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031 お手柄

「うひゃぁ! あぶねぇ!」


 サルトビの隣を、熱線が走り抜ける。

 刻まれた一筋の線は、すぐさま爆発。

 無様に地面を転がったサルトビを、さらに吹き飛ばす。


「ちくしょうッ! やたらめったらぶっ放しやがって!」


 吹き飛ばされたサルトビは、家屋の窓を突き破る。

 そのまま民家の中を転がり、壁に背中を打ち付けた。

 しかし傷はない。

 無傷のまま立ち上がり、サルトビは反対にあった家の玄関から外に飛び出した。


「ま、当然上から来るよな」


『キエェヤァアァァ!』


 真上から飛来した鳥の魔人を、サルトビは横に転がってかわす。

 体当たりを外した魔人は、再び浮遊してサルトビを睨みつけた。

 そのまま二人が睨み合っていると、後ろの民家が爆ぜる。

 民家を包み込む煙の中から、犬の魔人が姿を現した。


「挟み撃ちかい……思ったより馬鹿じゃねぇみたいだな」


 サルトビは、攻めあぐねていた。

 当然のことだが、彼の爪は飛んでいる魔人に届くわけがない。

 仮に、何か投げつけられるものを見つけたとして、それを命中させることは叶わないだろう。

 投げつけた隙に犬の魔人に襲われ、投げた物はかわされるのがオチである。


「――――チッ……しゃーねぇな」


 二体の魔人に睨まれたサルトビは、頭を掻きながら、懐に手を突っ込む。


「これはとっておきだったんだけど……そうも言ってられねぇし」


 懐から取り出したのは、赤い手の平サイズの棒。

 それを握りしめたサルトビは、先端を空中の魔人に向けた。


「ちょっとだけ、見せてやるよ。伸びろ――――如意棒」


◆◆◆

「ガッ!」


『グオォォォォォ!』


 ファルマが巨腕に叩き潰される。

 床がぶち抜かれ、民家が揺れた。

 身代わり人形で難を逃れ、逃げようとしたファルマに、再び同じ一撃が叩き込まれる。

 それは何十発にも及び、ついに民家は崩落を始めた。


「マスター!」


 ファルマを叩き潰すことに夢中になっていた魔人は、後ろからハンマーを振り上げて襲ってくるテトに反応出来ない。

 そのまま頭を殴られ、その巨体をぐらつかせた。

 しかし、倒れない。


『グオォォォォォ!』


 テトは魔人の眼中にすら入っていなかった。

 変わらずその標的は、ファルマ一択である。  

 何度目か分からない拳が振り上げられた。


「調子に……乗るな!」


 テトが作った一瞬の隙をついて、ファルマもついに立ち上がる。

 ダメージは当然身代わり人形で打ち消していた。

 

(闘気を……手の平に!)


 ファルマは、振り下ろされた巨腕に対して腕を突き出す。

 足が埋まってしまうほどの重みを感じた後、魔人の腕が大きく跳ね上がった。


『ウゴォ』


「よし、成功――――っ」

 

 闘気を実戦で使えたことに喜んだファルマだったが、自分の腕を見て言葉を詰まらせる。

 その腕は、真ん中でおかしな方向に曲がっていた。

 完全にへし折れている。

 それを認識してしまったためか、激痛がファルマの脳に波のように襲いかかった。


「ぐっ……逃げるぞ」


「あい」


 激痛に顔をしかめながら、ファルマたちは急いで壊れかけの民家から離れる。

 ファルマは走りながらポーションのふたを開け、口に流し込んだ。

 一瞬で折れた腕に効果が及び、軋みながら元の形に戻る。


(なんで身代わり人形が発動しない……!)


 ファルマの疑問に対する解答はこうだ。


 身代わり人形が、切れかかっている。


「くっ……『在庫』切れか!」


 ファルマは、身代わり人形という自身の絶対防御に、いくつかの制約をつけていた。

 まず、戦力となり得る存在を、身代わり対象から除外すると言うもの。

 この場合は、サルトビである。

 サルトビを身代わり対象にする場合は、意図的にファルマが設定を切り替えなければならない。

 自動的にサルトビは身代わりにならないのだ。

 すなわち、今回在庫切れが起きたということは、ファルマの村の人間が全滅したことを差す。

 生き残ったのは、呪いをかける前に村を離れた、勇者二人だけだろう。


(ここまで来ると……手っ取り早いのはやはり『アレ』しか――――)


