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012 赤い猿

「二人はどんな戦い方をするんだ?」


 魔族が目撃された地域へ向かう道中。

 馬車の行列の最後尾に、三人は乗っていた。

 その中には他の冒険者はおらず、運転手が外にいるのみだ。


「言わない。そんなものペラペラ教えられるわけがないだろ」


「んなこと言われても、知らなきゃ連携は取れないだろ? パーティの基本だぜ」


「パーティを組んだ覚えはないぞ」


 ファルマは不機嫌そうな顔で否定する。

 確かにパーティを組むという話は一度もしていなかった。


「……オーケーオーケー。じゃあ俺のスタイルを先に話す。それでどうだ?」


「……ならいいか」


 あまりに要求に答えないようではさすがにまずいと判断したファルマは、その提案に乗ることにした。

 当然本当のことを言う気はない。


「じゃあまず、俺の獲物はこれだ」


 そう言ってキースは、腰の片手剣の柄を叩く。

 シンプルな造形のその剣は、見るからに使い込まれた形跡が見て取れる。


「長年使ってる相棒だ。基本的にはこいつで近接戦だな」


 次にキースは剣から手を離し、手の平で円を描いて魔法陣を作るふりをした。

 

「あとは魔法がある程度使える。中距離なら一応働けるぜ」


「思いの外優秀だな」


「これでもCなんだぜ? 当然だこれくらい」


 キースは自慢気に胸を反らす。

 ファルマからすれば、キースはただのお喋りな男だった。

 しかし、よくよく姿勢や体つきを観察してみると、かなり洗練されていることが分かる。

 手練に間違いはなさそうで、『呪殺』なしのファルマでは対処できないだろう。


「で、お前は?」


「……俺の獲物はナイフだ」


 そう言いつつ、ファルマはローブの下に隠していたナイフを見せる。

 

「それだけじゃねぇだろ?」


「……」


 ファルマの一本しか持っていないという嘘を、あっという間に暴かれてしまった。

 しかし、これはファルマの予想の範囲内だ。

 どれほどの嘘が通じるか、観察眼はどの程度か、それを判断するための嘘である。

 

(頭はやっぱり回るか――――)


 こう言った部分に、経験の差が出るのだろう。

 ファルマはしぶしぶローブの中から数本のナイフを見せた。


「投げナイフから近接までは出来る。俺も近接、中距離はこなせるな、魔法は使えないが」


 嘘は言っていない。

 今度のファルマの発言には嘘がほとんどないため、キースは気づかずに信じたようだ。

 実際、現在のファルマでは『呪殺』を発動させるために接近する必要があるため、どの道近接戦をしなければならない。


「最初から正直に言えよな、隠し事はなしだぜ」


「悪いな、言う必要がないと思ってた」


 すまし顔で言ったファルマだが、投げナイフの件については伝えなくていいと思っていたことは事実である。

 投げナイフなど、魔族に通用するかどうか定かではないからだ。

 

「ま、それはいいとして……んで、そっちのお嬢ちゃんは?」


「テトはテト」


「あ、いや、そうじゃなくてな――――」


 おそらく、テトは今までの話を聞いていなかったのだろう。

 ひたすら干し肉を齧っていたため、それに夢中になっていたに違いない。

 呆れたファルマは、テトの代わりに彼女の紹介をした。


「こいつの武器はメイスだ」


 そう言ってファルマはテトのローブに手をかける。

 めくり上げると、そこにはメイスが収納されていた。

 

