おちんちん取れちゃった
ゆうじくんはテレビの前にぺたんと座り夢中になって観ていました。すると、おかあさんがやって来て、
「こら、ゆうじ! またおちんちん触ってる」
ゆうじくんは、はっとして手を腰の後ろにまわします。
「触ってないよ、前に組んでただけ」
「いじってるとそのうちに取れちゃうんだからね」
おかあさんは畳んだ服をタンスにしまうと部屋を出ていきました。
「はあい」
その背中に向けて、ゆうじくんは気のない返事。
『おちんちんが取れるわけないよ』
テレビを観ながら考えていましたが、でも、ちょっぴり心配にもなりました。
次の日の夜でした。ごはんをお腹いっぱいに食べたゆうじくんは今日もテレビを観ていました。おかあさんに注意をされて気をつけてはいたけれど、それでもテレビに夢中になると、いつのまにか手が前の方にのびてしまいます。すると、そのとき。
『あれれ、なにか変だぞ』
ゆうじくんは何かがおかしいと感じていました。
『なんだろう、なんだろう』
もう、テレビどころではありません。いっしょうけんめい考えますが、それが何かは分りません。そうしているうちに、やっとおかしな正体に気がつきました。前がぺたんとしていたのです。
「うわあ⁉」
ゆうじくんは後ろにのけ反って驚き声をあげました。
「おちんちんが、ぼくのおちんちんが無くなってる⁉」
パンツを両手で引っ張って中を覗いてみると、そこにあるはずのおちんちんは消えていて、つるーんと何もありません。もうゆうじくんの頭の中は真っ白です。
「ぼくの……ぼくのおちんちん……どこ行っちゃったの?」
そのときです。
「ねえ、ねえ。ゆうじくん」
背中越しに誰かが呼びます。はっとして振り向くと、そこにはゆうじくんのおちんちんが立っていました。いつも見慣れた、さっきまで体にぶら下がっていたおちんちんです。彼は返事も待たずに一方的にしゃべり続けます。
「君はさあ、いつもボクをいじるだろ。あちこちべたべたと触った汚れた手でもって、くねくね、くにくにといじりっぱなし。手がバイキンだらけだってお構いなしじゃないか。お母さんに何度注意されたって止めようとはしないしね。これじゃあボクはたまらないよ、そのうち病気になっちまう。だから、そうなる前に君とはさよならすることに決めたのさ。今までどうもありがとう。それじゃあ君も元気でね」
言いたいことを言い終わると、彼はぷいっときびすを返し、ちょこちょこ、すたすたと部屋を出て行ってしまいました。
「ま、待ってよ。戻って来てよ」
引き留めようとしましたが腰が抜けて立ち上がれません。その場に座り込んだまま、どうすることも出来ず泣きながら呼びかけるばかりです。
「ごめんよ、ごめんよ。もういじったりしないから帰ってきてよ。えーん、えーん」
「……ゆうじ、……ゆうじ。どうしたの。ゆうじ」
肩をゆさゆさと揺すられてゆうじくんは目を覚ましました。おねえちゃんが心配そうに見ています。
「ん……ん。あれ? おちんちんは?……」
「なに言ってるの。こんなとこで寝てると風邪ひいちゃうよ」
どうやらテレビを観ながらうとうととして、そのまま寝てしまっていたようです。はっと思って前に手をやると、そこにはいつもの感触があって、ゆうじくんはホッとしました。
「あんた寝ながら泣いてたの? 顔が涙でぐしゃぐしゃだよ」
おねえちゃんはあきれ顔。ゆうじくんはなんだか照れくさくなりましたが、ふと頭に浮かんだ疑問をおねえちゃんに聞いてみました。
「ねえ、ねえ。おねえちゃん」
「ん、なによ」
「おねえちゃんのおちんちんは、どうして逃げちゃったの? やっぱりいじりすぎたから?」
「ばかっ!」
おねえちゃんはゆうじくんの頭をパシンとはたくと、何故か顔を真っ赤にして部屋から出て行ってしまいました。
ゆうじくんはその後姿を唖然とした顔でながめながら、もういちど前を、今度はそっとやさしく触れてその感触を確かめました。
『いままでごめんね、ぼくのおちんちん。もう逃げたりしないでね』