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011 出発

「結構集まるんだな」


「人いっぱい」


 キースと話してから数日後のギルド。

 ファルマとテトは、5、60人ほどの冒険者たちに囲まれていた。

 

「予想以上に集まってなぁ」


 そんな彼らに話しかけてきたのは、数日前、魔族の情報を話してきた男、キースだった。

 

「ま、お前らも当然参加だよな。なんたって魔族の情報または討伐をこなせば、等しく30万G。当分遊んで暮らせるぜ」


 そう、この冒険者の集団は、すべてとある依頼に参加するために集まっている。

 

 先日キースが持ちかけてきた提案。

 魔族捜索クエストへ参加しないかという誘いに、ファルマは乗った。

 金銭面もかなり魅力的ではあったのだが、ファルマからすれば重要な点はそこではない。

 それは、魔王と繋がりのある魔族に出会うこと。

 支配者側を目指すファルマとしては、今もっとも支配者に近い魔王に近づくことが何よりも可能性が高い方法だ。

 しかしいきなり魔王の根城である魔王城に乗り込んだところで、敵扱いされてすぐに始末される。

 ならば、付添人をつける他ない。


「金の話は今はいい。それより、何でお前は俺たちに声をかけた」


 ファルマはキースの話を切り、質問を投げかける。

 

「少しでも生存率を上げるためだ。基本的にお前らと俺は行動を共にしたい」


「信用出来ないな。俺はまだ底辺ランクだ。そんな人間と組みたい人間がいるわけないだろ」


「信用出来ないのはこっちも同じだぜ。お前、色々隠してんだろ? 多分適正ランクはFなんかじゃねぇ。俺と同等、それかさらに上。嬢ちゃんもでかい荷物背負ってたところを見ると、相当な怪力だ。一緒にいれば、生存率がかなり上がる、そう見てんだよ俺は」


 何か質問でも? ――――という表情のキースに、ファルマはもっともな質問を返す。


「なら、信用出来ない俺じゃなくて上のランクのやつに近づけばいいだろ。俺が聞きたいのは、何で俺たちだったのかだ」


「……あれ見ろよ」


 キースが小さな動作で、目標を指す。

 そこには金髪の美しい容姿を持つ女騎士と、純白のローブを纏った黒髪の魔道士がいた。

 二人はパーティを組んでいるらしく、今は談笑しているようだ。


「あそこにいるのは、冒険者ランクBの二人だ。今この街にいる冒険者だと、かなりの上位の存在だろう」


「なら――――」


「だがな、あの二人は二人で完成形っぽいんだわ。俺の入る隙一つねぇ。そんでもって、俺は今あいつらの次に強い」


 ファルマは若干その言葉が信じられなかったのだが、キースが自己紹介でC級と名乗っていたことを思い出した。

 今のところ冗談で言っている様子もなく、ファルマはこの場はとりあえず信じることにする。


「弱いやつと組んでも意味がねぇ。せいぜい肉壁だ。なら、実力もそこまで差がなさそうで、なおかつほぼソロで活動して、俺の情報を必要としていそうな人間。それで探したときに、お前が見つかった」


「……」


「つまりは、お前に情報を与えた代わりに、俺の生存に貢献しろってこった」


 そう言ってキースは、ファルマの肩に手を乗せる。

 鬱陶しそうにファルマはそれを払うと、新たに浮かんだ疑問をぶつけた。


「……それより、C級が生存を第一に考えるくらい、魔族というのは強いのか?」


 C級と言ったら、冒険者では中堅レベルだ。

 それなりの経験を積んで、実力が認められてきた者が多くいる。

 仮にもその一員のはずのキースがここまで保身を考えるなど、どれほどの難易度があるのだろうか。


「強いね、遭ったら即逃げるレベルで。お前、魔族の階級については知ってるか?」


「何だそれは」


「強さによって階級が分けられてんだわ。まず、一番下が『ポーン』、次が『ナイト』、『ビショップ』、『ルーク』、『クイーン』と続き、最後は魔王、『キング』だ」


 ファルマは聞いて少し思い出した。

 昔見たボードゲームにそんな名前のついた駒がいたことを。

 記憶が正しければ、その駒と強さの階級の並びが一緒であるということを。


「そもそも、魔族ってのは魔物の上位互換だ。魔物相手に無双出来たところで、魔族に勝てるわけじゃねぇ。ポーンならまだしも、ナイトレベルになれば俺くらいじゃまず相手にならねぇしな。B級二人と共闘できればまだ可能性はあるが」


