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009 噂

「これで全部か?」


「多分」


「まあいいだろ」

 

 二人は素材を剥いだあと、そのゴブリンの魔石を集めていた。

 100を超える魔石が河原に転がっているのだ。

 いくつかは見逃しても仕方がないという精神で、二人は回収を切り上げる。


「行くぞ」


「あい」


 よいしょと、テトは素材と魔石でふくらんだカバンを持ち上げる。

 かなりの重量となっているはずだが、テトはそれを感じさせないほどに軽々と持ち上げた。

 そのまま背負い、ファルマの後ろにつく。


「その身体でよく持てるな」


 あまりにサイズ感が違うため、ファルマは思わずつぶやいた。


「結構軽い」


「ずいぶんと優秀な荷物持ちだ」


「照れる」


 二人は来た道を引き返す。

 もうさすがにこれ以上のゴブリンを狩ろうとは思わなかった。


◆◆◆

 日がすっかり暮れた頃、二人は街まで戻ってこれた。

 もう夕食時で、飲食店や酒場は忙しそうだ。

 飲食店の香りに釣られてふらふらと近づいて行ってしまうテトの襟首を掴み、ファルマがギルドへと向かう。

 

 ギルドの中は、昼間よりも活気があるように見えた。

 酒を飲んでいる者が多く、騒がしいのが原因のようだ。

 そんな中でも幸いなことに、クエスト管理の受付嬢のカウンターが空いている。

 ファルマはそこでギルドカードを提示した。


「依頼完了の報告に来た」


「かしこまりました。ギルドカードをお借りしますね」


 ギルドカードを受け取った受付嬢は、カードに水晶をかざす。

 すると水晶は光り出し、何行かの文字を浮かび上がらせた。


「ゴブリン討伐依頼ですね、討伐数は――――え?」


「……どうかしたか?」


「ひゃ、113匹……です」


 驚いた様子で、受付嬢は言った。

 ファルマは「まあそんなものか」と言った様子で、すまし顔である。


「何か問題あったか?」


「い、いえ! 何の問題もございません!」


 受付嬢は慌てた様子で、依頼の内容を確認する。


「この依頼での報酬は、ゴブリン一匹につき500Gですね。よって報酬は56500Gとなります……すごい料金ですね」


「そうなのか?」


「本来この依頼は、新米冒険者や、少しだけお金に困っている冒険者が受けてくださる依頼なんです。その人たちでも、多くて15匹くらいですし、これだけの討伐数は初めてなんですよ」


 少々お待ち下さい――――そう言って、受付嬢は一度カウンターの奥へ引っ込む。

 しばらくして、膨らんだ袋を持った受付嬢が戻ってきた。

 

「56500Gです、ご確認ください」


「ああ」


 袋を受け取り、中を覗き込む。

 金貨と銀貨が光っており、確かに言われた金額分はあるようだ。

 

「確認した、また来る」


「はい、お疲れ様でした」


 受付嬢は頭を下げて見送る。

 その場から離れたファルマは、次に素材や魔石の換金カウンターへと向かった。


「素材、魔石の換金ですか?」


「ああ、テト」


「あい」


 換金所の受付嬢に、テトの背負っていたカバンを渡す。

 渡すと言っても持てるわけがないので、向こう側の床に置いただけだが。


「確認しますね――――って多!?」


 カバンの中の大量のゴブリンの素材を見て、思わず受付嬢も素になってしまっていた。

 引きつった顔を上げると、受付嬢は「少々お待ち下さい」と言って別の受付嬢に話しかけに行く。

 どうやら一人で見きれないということらしく、鑑定には二人で当たるようだ。

 ちなみに、ファルマは知らないが昼間の素材たちも裏で数人がかりで鑑定している。

 ある意味、相当迷惑な冒険者だ。


「鑑定にはしばらくかかりそうなので、食事がまだでしたらその間に済まされてはどうでしょうか?」


「そうか」


「ご飯」


「……そうだな、先に夕食を済ませるのもいい」


 受付嬢はそれだけ伝えて奥に引っ込み、ファルマははしゃいでいるテトとともにギルド内を少し歩く。

 ギルドでは、酒の他に食事も出来るようになっている。

 他の飲食店に行く選択肢もあるが、ファルマはそこまで手間をかけるつもりは一切ない。

 

