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006 手助け?

「とりあえず、服を買いに行くぞ」


「あい」


 奴隷の店を出た二人は、並んで町中を歩く。

 周りの眼はテトに集中しており、先ほどまでのファルマと同じ状況になっている。

 早々にローブを買う必要があるだろう。


「お前には、俺の荷物持ちをやってもらう。いいな?」


「あい……テトはファルマの荷物持ち」


 あまりまともな教育を受けられなかったせいか、しゃべり方は見た目の割に拙い。

 ファルマとしては荷物持ち以上に何かを期待していないため、特に気にはならないが。


「そうだ。拒否権はない」


「あい」


 本当に言うことを聞くものなんだなと、ファルマは少し感心した。

 主従契約を結んでいるため、テトがファルマに逆らう、または危害を加えようとすると、激痛が襲うようになっている。

 それを加味しても、テトはかなり素直な性格のようだ。


◆◆◆

「これでフードをはがれない限りは大丈夫だろう」

 

「あったかい」


 先ほどファルマが入った服の店から、二人は出てきた。

 テトはもとのぼろい服の上に、ファルマと同じローブを羽織っており、フードで髪の毛をほとんど隠している。

 普通に正面から見ても、白髪は目立たないだろう。


「次はギルドだ。少し仕事をしておきたい」


「あい」


 すぐ近くにあるギルドに戻り、ファルマは中を見渡す。

 こちらを見る者がいるかどうかの確認をしているのだ。

 どうやらローブの効果は大きいらしく、騒ぐ者はいない。


 それを確認して依頼板のところへ向かったファルマは、ぱっと見で都合のいい依頼を見つけた。


「ゴブリンの討伐か」


 その依頼は、数枚貼られていた。

 内容は、大量発生したゴブリンの討伐。

 数は無制限で、狩れるだけとのことらしい。


「これにするぞ」


「あい」


 その依頼を、ファルマは受付嬢の元へ持って行った。

 受付嬢は交代の時間が来たのか、ファルマのギルド登録手続きをしてくれた女ではなくなっている。


「これを受けたい」


「ゴブリン討伐ですね。これは期限無制限で、狩れるだけのゴブリンを狩ってくる依頼ですが、確認はお済みでしょうか?」


「ああ」


「ではギルドカードをご提示ください」


 ファルマはローブのポケットからカードを取り出し、受付嬢に渡す。

 受け取った受付嬢は、依頼の紙に指先で触れたあと、その指でギルドカードにも触れた。

 すると、依頼の紙が一瞬光って消失し、逆にカードに赤い小さな紋章が浮かび上がる。


「これでクエスト受注中になりました。討伐のカウントはギルドカードが自動的に行います。ゴブリンの討伐数にて報酬は変化し、その他の魔石や素材は依頼とは別に換金所へとお持ちください」


「分かった」


「ご武運を」


 受付嬢に見送られ、ファルマとテトはギルドをあとにする。

 森へ向かう前に、まずファルマは武器屋でナイフのストックを補充。

 テトにも護身用にメイスを持たせてみた。


「使えるか?」


「殴るだけなら、出来る」


「そうか」


 森への道中は、その程度の会話しかなかった。

 もともとお互いに会話は得意な方ではないため、沈黙が続くのは仕方のないことだろう。

 しかし、気まずい雰囲気はない。

 ファルマもテトも、必要以上に仲良くなる必要がないと思っているからだ。


「……ん」


 しばらく歩いていると、ついにファルマが一匹目のゴブリンを見つけた。

 森の中に入って少し経つ。

 ファルマはもう少し数が多いと思っていたため、一匹でいるのはいささか予想外であり、わずかに驚いた。


「もう冒険者どもに狩り尽くされたか?」


「ギャッギャ!」


 ゴブリンがファルマたちに気づき、持っていた棍棒を振り上げて走ってくる。

 ファルマからすれば、その動きは相当遅い。


「ふっ」


「ギャッ――」


 棍棒をゴブリンが振り下ろす前に、ナイフでその喉を一閃。

 血が噴き出て、ゴブリンはドサリと地面に倒れた。


「これじゃスキルのレベルも上がらないな」


 ナイフについた血を払い、ファルマはつぶやく。

 スキルは、当然使用しなければレベルが上がらない。

 しかしこの分だと、ゴブリンが弱すぎて『呪殺』を使う必要がないのだ。 

 ファルマの考え的には、多少の小遣い稼ぎと、依頼というものがどんなものなのかさえ分かればいいので問題はない。

 問題はないのだが、多少のもったいなさをファルマは感じていた。


「まあいいか。これでようやく一匹目だ。テト、カバンを出せ」


「あい」


 ファルマの指示に従い、テトは背負っていたカバンを彼の前に置く。

 ゴブリンが落としていく魔石をそれに入れ、ファルマはテトにまたカバンを預け直した。


「少し奥へ入るぞ。どうやら川もあるようだ」


「あい」

 