「で、今回の相手は何番なんだ?」


「分からねぇ。それを調査すんのが今回の依頼だからよ」


 このクエストは、数件の魔族目撃情報と、ここ周辺に起こった問題を関連づけて出来たものである。

 魔族の実態も含め、階級も不明。

 それゆえに、今回のクエストでは情報収集だけで報酬が発生する。

 

「もし、ただのポーンクラスだったら話は終わりだ。これだけの人数揃えば袋叩きに出来る。だが、もしナイトクラス以上の存在だったら、全滅すら視野に入るぜ。逃げなきゃいけない、そんなときに、足を引っ張られて追いつかれんのはごめんだ」


「……」


「何とか仲間をって思ってたときに、お前だ。その何事にも動じなさそうな態度、逃げるときにパニックにならず、スムーズな逃走が出来そうでよ」


 キースにはどうやら、共闘するという発想はあまりないようだ。

 本命は、互いの逃走補助。

 最悪のケースを考えた、ある意味堅実的な考えである。


「ま、そういうわけだ。納得してくれたか?」


「お前が臆病者ってことは分かった」


「バカ言え! 魔族なんて本来『勇者』が相手にするもんだ! 一介の冒険者が相手取るような連中じゃねぇんだよ!」


 心外だとばかりに、キースは声を上げる。

 そんな彼を尻目に、ファルマは手を差し出した。


「……んだ?」


「そういうことならいいだろう、協力する。お互いの逃走補助だろ?」


「な、何か怖いな……」


 急に態度が柔らかくなったファルマに対し、キースは気味悪さを覚えた。

 しかし、目的の同盟は組めたため、喜んでその手を握る。

 

 ――――それを見て、薄く、ファルマは笑った。


(やらないつもりだったけどな……)


 何か違和感を感じたのか、キースは首を傾げる。

 ファルマは悟られる前に、その手を離した。


「それにしても、魔族が強いなら何でこんなに冒険者が多い? 命知らずか?」


「ほとんどは報酬に眼が眩んでる連中だろ。魔族の恐ろしさを知らないやつらだ。下手すりゃほとんど生き残らねぇ」


「そういうものか」


 ファルマは数人の冒険者と接触し、身代わり人形をかけておこうと思っていたが、やめた。

 おそらく、ファルマが何らかの怪我を負う前に、呪った連中が死ぬだろう。

 下手に呪いをかけておいても、無駄な可能性は高い。

 呪い一つでも、多少なりとも精神力をすり減らすのだ。

 必要に応じて現地で増やし、最終的に、クエスト終了時に無事な連中と接触すればよいと考える。


「おっと、そろそろ出発のようだぜ」


 キースがそう言うと、それまで騒がしかった冒険者たちの声が小さくなっていく。

 集団の中心に、さきほどの金髪女騎士が立ったからのようだ。

 

「よく集まってくれた、諸君。私はラスロト、今回この魔族捜索クエストのリーダーを任された者だ。そこの魔道士とともにB級に属している。実力は信じてくれていい」


 ラスロトと名乗った女騎士の声は、とても美しかった。

 ほとんどの男たちがその声に聞き惚れ、あまりこの場では多くない女たちも思わず耳を傾けている。

 品のある姿勢で、ファルマは思わず「本当に冒険者か?」とつぶやいていた。


「今回のクエストは、いくつかの目撃情報があった魔族の捜索だ。魔族とは知っての通り恐ろしい存在。捜索範囲に到着次第、私の指示はしっかりと聞いてほしい。誰一人として犠牲にならずに帰還しよう。以上だ。それぞれ出発準備が整っている者から、外の馬車に乗り込め」


 この場はラスロトの言葉でお開きとなり、冒険者たちはそれぞれの装備を確認し始める。


「さて、俺たちは行きますかぁ」


「テト」


「あい、大丈夫」


 しっかりとカバンを背負っているテトを確認し、ファルマもキースに続いて外へ歩き出す。

 魔族への期待に、胸を踊らせながら。


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