第一話 転生の部屋
自分は今、白い部屋にいる。どこを見わたしてもあるのは白い壁。なぜ自分はこんなところにいるんだろうか。
自分の記憶をたどってみよう。
①家からコンビニに歩いて行った
②コンビニで夜食を買った
③その帰りに車にひかれた
④気を失った
⑤真っ白な部屋にいる ←今ここ
・・・④と⑤の間にいったい何があったのか。少なくとも自分は悪いことをした覚えはない。それなのにどうして自分はこんな密閉空間に閉じ込められているのか分からない。まさか自分の親の仕業か。あんな酷い親ならばやりかねないだろうし・・・
そのようなことを考えていると、どこからか声が聞こえてきた。
「目は覚めましたか?」
・・・なんだろう。この不思議な声は。もしかしてこの声の主は自分を閉じ込めた犯人なのか、またはその仲間か。どちらにしろ聞きたいことは山ほどある。教えてくれるかどうかは分からないが、聞いてみよう。
「ここはどこだ?なぜ自分をここに閉じ込めた?何の目的でだ?そしてお前は誰だ?」
「・・・あの、質問をいっぺんに出されても・・・とりあえず一つずつ答えますね」
そう言って声の主は話し続ける。
「まず、ここは死んだ人しか来ることのできない場所です。」
「えっ、じゃあ自分は・・・」
「死んだんです・・・非常に残念ですが」
「自分が死んだ」――その言葉に大きなショックを受けて呆然としてしまった。体は力が抜け、まともな体制でいられなくなり、頭の中ではパニックを起こしていた。
声の主は心配になり自分に話しかける。
「・・・あのー、次の話をしても大丈夫でしょうか」
話しかけられた瞬間、呆然としていた自分は少し驚き、動揺しながら話を聞く体制をとった。
声の主は話を再開した。
「次に、ここに閉じ込めた目的ですが、まずこの部屋の説明をした方がいいと思うので先にそっちの話をしてもよろしいでしょうか」
「・・・はい」
自分は返事をして頷いた。
「この部屋の名前は転生の間。名前の通り転生を行うための部屋です。」
「じゃあ目的って・・・自分を転生させるためにここに・・・」
「その通りです。転生するまでここから出れません」
「どうやって転生するんですか?もしかして姿や種族はランダムに決まるんですか?それとも診断みたいな感じで自分に合った種族になれるんですか?もしかしてゲームみたいなものでポイント稼いで・・・」
「あのー、その話は手順ごとに説明を入れるので・・・あと私の名前はミグラション・トランス、転生の神様です。あなたの好きな呼び方で結構です。」
「・・・ミグさん、転生の手順を教えてください。」
「はい、じゃあ準備をするので少し待っていてください。」
・・・転生って、本当にどうするものなのか。自分はすごくワクワクしている。準備するといっていたし、やっぱりゲームかなにかするのだろう。自分はゲームが大好きだ。ゲームセンターには毎日行っている。家にもゲームはたくさんある。毎日ゲーム三昧の生活でとても幸せだったなあ・・・でも転生したらゲームはあまりできなくなるだろう。それどころかゲームが転生した世界にあるのかどうかも・・・
まあ、そこは祈っておく。神様に。
そんな事を考えていたら、目の前にテーブルとイスがあらわれた。
「イスに座って待っていてください。ずっと床に座らせていてお尻が痛いかなと思ったので。」
ミグの言葉に自分は頷いてそのイスに座った。もちろんテーブルはイスに座った時に自分の体がゆったりできるぐらいのスペースで置かれていた。そしてそのテーブルの上には何種類かのおやつが置いてあった。見慣れないものだったが。
おそらく食べて待っていてほしいと思ったのでそのお菓子の入ったお皿の中から飴玉みたいなものをとって口に入れた。
「・・・美味しいなこれ・・・不思議な味だが・・・」
そう言って飴玉みたいなものをなめていると、ミグが、
「準備が出来ました。これから転生の手順を説明します。」
・・・あれ、準備が出来たと言っていたがここにはイスとテーブルとお菓子以外の物はない。何の準備だったのか。
そう心の中で思っていると、テーブルに一枚の白紙があらわれた。
