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014 悲鳴

 あれからしばらくして、冒険者一行を乗せた馬車が停止した。

 

「ついたのか?」


「そうっぽいな。村が見えるぜ」


 馬車から降りたキースが言う。

 ファルマも馬車から降りると、確かに村が見える。

 高い木を並べて壁を作っており、唯一の入り口である門から、何とか中が見えていた。


「さてと、んじゃ目撃者さんに話を聞きに行くとするか」


 馬車からテトも降ろし、三人は別の冒険者とともに村の中に入っていった。


◆◆◆

「よくぞ来てくださいました、冒険者様方」


 村の中に入った冒険者たちを出迎えたのは、初老の男だった。

 どうやらこの村の長らしい。

 満面の笑みであり、冒険者たちを歓迎しているようだ。


「冒険者代表の、ラスロトだ。魔族の目撃情報について詳しい話を聞きたい」


 今回の魔族目撃情報は、主にこの村から得たものである。

 どうやらこの辺りの森で目撃されたらしく、その詳しい範囲を聞きに来ているのだ。


「はい、ではこちらへどうぞ――――と言いたいところですが、さすがにこの人数は……」


 村長が何十人もの冒険者を見ながら言う。

 ラスロトはそれを察して、冒険者たちの方に振り返る。


「ではここは私たちだけで行く。皆は自由に過ごせ、話を聞き次第再び集まってもらう」


 黒髪の魔術師が、ラスロトの横に並ぶ。

 もともと細かいことを嫌う冒険者たちは、素直に従って散らばり始めた。


「冒険者さま! 村の料理はいかがですか!」


「果実のお酒もありますよ!」


 それを合図に、村の人間たちがぞろぞろと現れた。

 料理や酒をそれぞれが持っており、近い冒険者たちに振舞っている。

 村人たちに笑顔で歓迎された冒険者たちは、まんざらでもなさそうな顔で飲んだり食べたりを始めた。


「さて、お前らはどうする?」


「馬車に戻る。この村に用はないからな。行くぞ、テト」


「あい」


 テトを引き連れ、ファルマは村の外へ歩いて行く。


「お兄さん! お酒以外の飲み物もありますよ!」


「いらな――――」


「飲みたい」


「……」


 テトが眼を輝かせながら即答し、ファルマは無言でそれを睨みつける。

 それを見てさらに笑顔になった村人は、コップに入った飲み物を二つ渡した。


「ありがと」

 

 テトはそれを飲み、美味しいとつぶやく。

 そして、飲もうとしないファルマの方をじっと見つめ始めた。


「なんだ」


「美味しい、飲んだほうがいい」


「……ッチ」


 村人からもじっと見られ、ファルマはしぶしぶ口に運ぶ。

 当然味は感じず、そのコップをテトに渡して、ファルマは歩き出した。


 村の門は開いており、二人はそこから外に出る。


「マスター」


「何だ」


「何で外に出るの?」


 テトは首をかしげながら、ファルマに聞いた。

 ファルマは馬車に乗り込みながら、面倒くさそうに答える。


「……あの村、出口が今出てきた門の一つしかなかった」


 村の構造を思い出す。

 まず、出入り出来る門が、北と南にひとつずつ。

 あとはすべて分厚い丸太の壁であり、隙間ひとつない。

 

「俺たちが入ったのは北門、そして見える限りで、南門は閉まっていた。近くで魔族が目撃されているから当然なのかもしれないが、少し嫌な予感がする」


 魔族の侵入を防ぐという目的で閉まっていると考えるのが普通であるのだが、ファルマはどうやら何かが引っかかっているようだ。

 

(考え過ぎか……? でもあの村人たちの眼――――)


