辿り着いたのは楽園、実っていたのはSGFW。
放課後。葵が向かったのは、所属する事務所だ。
白石芸能事務所。数多くのアイドルを輩出しているこの事務所で、トップを誇るアイドルは二人。
一人は、一葵。もう一人はMIOという女性アイドルだ。
葵はMIOとそれほど面識が無く、彼女のプライベートは全くと言っていいほど知らない。だが、彼女も一葵と同じくアイドル業と学業を両立しているとの噂だ、苦労していることに違いない。
もし次ぎ合う時があればゆっくり話をしてみたい。そんなこと思いながら、社長室をノックする。
「入るぞ」
「どうぞ」
入室と共に変装を解き、奥のデスクに座る社長と視線が合う。
長い金髪、色気漂う顔立ちは良い年齢を感じさせ、自己主張の激しい豊満な胸は服を破って暴れ出しそうだ。
彼女は白石真奈、30歳。当事務所の敏腕女社長。加え、幼いころに両親を事故で失った葵を引き取った白石家の長女で現在は彼の後見人であり、葵の素質を見抜いてアイドルデビューさせた張本人だ。
葵は社長室のソファに腰掛けると、開口一番こんなことを言い放った。
「今日と明日の仕事――オールキャンセルで」
「格好良く言っても許されないわよ」
「真奈の魅力に頭がクラりとしてしまってね」
「貧血か?」
「真奈のエロさに鼻血が止まらなくてね」
「今日もキレキレで調子いいわね。で、これから撮影なんだけど」
「フル無視か!? 先日のライブで疲れてるから休みたいんだけど!?」
「許さないって言ったでしょうに」
真奈はため息を吐くと葵の元に近寄り、正面に立つと躊躇無くヘッドロックを繰り出した。
「売り出しの時期に休めると思ってるのかなあ? あァん?」
「んーーー! んーーーーー!」
ギブアップを伝える為に片手で真奈をバシバシと叩く葵。だが感触が可笑しい。何やらとてつもなく柔らかい感触が掌から全身を駆け抜けたのだ。脳が痺れそうになる。まるで最も古い記憶を呼び覚まされているような、男という生物が本能的に求めるモノが、確かにそこにある――そんな気がしたのだ。
本能に委ね。葵は片手で柔らかい感触を鷲掴む。指が沈み込む。飲み込まれる。と思ったら心地よい弾力が指を押し返して、気付けば再び沈み込ませていた。止まらない。止めたくない。指が、求めている。
「ふぅん……はぁ……な、葵……なに、を……」
真奈の艶やかな声が耳朶を撫でる。一層、脳が痺れていく。意味が判らない。だがこれだけはわかる。
この柔らかさ、弾力、包容力、これは間違いなく、――至高の楽園に実った果実なのだと。
なんという名前の果実だ? どんな味がする? ジュースにすると美味しいのか?
気になる。気になって、手の動きが加速する。
衝撃的な体験だ。意識がふわふわしてくる。
一種の麻薬とさえ思える。もし、この麻薬に名前を付けるのならば、そう――。
SGFW――《ショウゲキノフワフワ》――
その後のことはよく覚えていない。
あまりの快感に意識を失っていたのだろうか。
ただ葵が疑問だったのは、なぜか真奈が顔を真っ赤にして息を荒げていたことだ。一体何があったのだろうか。しかしそれは、きっと聞いてはならぬことなのだろう。それを察した葵はそのまま撮影に向かうのだった。
彼が去った社長室で、真奈はぽつりぽつりとこぼしていた。
「葵に……揉まれてしまった……初めて男の人に……お、おっぱいを……ん……」
30歳白石真奈は魔法使いだった。