030 巨腕
「口から出してるのか……あれ」
「人間の部分に存在する魔力を凝縮して撃ってんだ! 当たりゃ死ぬぞ!」
三人の間を閃光が駆け抜け、爆発が起きる。
吹き飛ばされつつも何とか受け身を取ったファルマは、同じく吹き飛ばされてきたテトを受け止める――――ことはなく、そのまま避けた。
「あう」
「チッ……でたらめな威力だな」
「おい! そっち無事か!」
煙の向こうから、サルトビの声がする。
声色から察するに、彼も無事なようだ。
「ああ」
「あい」
「このまま二手に別れるぞ! やつらの熱線が密集するとまずい!」
そう叫んだサルトビの声が、どんどん遠くなっていく。
ここから離れて行っているのだろう。
それに釣られたように、犬と鳥の魔人がサルトビの声の方向に走っていく。
残ったのはファルマとテトと、ゴリラの魔人だけだ。
『ぐおおおおう!』
「さて、どうするか……」
『ガァ!』
何度も見た熱線が放たれる。
予備動作があるためか、熱線をかわすこと自体はそこまで難しくはない。
しかし、当たってしまえばそこで終了。
即死である。
「避けろ」
「あい」
二人は同時に同じ方向に跳んだ。
すると、元いた場所を熱線が通過した。
爆炎が上がり、二人の身体はまたも吹き飛ばされる。
しかし今度は警戒していたため、二人とも体勢を崩すこともなく着地した。
そしてすかさず、サルトビとは反対方向に走りだす。
「隠れられる場所を探すぞ。あいつと正面から殺り合うわけにはいかない」
「あい」
二人は街の中へ飛び込む。
入り組んだ路地を走り、魔人の視界から外れる。
直後、後方にある家屋が吹き飛んだ。
いくつかの悲鳴上がり、家屋が炎上した。
「よし、遮蔽物さえあれば熱線は通らないな。射程はそこまでないらしい」
「人がいっぱい死ぬ」
「構うか。どうせ『敗北者』どもだ」
「そっか」
街に多大な被害を出しながら、二人はひたすら街をかける。
ファルマが探しているのは、絶好の奇襲場所。
(とにかく高所だ。上からの奇襲なら二次災害はない)
ファルマの作戦はこうだ。
まず高所へ上がり、魔人の真上を取る。
そして飛び降り、上から攻撃を仕掛けるのだ。
空中ならば、飛散した瓦礫や爆炎の被害がない。
熱線さえかわせばいいのだ。
そしてその熱線は、『身代わり人形』によって回避することが出来る。
この辺りで高い場所は、街の監視塔。
本来は、外敵の接近を知らせるための場所である。
「あそこまで行けば――――」
『ウガァ!』
「何!?」
ファルマが監視塔を見ながら走っていると、突然横の民家が崩壊した。
直後、ファルマは崩落した家と反対方向に吹き飛ばされる。
隣の民家を突き破り、さらにその向こうの民家を貫いて、違う通りに出た。
(な、何だ……)
民家が崩壊した時点で、ファルマは『身代わり人形』を発動させていた。
そのため、無傷で身体を起こすことが出来る。
『ガァァァァ!』
民家の瓦礫を払いのけ、ゴリラの魔人が姿を現す。
ゴリラの巨腕から、少し血が滲んでいる。
(突進か……)
砂埃が晴れると、はるか向こうから一直線に民家が崩れているのが分かった。
この魔人は、そこからファルマのところまで一気に突進を仕掛けてきたのだ。
「どうやって俺の位置を……」
『ガア!』
「チッ!」
ファルマは別の路地に逃げ込む。
しかし――――。
「うぐっ」
ファルマの隣の壁から、巨大な拳が飛び出してくる。
それをもろに身体で受けたファルマは、再び真横に吹き飛び民家を突き破った。
中の壁に叩きつけられ、ファルマは息を詰まらせる。
『ウウウゥウ』
穴の空いた壁から、魔人が姿を現す。
「……なるほど、鼻か」
魔人は鼻をヒクつかせていた。
ファルマの匂いを嗅ぎ取り、ここまで突進してきていたようだ。
「ゴリラの鼻が効くってのは……知らなかったな」
『ゴォォ』
「くそっ」
魔人が口に魔力を溜め始める。
熱線の予備動作だ。
ファルマは慌てて身体を起こす。
「だめ」
『ギッ』
そのとき、魔人の首が真横に回る。
放たれた熱線は見当違いの壁に当たり、爆発を起こした。
「マスター、逃げる」
「ッ……」
ファルマは煙渦巻く室内を走り、魔人の横を抜けて民家から脱出した。
そして外の路地を走り、少し大きな通りに出る。
その隣には、テトが立っていた。
「よくやった、テト」
「上手く行ってよかった」
魔人の後ろに姿を現したテトが、魔人の首の折った。
それによって、熱線の方向が大きく変わったのだ。
「だが、首を折ったならこれで――――」
『ガァ……』
「――――なんて、上手くは行かないようだな」
民家から出てきた魔人の首は、確かに折れていた。
しかし、気色の悪い音をたてて、徐々に首が元の位置に戻っていく。
ついには完治し、魔人は雄叫びを上げた。
『オオオォォォォォォォォ』
「来るぞ!」
「っ!」
巨腕が振り下ろされる――――。