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022 探索・後編

「これは……武器屋の看板か、意外と早く見つかったな」


 しばらく歩いていたファルマは、足下に転がっていた武器のマークの描かれた看板を拾い上げ、辺りを見渡す。

 そこには折れた剣や壊れた盾、ちぎれた鎖鎌など、様々な武器の残骸が落ちていた。

 

「建物自体は崩れてるな……テト、瓦礫を退かせ」


「あい」


 テトは指示通り武器屋の残骸まで歩み寄ると、屋根や壁の瓦礫を持ち上げて、別の場所に投げ始める。

 とてもじゃないが退かせないような大きさの瓦礫も、テトの怪力を持ってすれば何てことはない。

 ほんの数十秒で、「お宝」までたどり着いた。


「もういいぞ」


「あい」


 ファルマはテトと入れ替わり、「お宝」を品定めする。

 そこにあったのは、今までファルマが使っていたナイフよりも数段階上質なナイフたち。

 これだけ派手に崩れている建物の下敷きになって、傷一つついていないほどには頑丈である。

 試しに手に取り、感触を確かめてみた。


(少し重いな……)


 今まで使っていたナイフより若干重く、感覚にズレが生じている。

 軽く近くの木片を切りつけてみると、一振りで真っ二つに両断してしまった。

 ファルマとしては浅く切りつけたつもりだったのだが、重さに引っ張られ思いがけず深く切ってしまったようだ。

 

「慣れるしかないな」


 ぽつりとつぶやき、ファルマはその場に落ちていた同じナイフ数十本をローブの中に入れる。

 入りきらない分は今までのナイフを捨てることで場所を空け、そこに入れ直した。

 このナイフ、なんと言っても切れ味がいい。

 使わない選択肢はない。


「マスター」


「なんだ」


 ナイフをあらかた回収しきったころ、テトがファルマに声をかけた。

 ファルマが振り向くと、そこには身長の丈よりも大きい長さのハンマーを持ったテトが立っている。

 白いハンマーだ。

 金の装飾がところどころ施され、美しく光っている。

 明らかに高級品だ。


「これほしい」


「ダメだ。かさばる」


 テトの要求を、ファルマは一ニもなく拒否した。

 そもそも、テトは自分の身体よりも大きいカバンを背負うことになる。

 さらにこれほどのハンマーを追加すれば、テトも歩きづらいだろう。

 そうすれば歩行速度が必ず遅くなる。

 荷物持ちの意味をなさなくなることは、ファルマとしても避けたいのだ。


「でもこれ――」


「……ああ、それならいいだろ」


 しかし、次の瞬間ファルマは意見を変えた。

 テトが、そのハンマーを手のひらサイズまで縮めたのだ。

 伸縮の魔法が組み込まれた武器だったらしい。

 持ち主の意志で、大きさを自由に変えられるようだ。


「ポケット入れとく」


 テトはその小型化したハンマーを、懐に仕舞い込んだ。

 少し顔を綻ばせながら、テトは自分の懐の上に手を置いた。

 あの金の装飾が、かなりお気に入りらしい。


「もういいだろう。そろそろ戻るぞ、日暮れが近い」


「あい」


 いくつか他の街で売れそうな武器も拾ったファルマたちは、キリのいいところで来た道を引き返し始めた。


◆◆◆

 元の道を歩いていると、ファルマたちはさらに袋を膨らませたサルトビと出会った。


「おう、嬢ちゃん、ずいぶんとご機嫌じゃねぇか」


「いいもの拾った」


 そう言って、テトは懐から小型化したハンマーを取り出して、見せる。

 サルトビは手のひらに置かれたそれを、興味ありげに眺め始めた。


「おー……こいつは高級品だぜ。伸縮もそうだけど、力の補助もしてくれる。怪力の嬢ちゃんにはぴったりだぜ」


「何だ? そんなことまで分かるのか?」


「まあな。オイラの眼はちょっと特別でよ、普通は見えないもんも見えるんだわ。あ、あと、お前らあんまり俺と眼を合わせていない方がいいぜ。オイラも抑えてっけど、この眼は他人をレッドモンキーに変えちまう」


 そう聞いた途端、ファルマは視線を逸らし、テトは自分の眼を手で覆った。


「そんな大事なことは早く言え」


「わりぃわりぃ! あんま言いたくなかったんよ、呪いの一種だからさ」


「……何だ、呪いか」


 その効力が呪いと聞いた瞬間、ファルマは視線をサルトビに戻した。


「なら俺には効かないな」


「あ? 何でぃ」


 ファルマは、いまだ手で眼を隠しているテトの頭に手を置いた。


「こいつは呪い持ちだ。周りに作用するタイプのな」


「え? オイラたち大丈夫なのか?」


「……いい加減話しておくか」


◆◆◆

 「はーん、呪殺ねぇ。呪いの権化ってわけだ、それなら呪いも効かねぇな」


 サルトビはファルマの天職とスキルについて聞いたあと、興味津々な様子で彼を眺め始める。

 

「じろじろ見るな。つまり、そもそも呪いの塊である俺にはテトの呪いは効かないし、俺の呪いにかかっているお前は、その程度の薄い呪いには影響されない。だからテトの呪いは心配しなくていい。逆に、お前の呪いも俺たちには効かない」


「なーるほど」


 つまり、オイラたちは相性がいいわけだ――――。


 そう言って、サルトビは嬉しそうに手を叩いた。

 大袈裟とも取られる反応を示したサルトビに、ファルマは若干の疑心を抱く。


「納得行かねぇ顔してるけどよ、オイラからすれば嬉しいことなんだぜ? なんせ今まで他人と眼を合わせられねぇ生活だったわけだし。オイラはおしゃべりだからよ、まともに人と話せねぇってのはストレス溜まるんだわ」


「うん、サルトビずっとうるさいもんね」


「嬢ちゃん? 言葉には気をつけような?」


 笑顔ではあるが、眼が笑っていないサルトビ。

 しかし、まだテトは眼に手を当てている状態なので、それも分からない。


「いい加減眼を空けろ。鬱陶しい」


「あい」


 ファルマに言われ、テトは手をどける。

 そんな二人のやりとりを見ていて、サルトビは苦笑した。


「キキッ! ま、どうやら長い付き合いになっていきそうだな」


「せいぜい俺の駒として馬車馬のごとく働け」


「おお、おっかねぇな」


 サルトビは楽しそうに笑う。

 この環境でも笑っていられるというのは、サルトビの精神の図太さを表している。

 そんな彼を鼻で笑い飛ばしたファルマは、焚き火のために集めた木々たちに、火の魔法石で火をつけた。

 

「とりあえず、今日はここで一夜を過ごすぞ。明日はそのまま出発だ」


「あい」


「キキッ! 了解」


 サルトビの集めた食料を漁り、焼けるものを片っ端から火に晒していく。

 焼けたものはほとんどテトの腹の中に収まり、サルトビは渋々もう一度食料を取りに行った。



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