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017 絶体絶命

「……やられたか」


 森を走りながら、ファルマはつぶやいた。

 

『呪殺』のスキルをかけられた者は、術者と呪いと言う関係でつながっている。

 対象が死亡した場合、呪いは強制的に解除され、ファルマにはそれが分かるようになっているのだ。

 ファルマは生き残っていた二人の内、キースに対して『呪殺』を発動させている。

 つまり、分かるのはキースの生き死にだけだ。

 

 そしてこれは、キースの死を意味している。

 

「死んじゃったの?」


「ああ、キースが死んだ」


「あーあ」


 テトはそれを聞いても、表情を変えない。

 恐怖も、怒りも、悲しみも浮かべていない。

 それはファルマも同じだが。


「とりあえず死んだことしか分からない、だが、下手に正面から出遭えば俺たちは――――」


「キキッ! 見つけた!」


「ッ!」


 神速の赤い影。

 それを、ファルマはギリギリ視界に捉えた。

 右方向、丁度ファルマに襲いかかる形で、サルトビが飛びかかってくる。

 

 分かったところで、ファルマには回避することすら出来ないのだが。


「はい! 終了!」


「ぐふっ――――」


 空気を斬る飛び蹴り。

 それが、ファルマの腹に刺さる。

 肉の潰れる音、骨の砕ける音が響き渡り、ファルマの身体はくの字に曲がって吹き飛んだ。


「ちょっ」


 その吹き飛んだ方向にはテトもおり、巻き込まれるようにして一緒に吹き飛んでいく。

 木々をへし折り、二人は森の中を数十メートル飛ばされた。


「ふいー、あっけなかったな」


 土煙が上がる森の中、サルトビは肩を回しながらそう言った。


◆◆◆

「――――参ったな」


 ファルマは空を見上げながら、ぽつりとつぶやいた。

 サルトビが視界の隅に見えた瞬間、ファルマは『呪殺』スキルの『身代わり人形』を発動させ、村人の命と引き換えに助かっていた。

 

「うう……マスター、テト怪我した」


「ん?」


 自分の横たわった地面に違和感を覚え、ファルマは下を見る。

 そこには、下敷きになったテトがいた。

 足の骨が折れているようで、その表情には苦痛の色が見える。


「チッ……こんなに早くポーションを使うはめになるとはな」


 ファルマは懐からポーションを取り出し、テトの口に突っ込む。

 少し咽ながらも、テトはそれを飲み干した。

 

「動けるか、さっさと逃げるぞ」


「あい」


 テトの歪な形になった足が、徐々に元に戻る。

 少し時間をかけて立ち上がり、テトはファルマの後ろについた。


(と言ったものの……逃げきれないな)


 ファルマは冷静に現状を分析する。

 サルトビが近づいてくる気配は、現状ない。

 しかし、もし二人が生きていることを知れば、すぐさま殺しに来るだろう。

 生かして帰すわけがない。


「はぁ、さて……どう戦うか」


「戦うの?」


「それしかないだろ」


 サルトビとファルマの実力差であれば、ファルマのストック分殺されてもおかしくない。

 組み伏せられ、ファルマが動かなくなるまで殴られるだろう。


(触れることが出来れば勝ちだ……だが気づかれたら負ける)


「おーおー、お前らすげぇな、両方無傷かよ」


「!」


 そのとき、二人の真上の木から、現在一番聞きたくない声が聞こえた。

 案の定、サルトビがそこに腰掛けている。


「別格なのはあの女騎士かと思ってたけど、案外お前だったのか? オイラも見る眼がねぇや」


「……おい、俺たちを何とか逃がしてはくれないか?」


「はぁ? んなもん許すわけねぇだろ?」


 サルトビは当たり前のことに言う。

 ファルマはその反応を見て、テトを前に突き飛ばした。


「こいつをやる。煮るなり焼くなり、殺すなり好きにしろ。だから俺のことだけは見逃してくれ」


「あう」


「――――はぁ」


 ため息をついたサルトビは、頭を押さえながらファルマを睨みつけた。


「そんな殺気しかこもってない視線を向けてきて、なーにが見逃してくれだ。何か仕込んでやがるな?」


「――――まあ、気づくか」 


 テトはその間に起き上がり、ファルマの後ろに戻る。


『呪殺』レベル2の技、『感染』。

 ファルマはこれを、テトにかけていた。

 この呪いを受けた者は、それと同時にかけられた呪いの感染源になる。


 つまり、テトは『呪殺』レベル1の技、『身代わり人形』を他人にも移すことが出来る人間になった。

 この状態の人間に触れてしまった者は、同じように呪いにかかった状態になる。

 もしさきほどサルトビがテトに触れていれば、ファルマの勝利だったのだ。


「おもしれぇ……ちょっと遊ぼうぜ、いいだろ?」


「願い下げだ!」


 ファルマはテトを掴み、後方に全力で走りだす。

 決して遅いわけではない。

 しかし、サルトビが速過ぎる。


「逃げんなって! キキッ!」


「くっ!」


 真横に並んできたサルトビに、ファルマは手を伸ばす。

 油断している様子のサルトビに何とか触れることが出来ないかと企んだファルマだったが、見事にその腕をかわされた。

 

「おら!」


 逆に、サルトビはファルマに爪を繰り出した。

 ラスロトですらギリギリで受け止められたその攻撃を、ファルマが対処できるはずもない。

 反射的に身を屈めたことで、肩に深めの傷を負っただけで済んだことは、幸運と言えるだろう。


「ぐっ……」


「そら! もういっちょ!」


 もう片手で、爪が繰り出される。

 ファルマは痛みに顔をしかめつつも、地面を転がって何とかそれを空振りさせることに成功した。


(回避に集中すれば、まだなんとかなるか……)


 テトを後ろに突き飛ばし、ファルマは正面からサルトビを見据える。

 サルトビの踏み込みから攻撃が来ることを予想し、ファルマは右へ左へ身体を動かしてかわす。

 しかし、当然そんなに上手く行くはずもなく、決して浅くはない傷を刻まれていった。


「キキッ! このまま血がなくなって死んじまうか!?」


「くそっ」


 ファルマの身体は、もうとてもじゃないが動く状態ではない。

 痛みに慣れているファルマだからこそ、動けているのだ。

 攻撃をかわしつつ、何度もその手を伸ばそうとする。

 だが、当然サルトビは指先程度も触れることを許さない。


(待て……まだだ、まだ待て)


 懸命に身体を動かし、ファルマは斬り裂かれつつも即死を逃れる。

 ローブが何箇所も斬られ、隠していたポーションがいくつか地面に落ちた。

 そのさい、いくつか瓶が切断され、ファルマの身体にかかる。

 それが傷口から入り、怪我を修復した。

 しかし、すぐにそれも無駄になる。

 次々と、さらに深い傷を負わされるからだ。


「なーんか期待はずれなんだけど?」


「うっ」


 ついに、胸元をサルトビの爪がえぐった。

 大量の血液が吹き出し、ファルマの視線を一瞬塞ぐ。

 そして――――。


「はぁ。やっぱつまらなかったわ」


 サルトビの腕が、ファルマの胸に突き刺さった。

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