パスタが持つ魔力は惚れ薬
紅学園にはとても美人な保健医がいる。
名前を白石琴夜。長い金髪をサイドテールに結った長身痩躯の女性で、教員としては問題になっても可笑しくない胸元が開けた服に白衣を纏っている24歳だ。
彼女は白石真奈の従姉妹で一葵――天宮葵の事情を知っている人物の一人。その事から、葵はよく保健室を訪れる。
「おはよう琴夜」
「琴夜先生でしょ」
「そんなえっちな先生は居ない」
「えっちな目で見てるの?」
「俺は琴夜を見るとき、目を閉じてるよ」
「なんで?」
「一番光るお前が見えるからだ」
「あらやだ……」
「まあ億千の星の一つでしかないがな」
「一葵モードを所望する」
「パスタ作ってくれたら考える」
「ちょっと買ってくる」
「いってらっしゃい」
「止めなさいよバカ」
琴夜に頭をグリグリされ、うぐぅと唸る葵。とある記憶が蘇り、ヘッドロックされてしまう前に琴夜から離れると、ベッドにダイブ。ビン底眼鏡とカツラを脱ぎ捨て、大きなあくびをもらした。
「もうすぐ冬休みだけど、クラスメイトと約束とかしてないの?」
「んー……そんな暇はない」
「私から真奈に言ってあげよっか?」
「いいよ別に。真奈は仕事には厳しい」
「そりゃいつまで経っても未通だ」
「人の事言えないだろ琴夜も」
「私の初めては葵にあげるって決めてるからね」
「俺じゃなく『一葵』だろ」
「どっちも一緒よ」
「なら新曲CDを100枚買えよ。なら考えてやらなくもない」
「買う。ホントに買うからね?」
「ごめんなさい」
「言質は取った。遅い」
言って琴夜はいつの間にか起動していた録音機を再生。先ほどの会話が全て録音されていた。
これはマズイ。
起き上がった葵は――否、一葵は琴夜の顎をクイっと摘み上げる。
「君は満足できるのかい?機械から流れる僕の声で。僕はここにいる。君だけの前に、僕はいる。肉声なら、好きなだけ聞かせてあげるんだけど」
「きゅぅぅぅん♡」
琴夜は録音機を踏みつぶした。
「良い子だ。今日は好きなだけ囁いてあげるよ。では――1日限定一葵貸切プラン・ボイスコース、とくとご堪能あれ」
琴夜の耳が孕んだ。