無いと思うよ。」
「・・・う、うわあああああああん!た、たまも様に言いつけてやる!お前なんか、たまも様の手にかかればお前なんてすぐにボッコボコにできるんだからな!」
そう言って、その妖狐は泣いたまま階段を駆け上がって行った。
「・・・メンタル弱いな。あの妖狐。・・・ん?これはさっきの妖狐が落とした物かな?鍵みたいなものだけど。一応拾っておくか。」
自分は落ちてた鍵みたいなものを拾い、ポケットに入れて、階段を上がって二階に行った。
~塔・二階~
「・・・なにこれ。」
二階には妖狐ではなく普通の狐がいた。何百匹単位で。しかも全員こっちを睨んでいる。おそらく階段に近づいたら一斉にとびかかって来るだろう。
「さて、これはどうしたらいいのかな。自分が強いってことを表せば通してくれるかな?」
「帰れ」
「えっ」
・・・そういえば言語翻訳があったね。しかもLv10。普通にこういう動物にも耳を傾ければ話をすることもできるのか。便利だ。
「・・・帰れと言ったんだ。」
「じゃあ、これで通してくれるかな?」
そう言って自分は九尾の狐の姿に戻った。そうすると、ここにいた狐たちは明らかに動揺していた。自分に『帰れ』と言っていた狐は、顔が青ざめていた。
「通してくれるよね。」
「は、はいぃ・・・。」
狐たちは、階段までの道をあけてくれた。自分は人間に化けなおして、静かに階段を上った。
~塔・最上階~
「ここが最上階かな。・・・誰かいるね。」
そこにはさっき一階で会った妖狐と、和服を着た、赤っぽいオレンジ色の毛をした九尾の狐がいた。
「・・・うちの妖狐がお世話になったみたいじゃのう。」
そう言ってきた九尾の狐は自分よりも少し背が高いぐらいだったが、明らかに子供ではないことは分かった。雰囲気で。
「まあ、はい。精神的にボコボコに。」
「・・・お主、儂が誰だか分かっているのか?」
「たまもさんですよね」
「そうじゃ。四天王のたまもじゃ。」
「四天王?」
「・・・お主、そんなことも知らんのか?」
「田舎者だしね。」
「・・・この世界の全員が知っておるぞ。四天王の事は。たとえどんな田舎者でも。」
「そうですか。まあ、そんなことどうでもいいか。ラスクさんはどこですか?女の騎士なんですが・・。」
「いや、女の騎士などいなかったぞ?それと、四天王をどうでもいいもの扱いは少し許せんのう。」
「あ、いないならいいんです。じゃあ失礼・・・」
「待て。」
そう言って、たまもは自分の左手首を強くつかんだ。
「なんですか?まだ何か話でもあるんですか?」
「お主、まさか儂から逃げれるとでも思っているのか?」
「まさか、自分を人質にする気ですか?」
「まあそうじゃ。お主がラスクの名を出したからな。」
「・・・どういうことですか。」
「なに、そのうち本人から話は聞けるじゃろう。知り合いなら。・・・あと、儂の手を振り払おうとしても無駄じゃぞ。明らかな力の差があるからな。」
・・・本気でパワーを出して振り払おうとしても、びくともしない。すごい力だ。
そして、たまもは外を見て、自分にこう言った。
「・・・どうやら、来たのではないか?お主が探していた人が。」
たまもがそう言うと、階段を勢いよく駆け上がって来る音が聞こえた。そして、ラスクと団長が息を切らしてここに来た。
「・・・やっと来たか。先客がもういるぞ?」
たまもはそう言いながら、自分をラスクと団長に見せつけた。二人は動揺を隠せなかった。
「えっ、な、なんであなたがここに・・・」
「ラスク。お主が心配でここに来たらしいぞ、こやつは。・・・無事に返してほしければ、儂の要望に応えることじゃ。」
「要望・・・どんな内容かしら。」
「イザベルの道具を儂にすべて渡してもらう。・・・簡単じゃろ?」
「ぐっ・・・そ、それは・・・。」
「嫌なら今すぐこやつの首をへし折ってもいいんじゃぞ?」
そう言って、たまもは自分の首に腕を回した。そうすると、ラスクは慌てて止めようとした。
「そ、それだけはやめて!」
「じゃあ、大人しく儂の要望に応えるのか?」
「わ、分かったわ。イザベルの道具なら広場に全部あるわ。全部持っていくなら持っていきなさい。だから、今すぐその子を・・・」
「・・・まだじゃ。ちゃんと本物があるかどうか確認してからじゃ。偽物を入れておいたなんて小細工はさせん。」
「わ、わかったわ。・・・早く迎えに行っていればこんなことにならなかったのに・・・。」
ラスクはショックを受けて、うなだれていた。団長はたまもの動きに注意して、なんとか自分を助け出そうと様子をうかがっている。・・・たまもの話を聞いていたとは思えない行動だな。
・・・こうして、自分とたまも達は広場に行った。ラスクたちも心配でついて来ようとしていたが、たまもが『ついて来ないで』的なことを言っていたので、塔に残ったままにされていた。