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021 探索・前編

「お、見えてきたぜ。あれが俺たちの滅ぼした街だ」


 サルトビが指さす先、そこには瓦礫の山がいくつも並び、広大に開けている不自然な空間があった。

 香ってくる死の臭いが、ここに生きたものがいたことを証明し、確かにここに街があったことを伝えてくる。

 ファルマはその光景をよく目に焼き付けるために、フードを取って白い髪をさらした。

 そして、無言で廃墟と化した街並みを眺める。

 いつか、自分がこの光景を作り出すときが来るかもしれない。  

 ファルマはそのときのことを思い、少し身を震わせた。


「……魔王様は人間が嫌いだからな、やるときは徹底的なんだよ。キキッ、おっかねぇ」


「……行くぞ、何か使えるものがないか探す」


 二人を引き連れ、ファルマは廃墟の中に足を踏み入れた。

 街を通る大通りの左右には、焼けた家や崩れた屋台が並んでいる。

 その中で、ファルマは比較的形が残っている家の中に足を踏み入れた。

 中を見渡すと同時に、ファルマは反射的にナイフを構える。

 しかし、すぐにそれを下ろした。


「死んでるか……」


 室内にあった人影、二つ寄り添うように壁に寄りかかっていた。

 夫婦のようであった。

 すでに腐敗が進んでおり、ひどい臭いを発している。

 容姿も原型をとどめておらず、この二人の知り合いが見ても本人と分からないだろう。


「……」


 ファルマの脳裏に、自分も同じように死体になっている光景が浮かび上がってくる。

 もし、あの村で天職を授かれなかったら、「呪殺」スキルを手に入れていなかったら――――。

 ありえた未来が故に、ファルマは自分が立ち、他の者が倒れている今の状況を踏みしめた。


「弱いから……そうなる」


 小声でそう言い残し、ファルマはその家から出た。

 外にはテトとサルトビが瓦礫に座って休んでおり、何も持たず出てきたファルマに声をかける。


「何もなかったんか?」


「死体があった。持ってきてやろうか?」


「キキッ、それは勘弁」


 笑い飛ばしたサルトビは、立ち上がって身体をほぐし始める。


「んで、どうすんだ? こっから探索時間か?」


「ああ、見ておきたいところがある」


「オイラも自由にしてていいんか?」


「食料でも探しとけ。少しは食えるものが残ってるだろ」


「まあ、オイラたちは潰しただけで何も取っちゃいねぇしな」


 じゃあ後でな――――そう言って、サルトビはファルマたちと反対方向に歩き出す。

 サルトビを自由にしておくのは少々不安であるが、ファルマには呪いがある。

 協力的な姿勢を見る限り、しばらくは使いっ走りにしても問題はないだろう。


「テト、ついてこい」


「あい」


 二人も目的地へと歩き出す。

 ファルマはその位置を知らないが、どの街にも確実にある店なため、数分で容易に見つけることが出来た。

 

「……おくすり屋?」


「そうだ。漁るぞ」


 そこは、ポーションなどの薬を売る店――――の廃墟。

 半壊状態であり、戸棚などが倒れているのが見える。

 ファルマは瓦礫の上を進み、奥に残っている戸棚を漁り始めた。


「残ってるといいんだが……」


 割れた瓶などは床に落とし、まだ形の残っているものを引っ張りだす。

 いくつか割れていない瓶を発見し、手に取った。

 蓋を開けて匂いを嗅いでみるが、おかしなところはない。

 

「よし、使えるな。テト、これをかばんに入れておけ」


「あい」


 十数個の使える低級ポーションを、すべてテトのかばんに入れておく。

 店で買えば、それなりの値段になる代物だ。

 

「まだあるだろうな……奥へ行くぞ」


「あい」


 店の奥へと繋がる扉を、ファルマは開けた。

 そこは在庫を保管しておく部屋であるらしく、同じような戸棚に大量の瓶や魔法のアイテムが置かれている。

 そのうちいくつかは、やはり壊され使い物になりそうにない。

 しかし店の中よりは使えるものが多そうだ。


「マスター、ここ臭い」


「我慢しろ」


 中に入った途端、テトが文句を言い出す。

 それもそのはず。

 ポーション類が漏れたせいで発生した薬品の香りと、奥で横たわっている男の死体の腐臭やらが入り混じり、耐え難い悪臭を放っているのだ。

 味覚とともに嗅覚も若干鈍っているファルマでさえ、長居したいとは思わない。

 