 二人はゴブリンを求め、さらに奥へと入っていく。


◆◆◆

「ゴブリンの前に、川が先に見つかったか」


 あれから少し経ち、二人は綺麗な水が流れる川へと到着した。

 上流の方らしく、水は飲めそうなほど透き通っている。


「テト、お前はここで水浴びをしろ」


「あう……」


 ファルマはテトのローブを剥ぎ取り、びっくりしているテトを片手で突き飛ばす。

 見事に川に飛び込んだテトを確認して、剥いだローブを適当な場所に置いておく。


「色々汚れているからな、よく身体を洗っておけ」


「あい」


 テトはびしょ濡れになったボロ服を脱ごうと、手をかける。

 それを見たファルマはすぐに後ろを向いた。

 見たところでおそらくどうも思わないが、じっと見ているのもどうかと思う。


「俺は少しここを離れる。お前はここから動くなよ」


「あい」


 やることがなくなったファルマは、テトを置いて川沿いから離れることを決めた。

 少し離れた所に、ビッグボアが見えたのだ。

 街についてからまだなにも食べていないファルマは、自分がかなり空腹であることに気づいた。

 肉が美味とされるビッグボアを狩って、丸焼きにでもしたいものである。


「さっさと狩って――――ん?」


 そのとき、かすかにファルマの耳に何かが聞こえた。

 叫び声、悲鳴、そんな感じの声だ。

 テトの声ではない、もっと森の奥の方かと思われる。


「……少し様子を見に行くか」


 好奇心に負けたファルマは、少し考えたあとに声の方へ向かった。

 悲鳴が聞こえる範囲であったため、場所はそれなりに近い。

 

「あれか……」


 茂みに隠れて、ファルマはその『連中』のことを観察する。

 冒険者らしき人間が、三人。

 女が一に、男がニだ。

 その周りには、緑の肌をしたオークと呼ばれる魔物が四体。

 豚面で、太った腹。

 身長は人よりも一回り高く、口からは牙が出ている。

 

 オークたちはそれぞれ斧のようなものを持っており、そこからは血が滴っていた。


「うう……」


「っ……」


「エリザ! ハンク! ちくしょう!」


 どうやら、男一と女一が負傷しているようだ。

 倒れこんだ二人をかばうように、残った男がオークと対峙している。


(助けるか、否か)


 ファルマは考えた。

 ここで助けに行かなければ、実力的にあの三人はオークに殺されるだろう。

 それは別にいい。

 他人など、ファルマからすればどうでもいい存在だ。

 いくら眼の前で死のうが、ファルマはなんとも思わない。

 

 ただ、助けてメリットがあるとしたら。


「くそっ! 来るな!」


「ブヒヒィ!」


 オークは声を上げ、斧を最後の一人目掛けて振り下ろす。

 その前に、斧を持ったオークの手が宙を舞った。


「邪魔するぞ」

 

 次の瞬間、オークは首から血を吹き出させた。

 それは喉をほぼ切断しかかっており、首の骨まで斬られたオークはすぐさま絶命する。


「あと三匹――――」


 戦闘に飛び込んだファルマは、瞬時にナイフで攻撃し、一匹を仕留めた。

 予期せぬ乱入者に、オークたちは動揺している。

 それは、ファルマの前では決定的な隙となった。


「そらっ」


 ファルマは持っていたナイフを、後ろで囲おうとしていたオークに投げつける。

 反応できなかったオークは、脳天にナイフが刺さったことで絶命した。

 

「二匹……」


「ビィィィィ!」


 ようやく残った二体のオークが動き出す。

 オークは知能が高くない。

 そのため、ファルマの前で斧を大きく振りかぶって襲ってきた。

 もちろん、それは決定的な隙である。


「『呪殺』レベル2、『感覚暴走』」


 二体の並んだオークの腹に、ファルマの掌底が刺さる。

 少し怯んだ容姿の二体に、ギルドで会ったゴリと同じような魔法陣が浮かび上がった。

 それは一瞬で全身に刺青を伸ばし、その身体の感覚神経を何百倍へと引き上げる。


「オオオォォォォォオオォオォ!」


 片方のオークが叫ぶ。

 ファルマが足元の小石を蹴って当てたからだ。

 もう片方のオークにも同じく石を当て、激痛でその場から動けなくする。

 

「無様に膝をついておけ」


 ファルマは買っておいたナイフを抜き、二体のオークの首に容赦なく切れ込みを入れた。

 血がバシャバシャと吹き出し、二体はまずその激痛に耐えられず、絶命している。


「まずまず、だな」


 オークを全滅させるまでの時間を計算し、ファルマは自分の戦いっぷりに評価を下す。

 今回はあまり優秀ではなかったようだ。


「た、助かった……」


 危険が去ったことに安心感を覚えたのか、立っている唯一の冒険者の男が尻もちをついてしまう。

 ファルマは投げたナイフを回収し、ついた血を拭ったあと、その男に手を差し出した。


「立てるか?」


「あ、ありがとう。おかげで助かったよ」


 冒険者の男は、その手を握って立ち上がる。

 

 ――――きちんと接触したことを確認して、ファルマはほんの少し口角を釣り上げた。


「ん? どうした?」


「いや――何でもない。無事でよかったな」


 ファルマはいつになく営業スマイルで、そう返した。




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