 適当な位置で空いている席を見つけ、二人で座る。

 酒を運んできた受付嬢に声をかけ、二人分の食事を頼んだ。


「美味い」


「そうか」


 笑顔で肉を頬張るテトに対し、ファルマは関心がなさそうに食事を口に運ぶ。

 確かに美味いのかもしれないが、ファルマはあまり味を感じない。

 いつの間にかそうなってしまっていたようで、そのときから食えればなんでもいいという考えである。


「ご飯美味しくない?」


「分からない。そんなに美味いのか?」


「美味しい。温かいから」


「お前の基準はそこだけなのか……」


 さすがのファルマでも、その発言には同情を隠しきれなかった。

 

「マスターは温かいご飯をくれる。優しい。ついて行く」


「そんなもんでいいなら、いくらでもくれてやる。だからしっかりと働けよ?」


「ふぁい」


「食いながら喋べるな」


 テトはボロボロと口からこぼしながら返事をする。

 不快そうな顔をしつつ、ファルマは布を渡した。


「おい兄ちゃん! あんた昼間ゴリをのした男だろ?」


「……何だお前は」


 そんな二人の席に、図々しく一人の冒険者が座ってきた。

 見た目は若いが、その無造作に伸ばされた髪や使い古された装備が、いかにも冒険者という風貌である。


「俺はキースってもんだ。C級の冒険者やってる。よろしくな!」


「……ファルマだ。ランクはF」


 キースが差し出してきた手を、ファルマはしぶしぶ握る。

 ここで『呪い』をかけておこうかと考えたファルマだったが、『身代わり人形』をかけた相手は背中に魔法陣が浮かび上がってしまう。

 目立つものではないが、あまりに魔法陣をつけた人間が増えれば、さすがに異常に気づく者が現れるかもしれない。

 そうなれば、大々的に『呪殺士』の存在が広まってしまう。

 いつかは広まるだろうが、今ではない。

 もう少し、力をつけてからだとファルマは考えている。


 というわけで命拾いをしたキースは、酒を頼みつつ話し始めた。


「Fであれかよ、今時の新人はこえぇな」


「何だ、話ってのはそんなことか? だったら邪魔だぞ」


「いやいや、それだけなわけないじゃん!」


 キースはファルマの肩をバシバシと叩く。

 ファルマはすぐに理解した。

 この男は自分とは相容れない存在だと。


「まあ話っていうのはだな」

 

 そう言いつつ、キースは届いた酒を飲む。


「はーっ……最近、この辺りで起きている現象は知ってるか?」


「……? ゴブリンの大量発生のことか?」


「それもある。お前は知らないかもしれないが、ゴブリンの前にはビッグボアが。その前にはオークが大量発生してるんだわ」


 そこで区切り、また酒を一口。


「ギルドや上の冒険者たちの見解だと、どうやら自然発生という線は薄いらしい。何者かが、引き起こしたことかもな」


「何が言いたい。さっさと話せ」


「おうおう、せっかちな男だ。いいぜ、すぐに話してやる。けどな、何となく予想がついてるんじゃねぇか?」


「……」


 ファルマは黙った。

 何となくではあるが、キースが言いたいことが予想出来てしまう。


「――――魔族だよ。この辺りに来ているらしいぜ」


 魔族――――魔物の上位互換であり、圧倒的な魔力と腕力を兼ね備えた、正真正銘の化物のこと。

 数は少ないが、それら全員が『魔王』を支えるべく、魔王軍に所属している。

 さらに神出鬼没であり、魔族の姿を知っている者は多くない。


「そいつが原因だと?」


「まだ確証はないらしいけどな。だが、魔族にはそれくらい出来る連中がいる。俺は結構信憑性があると思うぜ」


 確かに、魔族の力があれば、生態系を多少変化させることは出来るかもしれない。

 しかし、ファルマの疑問は別にあった。


「――――で、それをなぜ俺に話す?」


「お? 少しは食いついてくれたみたいだな」


 キースは嬉しそうに、酒をまた飲む。

 ファルマとしては、もっと要領よく話を進めてほしいのだが。

 しかし、このあとのキースの一言で、ファルマの眼の色が変わった。


「これは提案なんだけどな――――お前、今度の魔族捜索クエストに参加しねぇか?」


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