「やることやって、さっさと出るぞ」


「あい」


 ファルマは奥の戸棚まで行き、収納されている物を確認する。

 目的のものがそこにあり、ファルマは薄く笑った。

 

「やっぱりあったか」


 目的の物、それは高級ポーションであった。

 他の戸棚の物も合わせ、30個は超えているか。

 その性能に合わせた金額で、総額20万ゴールドは超えるだろう。

 

 サルトビのような強敵と戦う際、一度は触れる必要のあるファルマの『呪殺』スキルを発動させるためには、かなりの重傷を負うこともあるだろう。

 そんなとき、この高級ポーションは役に立つ。


 高級ポーションを手に取り、懐に入れようとすると、その手を下からテトが掴んできた。


「……何だ」


「マスター、やっぱりそれ泥棒」


 テトはもう片方の手で、カバンに入れていたポーションたちを取り出した。

 その眼は、真っ直ぐファルマを見つめている。


「何か問題があるのか?」


「そこにお店の人いる。眼の前で取ったら泥棒」


 テトは、目線だけで死体の方を指す。

 確かにその死体はエプロンのようなものをつけていて、この店の店員だと言うことが分かる。

 ファルマはそれを冷ややかに眺めたあと、テトの方に向く。


「……気になるなら、聞いてみろ」


「あい」


 テトは素直に頷くと、死体の方に歩み寄る。

 眼の前で座り込むと、その死体に向けて話しかけた。


「持って行っていい?」


 もちろん、死体は何も反応を示さない。

 

「何も言わない」


「なら持って行っていいってことだ」


「そうなんだ」


 話が解決した途端、テトはファルマと同じように高級ポーションをかばんに詰めていく。

 ファルマはいくつかを懐へ、そして他をすべてかばんに詰めた。

 カバンがずっしり重くなってきた頃、ようやく二人は手を止める。

 

「かなり回収出来たな。そろそろ行くぞ」


「あい」


 結局その奥にも同じだけの高級ポーションがあり、それをすべてカバンに詰めていた。

 かなりの儲けになっているだろう。

 当分は怪我に対しても恐れずに済む。

 

 外に出ると、店の前でサルトビが待っていた。

 真横には食料らしきものが入った袋が置かれている。

 

「何かいいものはあった?」


「高級ポーションがあった。一つ持っとけ」


「いらねぇよ、オイラは」


 そう言って、サルトビはファルマの出してきたポーションを受け取らなかった。

 

「なぜだ?」


「お、少しはオイラにも興味が湧いたかい?」

 

 サルトビは煽るような表情でファルマに聞いた。

 若干の苛立ちを覚えたファルマは、先を促す。


「余計なことを言うな。さっさと訳を話せ。殺すぞ」


「おお、怖い」


 サルトビは肩を竦めた。

 さすがに立場を弁えたのか、サルトビは訳を話し始める。


「魔族ってのは、元から再生能力がたけぇんだ。高級ポーションほどじゃねぇけど、一撃で死ななきゃ大抵はすぐに治る。だから使うだけ無駄さ」


「そういうことか」


 ファルマが『呪殺』レベル1『身代わり人形』でつけた傷がすぐに治っていたのも、その再生能力が原因らしい。

 それから考えるに、魔族という存在の厄介さを改めて認識させられた。


「さすがに心臓を一突きされりゃひとたまりもねぇけどよ。ま、やったことねぇし本当はどうなるか分からねぇ」


 今後もねぇことを祈るぜ――――。

 そう言って、サルトビはファルマを見た。

 ファルマは無言で眼を逸らし、別方向に向かって歩き出す。


「おい、どこ行くんだよ」


「武器屋を漁りに行く。お前はまだ食料を探しとけ。それじゃ足りない」


「は!? まじかよ!」


 サルトビの脇に置いてある袋は、一抱えもあるほどに大きい。

 しかし、それだけの量では「彼女」を満足させることが出来ない。


「それじゃ足りない。テトお腹すいた」


「そいつの空腹時の食事量はバカにならない。自分の分を確保したけりゃもっと持って来い」


 ファルマとテトはそこまで言ったあと、二人で別の方向に歩いて行ってしまった。

 一人取り残されたサルトビは、自分の頭を掻く。


「はー……そういうことね」


 集めた食料を一瞥したあと。サルトビはさらなる食料を求めて探索を始めた。

 

 

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