「マスター」


「何だ?」


 魔人が追ってくる圧力を背に、ファルマは冷静に問う。

 テトは相変わらずの無表情でファルマを見つめていた。


「私なら、あいつ止められる」


「――――なに?」


 テトの足が止まる。

 当然、彼女に魔人が迫った。

 

「おい……」


「見てて」


 ファルマも足を止めて振り返った。

 テトはその場から動いていない。

 腰を落としてゆっくり目を閉じ、深呼吸をした。


『オオオォォ!』


「――――『アカオニ』」


 まず変化があったのは、テトの頭。

 髪の一部が赤くなり、隠れていた角が徐々に肥大していく。

 次に変化があったのは、肌。

 腕に筋が入り、血のような赤色に染まっていく。

 

「ふっ!」


『グオォォォォ!』


 魔人は突進の体制になる。

 それをテトが両腕で押さえこんだ。

 衝撃が辺りに走り、テトの身体が僅かに押される。

 しかし、魔人の突進は止まった。


「ぐぬぬ……」


『オォォ……』


 その光景は、『拮抗』と言う言葉が相応しい。

 二人の力は互角。

 かに、思われた――――。


「うぅぅ……ぁぁぁああああああ!」


『ガァァァァ!?』


 テトが魔人の腕にしがみつく。

 そのまま力を振り絞り、巨腕を強く締め付けた。

 軋むような音がして、徐々に魔人の表情が苦痛で歪んで行く。


「ああッ!」


『ギィィィィァアアアアアア!』


 ついに、テトが魔人の腕をへし折った。

 豪快に骨が折れる音が響き、魔人の身体がよろめく。


「ハァ……ハァ……っ」


「チッ」


 直後、テトもよろめき、後ろに倒れかける。

 それを、ファルマが受け止めた。

 

「そんな力を隠し持っていたのか」


「これ使うと疲れる……だから使いたくなかった」


「ふん……まあいい、今日はお前の手柄だ」


 そう言って、ファルマは悶えている魔人にナイフを投げる。

 壊滅した街で手に入れた新しいナイフは、見事に魔人の身体に突き刺さった。

 当然、『バインドエンチャント』の呪いが仕込まれており、激痛に暴れまわっていた魔人の動きを完全に停止させる。

 

「さてと、ひとまず勝利と言ったところか」


 ゆっくりとファルマは魔人に近づく。

 その首にナイフを当て、そのまま切り裂いた。

 身動き取れぬまま、魔人は痙攣する。

 大量の血が地面を流れていき、やがて魔人の心音が止まった。

 そのまま魔人は地面に倒れ伏す。

『バインドエンチャント』は生物に効く呪いだ。

 死体になってしまった存在には、通用しない。

 

「おっ、こっちも終わってたか」


「お前もしぶといな」


「キキッ! まあオイラにかかれば、あんな連中ちょちょいのちょいよ」


 いつの間にか、まだ壊れていない民家の屋根にサルトビが立っていた。

 そのまま地面に飛び降りると、近くに転がっていたゴリラの魔人の頭を軽く蹴る。


「めんどくさかったことには変わりねぇけどな。それにしても……アレグロ様の実験がここまで実用的になってるとはな」


 サルトビの表情は神妙だ。

 そんな彼の姿が癇に障ったのか、ファルマはその背中を蹴った。

 

「いでっ! 何すんだ!?」


「お前の考え事に付き合ってる暇はないんだ。さっさと魔王城に行くぞ」


「そんなお前準備もなしに――――」


「考えこむことが準備か? 行ってみなければ何も分からないだろ」


 サルトビは黙った。

 ここで一人で考えていたところで、状況はよくなることはない。

 それをファルマに気付かされた。


「……そうだな。んじゃ、行くかァ」


「サルトビ、テトを担げ」


「はいはいっと。ほれ、嬢ちゃん行けるか?」


「お腹すいた」


「キキッ! 元気そうだな」


 サルトビがテトを担ぐ。

 

「ついでだ、お前らは宿から荷物を取ってこい」


「おいおい、これ以上こき使うのかよ」


「俺はやることがある」


 そう言って、ファルマはまだ無事な民家が目立つ区域の方へ歩いて行ってしまった。


「はぁ……オイラたちのご主人は勝手だねぇ」


「それこそマスター」


「ちげぇねぇや」


 取り残された二人は顔を見合わせ、宿屋の方へ歩き出した。

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