そして、ミグはこう言った。
「その紙にはあなたがこれから決める転生後のプロフィールが記されます。破ったりしないでくださいね。」
・・・なるほど、準備していたのはこの紙だったのか。時間がかかっていたが、この紙には何か凄い魔術とかでもかけていたのか。・・・いや、神様だしまた違った能力だろう。うーん・・・
そんなゲームのキャラクターみたいな感じで神様の能力を考えていると、
「あのー、説明を始めますよ、何か困る事でもあるんですか?」
「いえ、大丈夫です」
自分はそういいながら姿勢を正した。
・・・本当のことを言うと今までやってきたゲームができないことが凄く困るんだよなあ。
こうして転生の手順の説明は始まった。
「・・・まず種族を決めます。あなたのなりたい種族は何ですか?」
「ゲームをまともにできる種族なら何でもいいです」
・・・そう、たとえ異世界であろうともゲームができればそれでいい。自分が楽しく生きていければ。
しかし、ミグはこう言ってきた。
「い、いや・・・そういうことではなくて、種族名を言ってほしいのですが・・・例えば、『人間』とか」
「じゃあ、ミグさんのおすすめはなんですか」
「おすすめですか・・・まずあなたの希望を聞くとやはり人間が一番でしょうね。人間以外であなたのようにゲームに執着している人外がいる世界なんて指で数えられるくらいですよ」
「・・・そこを神様の力でなんとかできませんかね。人間には転生したくないもので」
「ゲームでいうランダム要素ですよ。私たちにもどの世界に行くのか分からないので。」
まさかここで運要素が必要になってくるとは思いもよらなかった。それに自分は運ゲーは大の苦手だ。勝てたことはほとんどない。その上、ミグの話を聞くとおそらく、確率は1%にも満たないと思う。『世界』なんて沢山あるだろうし・・・
自分がひどく困った顔をしていると、ミグが話しかけてきた。
「おそらく、あなたの二つの希望のどちらかを妥協しないと一生先へ進めないと思いますよ。さあ、選んでください。『人間になる』か『ゲームを諦める』かを。三分以内で」
・・・この質問は他人にとっては普通に答えられると思うが、自分の親を見て人間として生きていくのがとても辛いという感情をずっと持っていなければならないことと、今までずっとを愛し続けてきたゲームと二度と会うことができないことの二つのどちらかを選ばなければならない自分にとっては相当、苦渋の選択を強いられる。
しかし、決断のときが来てしまった。
「あなたの答えを聞きましょう」
「じゃあ、ゲームを諦めます・・・。」
小さな声で、ぼそぼそと、不満げにそう答えた。
・・・なぜゲームを諦めたのかというと、もしかしたら自分の手でゲームを作り、ひろめることができるかもしれないという可能性を思いついたからだ。人間になってしまったらもう変えれないし。
ミグが軽く息を吐いて、話し出した。
「・・・これで先に進めそうですね。結構時間がかかりましたが。」
「人間以外のおすすめは何ですか」
かなり時間をかけてしまったので、ついつい先走って言ってしまった。
「そうですね・・・。強さ重視なら、吸血鬼、ドラゴン、ラミア系統、妖狐などがありますが・・・。」
「じゃあ、妖狐でお願いします。」
「わかりました」
ミグが了承したとき、今まで何も書かれていなかったあの紙に、文字が記されていた。
『種族; 妖狐 』 と。
そしてミグはさらに話を続けた。
「種族が決まったところで次にスキルを決めます。今からそこにもう一枚、紙を送るので、それを見て決めてください。」
その声が聞こえた直後に、もう一枚の紙が目の前にあらわれた。
その紙に書いていた内容は、沢山のスキルだった。
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:スキル一覧
気配感知 化け力 契約魔法 心聴術 言語翻訳 言語解読 嗅覚強化 視覚強化 魔力強化 回復魔法 火魔法 水魔法 風魔法 光魔法 闇魔法 火属性耐性 水属性耐性 風属性耐性 光属性耐性 闇属性耐性 毒耐性 封印耐性 呪い耐性 魔法耐性