「テト、あの料理食べたかった」


「……お前、遠回しに俺を責めているのか?」


「……料理」


「寝とけ」


 ファルマはテトの頭を軽く叩き、腕を組んで目を瞑る。

 徹夜をしているため、あまり体力が残っていなかった。

 当然、叩いたときにテトに魔物除けの呪いをかけておき、自らの安全を確保したうえで睡眠を取る。


「料理……」


 最後にそんなつぶやきを耳にしながら、ファルマの意識は落ちていった。


◆◆◆

「なんだぁ~? ずっとここにいたのかよぉ」


「……」


 聞き慣れてきた男の声で、ファルマは眼を覚ました。

 馬車の中を覗き込んでいたのは、頬を赤く染めたキース。

 ほのかに香るのは、酒の匂いだ。


「んぅ……キース、お酒臭い」


「ははは! いいじゃねぇかよぉ美味いぜ? 村の酒」


 同じく眼を覚ましたテトの突っ込みに対し、キースはその手に持った酒を見せることで答える。

 それを一口飲むと、キースは馬車の中に乗り込んできた。


「お前らなぁ……もうとっくに情報共有も終わっちまってるぜ? すっかり夜だ」


 ファルマはちらりと開いたドアから顔を出すと、そこには黒い空が広がっていた。

 曇っているためか、月の光は朧気に見える。

 確かに夜になっており、ファルマがかなり長い時間眠っていたことの証明になっていた。


「……しまったな」


「まあその説明のために俺が来てやったんだ、感謝しろよ?」


 得意げなキースを見て、ファルマは自分の失態を悔やんだ。

 これほどまで熟睡するつもりがなかったファルマは、なぜこんなに眠ってしまったかを考える。


(スキルの使いすぎか……? いや、今までそんなことはなかった……どういうことだ?)


 結局結論は出ず、ファルマは大人しくキースから話を聞くことにした。


「どうやら、魔族の姿が見られたのはここから南にある森らしい。村の人間が人かと思って話しかけようとすると、頭に角が生えていたそうだ。ビビった村人はすぐにその場を離れ、村まで戻った。んで、その情報をギルドに送ったと」


「南の森か……ちなみに魔物は出るのか?」


「今まで通ってきた道に出る程度のやつならな。大したものはいない。森の中で戦闘になっても、気にすることはねぇ。とりあえず今日は村に泊まって、明日探索だ」


 ファルマはそれを聞き、少し考える。

 

「……俺は村で泊まらないことにする。この馬車でいい、中には入らない」


「あ? 何でだよ」


 キースは信じられないものを見る目で、ファルマを見た。

 村の人間たちは、冒険者全員分の寝床を用意しているらしい。

 世話になる気しかなかったキースからすれば、ファルマの発言は疑問点ばかりだろう。


「理由は特にない。しいて言えば、嫌な予感がするからだ」


「……」


 そう言ったファルマの眼を、キースは正面から見つめる。

 ファルマの眼は、意見を曲げる気のない真っ直ぐな眼だった。


「……オーケー。なら俺もここにいよう。何となくそうしたほうがいい気がするからな」


 キースは笑う。

 ファルマとしてはどうでもいいことだが、近くに戦力が残っていることは素直に嬉しいことだ。


「へっ、お前らがいるなら、俺も寝ていいな。見張り頼むぜ」


「……まあいいか」


 特にすることもなく、ファルマは大人しく見張りを受け持つことにする。

 たっぷりと睡眠を取り、もう眠ることは出来ない。

 ここで気配察知の訓練をさらに積んでおこうという算段である。


「おやすみ」


「おやすみー」


「……」


 キースが目を瞑る。

 すぐに寝息を立て始め、もう寝てしまったようだ。


「のんきなやつだ」


「キース、面白い」


 どの視点からその言葉が出てきたかは分からないが、対応するのも疲れるため、ファルマは自らの訓練に集中し始めた。

 


 夜の時間は進み、テトが退屈すぎて馬車の木枠をかじり始めた頃――――。

 

 小さな音が、ファルマの耳に入ってくる。

 

「ッ!」


「何だ!?」


 キースも同時に飛び起き、武器に手を伸ばしている。

 聞こえた声は、悲鳴であった。

 馬車から飛び出したファルマは、もう一度、その悲鳴を耳でしっかり捉える。


「村の方だな……テト!」


「あい」


 キースとともに、テトも馬車から降りてくる。

 すぐ近くに危険がないことを確認して、三人は村の方へ走りだした。

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