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013 赤い影

「テト! 馬車の中にいろ!」


「あい」


 ファルマはすぐにテトに指示を出し、馬車の中で待機させておく。

 下手に動かれてレッドモンキーに捕まっても厄介だからだ。


「レッドモンキーの群は多くても30匹ほどだ! ランクはE! 一匹一匹は大したことねぇぞ!」


 キースが一匹始末しながら、周りに聞こえるように叫ぶ。

 あまり実力のない冒険者も、それを聞いて武器を手に取った。


「ふっ!」


「キーィ!」


 ファルマは目の前のレッドモンキーの胸にナイフを突き立てる。

 甲高い断末魔とともに、赤い血が地面に滴り落ちた。

 その身体から力がなくなったことを確かめ、ファルマはナイフを抜き去り地面に倒す。


「いいぞ! あと10匹だ!」


 キースのその声に冒険者たちは活気づき、攻撃の手を早めていく。


「猿が……」


 ファルマは新たに正面に現れたレッドモンキー二体を睨みつける。

 レッドモンキーは身体を揺らしながら、タイミングをずらして襲いかかってきた。


「キィー!」


「ゴブリンよりは速いな」


 片方のレッドモンキーの爪を弾き、もう片方の腕をくぐり抜けたファルマは、ゆっくりと振り返った。

 二体のレッドモンキーは、動けない。

 もうすでに、ファルマのナイフで浅く傷を付けられているからだ。


「あまり人前じゃ目立てないからな、すぐ死ね」


 もう一本ナイフを抜き、ファルマはそれをレッドモンキーたちの首元に突き立てる。

 二体はビクンと痙攣すると、その眼から光りを失った。

 

(レベルはまだ上がらないか……)


 ファルマは崩れ落ちたレッドモンキーたちを眺めて、頭の中で今まで『呪殺』を使った回数を数えた。


(レベル2になるまでに200は『呪殺』を使った。レベル3にはさらに多くの経験が必要になるとして、単純に400回使えばいいのか?)


 ファルマはレベルを2にしてから、それなりに『呪殺』を使用してきた。

 街に着くまでもレベル2の技を試すために使用したり、ゴブリンのときもそれなりに使うはめになっている。

 回数的には200は超えただろう。

 育ちにくいスキルであることは分かっているのだが、ファルマの気持ちはどうしても焦ってしまっていた。

 

(これじゃダメだ……)

 

 ファルマは拳を握りしめながら、レッドモンキーの死体を蹴りつける。

 その死体は、間もなく宙に溶けて霧散した。


「――――そう言えば」


 ふと、ファルマはキースの方を見た。

 そこにはレッドモンキーに止めを刺すキースがおり、かなり余裕が見られる。

 さすがはC級冒険者と言ったところだろう。


(チッ……)


 キースが強いということを、嫌でも思い知らされる動きだった。

 それがさらにファルマを焦らせる。


 その後、ただ図体が大きく、鋭い鉤爪を持つだけのレッドモンキーたちは、彼らの手であっという間に殲滅された。


「負傷者はいないか!」


 戦闘も終わり、回復魔法の使える冒険者が皆に聞こえるように叫ぶ。

 誰も反応しないところを見ると、どうやらかすり傷はあっても治療が必要なほど負傷した者はいないようだ。


「とんだ障害物だったな」


 ファルマはナイフについた血を払い、腰に戻す。

 しばらく辺りを警戒していたキースも、第二波がないことを確認して剣をしまった。


「いやはや、スムーズだね。B級冒険者がいるとこうも違うんだな」


 キースはラスロトの方を指して言った。

 傷一つなく、返り血一つ浴びていない美しい女が、そこには立っている。

 剣についた血を払い、ラスロトは凛とした声で冒険者たちに声をかけた。


「皆、ご苦労! 近くにレッドモンキーの死体が転がっている者は、各自で素材を取っておくといい。しかし休憩時間は過ぎている。それにレッドモンキーの血の臭いで別の魔物が釣れても面倒だ。よって一人ニ体までにすること。それが済み次第出発するぞ」


 言われなくても、ファルマはすでに素材の採取を終えていた。

 ラスロトの言葉を聞き流し、ファルマは馬車に戻る。


「無事?」


「当然だ」


 大人しく馬車で待っていたテトと軽く言葉をかわし、ファルマは座席に座り込む。

 そしてレッドモンキーの爪をテトに渡した。


「これをカバンにしまっておけ。少しは金になる」


「あい」


 受け取った爪を、テトは空いているカバンにしまい込む。

 そのタイミングで、キースも馬車の中に戻ってきた。


「ふぃー……もう出発するってよ。それにしても、こんなところでレッドモンキーどもに会うなんてな」


「あいつらはこの辺に生息しているんじゃないのか?」


「本来あいつらは臆病な魔物なんだ。赤いのは見た目で威嚇するためだし、群で行動するのも怖いからだ。けど、今日はなぜかこんな馬車が通れるほどの道に出てきている」


 キースは何か考えごとをするように、頭に手を置いた。

 

「人の通りもそれなりにあるし、いつもなら絶対こんなとこには出てこないんだが……」


「何か森の中に強い魔物が出たんじゃないか? 追いやられたとか」


「その線はありそうだな……帰ったらまた調査しねぇと」


 キースは面倒くさそうに頭を掻いている。

 それっきり関心をなくしたファルマは、腕を組んで眼を閉じた。


(……ん?)


 ファルマが再び気配を探る訓練を開始してみると、森の中から不思議な気配を感じた。

 気になって眼を開けると、その気配はもう消えている。


「どうした?」


「……いや、気のせいだ」


 若干の気味悪さが残ったが、移動を開始した今ではどうすることも出来ない。

 ファルマは再び目を瞑り、気配探知へと戻った。


◆◆◆

「へぇ、まともなやつもいんじゃん」


 先ほどレッドモンキーが飛び出してきた森の中。

 そこのもっとも高い木の頂上に、「それ」はいた。

 赤い髪に褐色の肌の男。

 身体には布が巻いてあり、下半身には腰巻きの下にぶかぶかのズボンを履いている。

 そして頭部の角。

 それは、この男が「魔族」であるという証明。

 魔物という驚異の、さらに上位種――――。


「あの片手剣の男と、フード被ったナイフ使いはそれなりだな。金髪とローブの坊ちゃんはあの中じゃ別格ってところか」


 魔族は自分の顎を触りながら、値踏みをするように冒険者一行の馬車を眺めている。


「オイラの子分どもじゃ歯が立たないわけだぜ」


 さてと――――。


 そう言って、魔族は木から飛び降りる。

  

「そろそろ人間狩りの仕掛けを作動させねぇとな」


 魔族は驚異的なスピードで、森の中の木から木へと飛び移っていく。

 一瞬のうちに静まりかえった森には、木が揺れて落ちた葉だけが動いていた。

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