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自分は紙を一通り見て、こうつぶやいた。
「・・・スキルだけでこんなにあるんですか。」
「Lv1~10までの範囲で自由にスキル取得できますよ。ただし、あなたの所持ポイント以上の取得はできませんが。」
「所持ポイント?」
「はい。あなたは今、3000ポイントあります。」
「なるほど、じゃあ選ぶので、少し待っていてください。」
「わかりました。終わったら呼んでください。」
自分はゲーム感覚で、スキル取得をしていった。とても楽しそうな顔で。
~20分後~
「ミグさーん、終わりましたよー。」
「はい、仕上がりはどうですか?」
「いやー、完璧ですよ!」
そういいながらプロフィールをテーブルの上に置いた。
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種族; 妖狐
スキル;
気配感知 Lv4 化け力 Lv10 契約魔法 Lv5
心聴術 Lv2 言語翻訳 Lv10 言語解読 Lv10
嗅覚強化 Lv5 視覚強化 Lv8 魔法強化 Lv10
回復魔法 Lv10 火魔法 Lv5 水魔法 Lv5
風魔法 Lv5 光魔法 Lv10 闇魔法 Lv3
全属性(火・水・風・光・闇)耐性 Lv9 毒耐性 Lv10
封印耐性 Lv10 呪い耐性 Lv10 魔法耐性 Lv10
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プロフィールを見て満足げにしている自分にミグが話しかけてきた。
「あの、次にアビリティの説明をしたいのですが・・・」
自分はその言葉にうなずき、興奮を少し抑え、話を聞く体制をとった。
「では、説明しますね。アビリティというのは、自分でつくる能力です。例えば、攻撃力上昇とか」
――自分でつくる能力。そう聞いただけでもう興奮が止まらない。
「あっ、あの!もうつくってもいいですか!」
「ま、待ってください!まだ説明は終わっていませんから!」
ミグは興奮する自分を声で抑え、説明を続ける。
「アビリティは三つまで所持可能です。ただし一つずつしか使えません。そして一度使ったアビリティーは少しの間使えません。そこに注意してください。・・・作っていいですよ」
ミグがそう言った直後に自分はアビリティを考え始めた。楽しそうな顔をして。
「やっぱり攻撃系かなあ・・・いや、防御系も捨てがたいし・・・」
そんな感じの独り言を少しの間、言い続けていた。
~10分後~
「決まりました」
「はい。何にしましたか?」
「防御半貫通、ダメージ50%カット、引っぺがし、この3つで」
「わかりました、では最後に身体ステータスを決めたいと思います。」
「バランス型にできますか?偏ったステータスだと弱点が出てしまいそうなので」
「はい。できます。」
「なら、それでお願いします。」
「わかりました」
話が止まった直後、目の前のプロフィールに目を向けた。
・・・最初は真っ白だったこの紙も、いまや立派な自分のプロフィールとなった。今までに決めた自分のステータスやアビリティが全部記されてある。何か間違いがないかを確認しようとして、それを持って見ようとした瞬間に消えてしまった。
「!?」
「あ、ごめんなさい!このプロフィールはすぐに上司に出さないといけないので!」
「いえ、大丈夫です」
「あと、転生の準備は完了したので、行く覚悟が出来次第、私に伝えてください。」
「・・・今すぐにでも大丈夫ですよ」
「それなら、目をつぶったままでいてください。いきますよ、ハイ!」
ミグの『ハイ!』と同時に、不思議な感覚が体中にはしり、自分の意識はなくなった。
・・・本当に大丈夫なんだろうか。異世界での生活。自分のステータスはゲーム感覚で決めてしまっていたし、第一に他人と仲良くできるのかな。友達なんて一人もいなかったし。
そんな不安を抱きながら、自分は異世界に転生していった。




