第十一話 ラスクさんはすごい人
「ほら、ここよ。いっぱい出店があるでしょう?」
「ほんとだ。いっぱいある。」
今、自分とラスクは町の中心の広場に来ている。広場の中心には噴水があって、その周りには、いろんなところから来た商人たちの出店があった。
ただ、この町は中世ヨーロッパ的な感じの町並みで、ゲームセンターとかそういった娯楽施設は一切ない。出店にも携帯ゲームとかなさそうだし、この世界にはゲーム機は無いのだろうな。・・・ああ、ゲームのこと考えるとやりたくなってくる。
少し悲しげな顔をしてそう思っていると、ラスクが話しかけてきた。
「・・・どうしたの?もしかして思っていたのと違った?」
「いや、そういうわけではないですよ。楽しみにしてますよ。どんな店があるのかって。」
「それならよかった。じゃあ、早速見に行こうか!」
「はい!」
・・・今、ゲームのことを考えていても仕方ない。とりあえず今は祭りを楽しもうと思う。魔物だとばれないように。
まずは目の前にあった店に入ってみた。
「いらっしゃい。・・・ん?ラスクさんじゃありませんか。」
「あら、今年も来てたんですね、探検家さん。今年は何を売っているんですか?」
「今年はね、凄いものが手に入ったんだよ。とんでもない剣が。」
「とんでもない剣?どんなの?」
「自分も見てみたいなー。」
「ん、その子は知り合い?」
「ええ。親戚の子よ。かわいいでしょ。」
「ああ。かわいいな。・・・そんなかわいい顔してるから、サービスで見せてあげる。ほれっ。」
その探検家は、両手で剣を持って、自分たちに見せた。
・・・その剣はすごくおどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。少しでも触ると呪われそうな雰囲気が。
「な、なんか不気味ね。確かにすごいわ。」
「・・・これ欲しい。」
「え。ちょ、ちょっと待って。あれ欲しいの?」
「うん。買って。」
「でも、持ち歩くの大変よ。辺りの人にもじろじろ見られそうだし・・・。」
「おじさん。祭りが終わってから届けに来てくれますか?」
「だ、駄目よ。第一買えるかどうかも分からないのに。」
「うう~。おじさん。それ欲しいよ・・・。」
自分は泣き目で訴える。すると、おじさんは、同情してくれた。
「・・・ラスクさん。これ、あげるよ。こんな剣、気持ち悪がって買ってくれる人いないと思うからさ。それに、祭りが終わった後に持っていってあげるからさ。」
「ありがとう!探検家さん、だーい好き!」
「す、すいません。なんか気を使わせちゃって。」
「いいよ。他にもたくさん掘り出し物あるし。お嬢ちゃん、その剣で魔物をどんどん退治していってね。」
「はーい!」
・・・自分、魔物だから退治するのは人間になるかもしれないけど・・・。というか、この剣なんか気になる。他の人の手に渡ると嫌な予感しかしない。だから、買ってもらうことにした。・・・結果的にただでもらえたけど。
子供の姿だと多少の無理がきく。便利だ。今日はおねだりしまくるか。
そう考えながら、この店を出た。
「さてと、次はどこに行く?」
「じゃあ、楽しそうなところ!」
「ええ。じゃあ、あそこはどうかしら?」
そう言ってラスクが指を指したのは闘技場的な場所だった。行ってみると、中にはたくさんの人で賑わっていた。
それを見てわくわくしている自分に、ラスクが少し申し訳なさそうに話しかけてきた。
「・・・ごめん。しばらくは一人でいてもらえるかな?私、これから大事な仕事があるの。ここらへんで待っててくれれば迎えに来るから。」
「うん。分かった。待ってるね。」
「・・・もしお金が必要なら、私の名前を言って、後払いにしてもらって。じゃあ、行ってくるね。」
「またあとでね。」
ラスクは町の中央から少し離れた塔に行った。あまり高くはない塔に。
「・・・さて、とりあえず、試合を見てるか。これから始まるらしいし。」
~5分後~
「これからバトル大会を行う!優勝者には豪華な物やお金がもらえる!参加者どもよ。全力を尽くして、なおかつ、フェアプレーで頑張りたまえ!」
「オー!!」
・・・どうやら始まったみたいだ。観客たちのワクワクもすごいことになってきている。みんなが立っているせいで、何も見えない。
自分は大人たちの間をすり抜け、一番前まで来た。
「ここならよく見えるね。・・・ん?」
後ろを見ると、警備員らしき人が自分の肩を叩いていた。そして話しかけてきた。
「ねえ君。前は招待席だから、駄目だよ。ほら、後ろに戻って。」
「・・・後ろだと見れないんです。背が低くて。」
「付き添いの大人は?子供が一人で入っちゃだめだよ。ほら、出口までおんぶしていってあげるからね。」
「いや、ラスクさんがここで試合を見ながら待っていてほしいって言われたんで・・・。」
「・・・君はラスクさんの親戚なのかい?」
「はい。ここに迎えに来るって言ってましたし。」
「・・・そうか。分かった。でも、ここは招待席だから。別の場所で見ようか。試合がよく見れる場所ならほかの場所にもあるから。」
「ありがとうございます。」
自分は警備員の騎士におんぶしてもらって、連れて行ってもらった。
・・・ラスクさんの名前だしたら態度が急変した。もしかしてラスクさんってすごい人なのかな。後で聞いておこう。
こうして、自分が連れて行ってもらったところは、判定席の近くだった。確かによく見える。
「・・・ここなら、安全だし試合もばっちり見れるだろ?」
「はい、ありがとうございました。」
「じゃあ、俺は警備の仕事に戻る。」
「頑張ってください。」
・・・警備員の騎士は走って観客席に戻って行った。
その直後、判定員は自分に気づいた。
「・・・君は?もしかして迷子かい?ここは一般客は立ち入り禁止だよ。」
「あの、ラスクさんが・・・」
「ら、ラスクさん!?もしかして、親戚かなにか?」
「はい。試合を見てて待っててって言われたので。」
「そ、そうかい。じゃあ、あそこにあるイス持ってくるから、ちょっと待っててね。」
そう言って、どたばたと色々、準備してくれた。イスだけでなく、お菓子やら、ジュースやら。
「・・・別にそこまでしなくてもよかったんですけど。自分はお姫様でも何でもないただの少女なのに。」
「い、いや。ラスクさんの親戚なら、これぐらいしてとかないと。じゃあ、次の試合始まるから、ゆっくりしていってね。そこの人に言ってくれれば、ジュースやお菓子のおかわりくれるから。後はお願いね、女騎士さん。」
「はい。了解しました。」
判定員は元の場所に戻って行った。そして、自分はイスに座って、試合を見ながら、ラスクさんの事を考えた。
・・・ラスクさん。相当すごい人なんですね。親戚ってだけでこんなVIP待遇されるとは。もしかしてあの探検家さんも、ラスクさんがいたから自分のわがままに応えてくれたのかな。子供のふりすればいいとか思ってた自分が恥ずかしいです、ほんとに。