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008 殲滅

「さすがにこの数は面倒くさいな……ここは引くぞ」


「あう」


 ファルマはテトの襟首を持って走りだす。

 ゴブリンの大群はまだ対岸。

 普通に走ればファルマの方が速い上に、まだ距離がある。

 逃げ切ることも容易い――そう思っていたのだが。


「ギィー!」


「ギィギィ!」


「ッチ、意外と頭が回るな」


 ファルマが逃げ込もうとした森の中から、無数のゴブリンが飛び出してきた。

 対岸の群れほど多くはないが、簡単には突破できないだろう。

 しかし、他に道もない。


「自分の足で走れ! 突っ込むぞ!」


「あい」


 ファルマが先頭を走り、その後ろをテトがついて走る。

 ナイフを構えたファルマは、まず飛びかかってきたゴブリンの首を切り裂いた。

 一つの命を奪ったナイフが、その後に襲い来るゴブリンたちまでも切り裂く。

 しかし、突破できるかと思われたその瞬間、開きかけていた道がさらなるゴブリンたちによって塞がれた。


「最初から囲まれていたわけだ……」


 力任せに行けば、おそらく袋叩きに遭って終わりだろう。

 ファルマは身代わりを持っているため、しばらくは死ぬことはないだろうが、そんなものすぐになくなってしまう。

 突っ込むべきではないと考えたファルマは、再びテトの襟首を掴んで反対に走った。

 その方向には、当然数多のゴブリンたちが待ち構えている。

 ゴブリンたちはすでに川を渡りきり、二人を獲物として攻撃的な眼で見つめていた。


「……どうするか」


 ファルマはナイフを構えたまま、深呼吸で息を整える。

 100を超えるゴブリンの群れに対して、ナイフ一本で挑むなど出来るはずもない。

 リーチが一番の原因だ。

 ナイフはどうしても近づいて攻撃しなければならない。

 最初は対処出来るかもしれないが、徐々に死体が積み重なり、身動きが取れなくなっていく。

 そうなると、数で押しつぶされて終わりだ。


「やっぱり……テトと一緒にいたから」


 テトは、悲しそうにゴブリンたちを見ていた。

 その声には、すでに諦めも含まれている。

 

 敵は百数体、こちらは二人。


 どう見ても絶体絶命である。


「一つ――――教えてやる」


「え?」


 ファルマは感触を確かめるように、トントンとその場で低く跳ぶ。

 集中力が高まり、ファルマの眼が澄んでいく。

 この状況で、彼は何一つ諦めていなかった。


「俺にはな、呪いなんて通じないんだ」


 ファルマが突然、ゴブリンの群れの中に突っ込んだ。

 テトも、ゴブリンさえも驚き、少しの間硬直する。

 時が動き出したのは、大量の血液が噴水のように吹き出してからである。

 それも、複数。


「ギャッギャー!」


 ゴブリンが叫んだ。

 仲間の頭が何個も地面に転がっている。

 自分の仲間がやられたことで、ゴブリンたちの怒りが伝染した。

 全員のヘイトがファルマに集まり、テトなど無視して彼に躍りかかる。


「『呪殺』レベル2、『ネクロペット』」


 ファルマは、ナイフにつけていたレベル2で覚えた呪いを発動させた。

 この『ネクロペット』は、このスキルが使用された武器で相手を殺した場合、その身体を自由に操れれる呪いだという。

 ほぼ屍扱いのため、思考力はほとんどない。

 そのため、ファルマが下した命令一つだけを忠実にこなす。


 今回の命令は、ゴブリンの殲滅だ。


「行け!」


 ゴブリンの頭が、胴体が、腕が、足が、宙に浮かび上がった。

 そしてすばやく移動し、周りのゴブリンの首筋に噛み付いたり、拳で殴りとばしたりしている。


「ギャィ!」


 そのうちの一体が、敵のゴブリンに棍棒で殴られて死んでしまう。

 一体仕留めたゴブリンは、上機嫌でステップを踏んでいた。

 

 その後ろから、ファルマのゴブリンがそれを殴りとばす。


「いなくなったら、作ればいいんだからな」


 死んでいったゴブリンたちが、のそのそと起き上がり始める。

 それらはすでにファルマの支配下に入っており、近くのゴブリンを積極的に襲い始めた。

 

「すごい……」


 テトは、あっという間に互角の戦いになっているこの光景を見て、感嘆の声をもらした。

 実際、ゴブリンの数が両サイドで同じになり始めている。

 最初は圧倒的な状況から、よくぞここまで巻き返したものだ。


「ギィ!」


「ッ!」


 そんなことを考えていたテトの後ろに、数体のゴブリンが立っていた。

 ファルマの方が思いの外強かったからか、弱そうなテトを先に襲ったというわけだ。

 ゴブリンは知能が低く、考えも動きも単純だが、3、4体も同時に飛びかかってきたら、さすがに対応に困る。


「来ないで……」


 しかし、3,4体で辛いというのは、あくまで人間に限っての話である。

 もしこれが、オーガの血を引くものであったなら――。


「ギッ――――」


 テトは、跳んできたゴブリンに対して隠していたメイスを振りぬく。

 猛スピードで振りぬかれたメイスは、風を斬る音とともに、ゴブリンに命中した。

 骨や肉を潰す音が響く。

 いや、それだけじゃ飽きたらず、そのメイスは跳びかかってきていた四体のゴブリンをまとめて薙ぎ払った。

 クリーンヒットしたゴブリンは一撃で死亡。

 巻き込まれた三体も、身体を強く打って身動きが取れないようだ。


 さすがはオーガの娘と言ったところか。


「やるな」


 近くのゴブリンの首を切断しつつ、ファルマはつぶやいた。

 戦闘面でも活躍を見込んでいいほどには、すさまじい怪力を持っているようだ。


「マスター、テトも戦える」


「いや――――もういい」


 意気込んでいたテトをよそに、ファルマの操るゴブリンたちが、残り数体となったゴブリンたちを始末した。

 あと、残すところ二体。


「言っただろ、呪いなんて通じないと」


 ファルマが二本のナイフを投擲する。

 それは怯えの表情を浮かべていたゴブリンたちの脳天をとらえ、その生命を刈り取った。


「これで最後だったな」


 足元のゴブリンの死体を転がし、ファルマはコマとしたゴブリンたちへの命令を解除する。

 すると糸が切れたように、死体となっていたゴブリンたちが崩れ落ちた。


「これだけのゴブリンがいれば、報酬も期待できるかもな。よし、素材を剥ぐぞ、手伝え」


「……あい」


 ファルマは一本のナイフをテトに手渡す。

 金になる部位だけを伝え、二人は戦利品確保に勤しんだ。


 その途中、ファルマは作業しながら考える。


(いくらなんでも、あの量のゴブリンが襲ってくるのはおかしい)


 話によると、ゴブリンは大量発生していると聞く。

 森全体を見れば、あれだけのゴブリンは常に確認できていただろう。

 しかし、それが一箇所に固まっているとなれば話は別だ。

 

(それに、統率が取れていた。何者かが――――操っている?)


 根拠のない予想であったが、そうとしか思えないほどに、退路を塞ぐという行為はゴブリンに似合わない。

 何者かに操られ、動いていたとしたら。


「……」


 ふと、視線のようなものを感じ、ファルマは顔を上げた。

 その方向は、暗い森の奥。

 今のところ何の気配もしないが、確かな不気味さが、そこにはあった。


 

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