 ちなみにだが、河原の一件から服は与えてある。


「へぇ、お嬢ちゃんはどれくらい戦える?」


「テト」


「……テトはどれくらい戦える?」


 ファルマに質問したはずが、テトに呼び方を矯正され、キースは困惑顔を浮かべた。

 そんなキースを見かね、ファルマは面倒くさそうに質問に答える。


「雑魚程度なら対処出来るだろう。ただ頭は悪いから、簡単な指示しか聞けない」


「うん、テトは頭悪い」


「お嬢ちゃんはそれでいいのか……?」


 可哀想な眼でテトが見られ始めたので、ファルマは話を進めることにした。


「あと、お前が期待した通りの怪力だ。荷物持ち役ならかなり役に立つぞ」


「テト、有能」


 キースは、息が合っているのか合っていないのか分からないこの二人組と接している内に、自分が疲れてきていることに気づいた。

 意図せずため息が漏れ、お世辞にも揺れが少ないとは言えない馬車の座席に寄りかかる。


「とりあえずお前らのことは分かった。んじゃ戦闘のときは、ファルマが前衛、俺が中衛。テトが状況に応じて前衛または後衛――――でいいか?」


「それでいい」


「後衛ってなに?」


「後ろにいろってことだ」


「あい」


 テトも理解したようで、ファルマとキースも自分の役割を確認した。

 これは、もう三人が話すことがなくなったことを意味する。


「もうしばらくしたら目的地か、今のうちに休んでおこうぜ」


「寝ていいぞ」


「そうさせてもらうわ、何かあれば起こせよ」


 そう言って、キースは腕を組んで眼を瞑る。

 寝息が聞こえ始めたあと、ファルマはキースから視線を逸らした。

 

(冒険者ってのは寝るときまで警戒心を解かないのか……)


 あくまでこれはファルマの感覚の話だが、先ほどからキースに隙を感じない。

 今攻撃すれば、十中八九反撃を受けるだろう。

 残念ながら経験の薄いファルマでは、それをしっかり確認することが出来ない。

 

「これじゃダメだな」


 ファルマの最終的な目標は、世界を統べることが出来るほどの地位に上り詰めること。

 しかしこのキースと言う存在に出会ったことで、ファルマは一層気を引き締める。

 力がモノを言うこの世界で、自分の力がまだ上位にすらなっていないことを、改めて実感した。

 

「んむぅ……」


 気づけば、テトも寝息を立てていた。

 ファルマはそれを意に介さず、辺りの気配を探る訓練を始めた。


◆◆◆

 それに気づいたのは、二人が眠りに落ちてから二時間ほどのことだった。

 馬車は現在休憩のため停止している。


「ッ!」


 ファルマはナイフを抜いて馬車から飛び出す。

 限りなく精神を研ぎ澄ませていたから気づいたことだが、右方向から地を蹴る音が聞こえた。 


「うおっ!」


 飛び出した瞬間、ファルマの視界には、毛むくじゃらな人型の何かが広がっていた。

 それはファルマに飛びつくと、そのまま地面に押し倒す。

 

「こいつは……猿か!」


「キキーッ!」


 ファルマはその生物の押さえつけようとしてくる腕を掴んで止め、鋭い鉤爪をナイフで押さえる。

 その生物の姿は、猿と類似していた。

 しかし眼は赤く光り、体毛は真っ赤。

 体格は人間と同じほどであり、ファルマを覆い隠している。


 レッドモンキー、それがこの魔物の名前だ。


「おい!」


 何とかファルマがレッドモンキーを押し返そうとしていると、キースの声が響いた。

 次の瞬間、レッドモンキーの顔面に蹴りがめり込む。

 そのまま吹き飛ばされ地面を転がるレッドモンキーに駆け寄ったキースは、その首に片手剣を叩きつけた。


「キッ……イィ」


「ふぅー」


 しっかりと息の根が止まっていることを確認し、キースは息を吐いた。

 

「ファルマ!」


「無事だ、怪我はない」


 立ち上がったファルマは、歩いてレッドモンキーの元へ向かう。

 騒ぎを聞きつけ、他の冒険者たちも次々に馬車から降りてきた。


「何だ!?」


「魔物だ! レッドモンキーが襲ってきた!」


 キースが叫ぶ。

 襲って来た魔物は処理したのに、なぜ叫んだか。

 それは――――。


「来るぞ! 団体様のお出ましだ!」


 森の中から、やかましい鳴き声が複数。

 赤い影が無数に動き回り、四方八方から飛び出してくる。


 そう、レッドモンキーは、常に数十匹の『群れ』で行動するのだ。


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