栄光煌めく一姫瞳染の世界
一葵ーーもとい、天宮葵は、自分が特別な人間だとは思っていない。確かに才能はあるのだろう、だがだからと言って天才だと自惚れたことは無かった。
これかも無いのだろう。
しかし。太陽や海、多種多様なモノと意思を交わせていることに関しては、幾らか『特別』なのだと感じている。
「デビューの時からファンです!これからも頑張ってください!」
「ありがとう。君の為に頑張るよ」
「はうん♡」
一葵の目の前で気絶した女性が運ばれていく。今は握手会の真っ最中だった。
思考していた一葵は半ば義務的に対応をしていたことを恥じ、意識を入れ替わり現れるファン達へ戻す。
100%女性。本来の天宮葵ならば地獄みたいな光景であるものの、アイドルモードに入っている彼にとっては天国と言って差し支えは無いのかもしれないが、やはり根幹の部分では苦手は残る。
チラッと列を見て、ざっと数千人を確認できる。多すぎる。まるでムカデ。じっと眺めていると気分を害してしまいそうな異質な光景だと思わなくも無い。
それを一切表情に出すことなく、一人数秒単位で握手会は進んでいく。
「大好きです!付き合ってください」
「大丈夫、君と僕はもう恋人だよ」
「どこの高校なんですか!?一緒のところに通いたいんです!」
「僕は『君の心の中高等学園』に通っているんだよ。もう、一緒だろう?」
「あの!好きな人は居るんですか!?」
「君さ」
「1+1は?」
「夫婦、かな。僕と君を足すってことは、結婚ってことだもんね」
「好きな食べ物は!?」
「淡い桜色でぷっくりとしたーー君の唇、かな」
「抱きしめてください!」
「今日の夜、君の夢の中にお邪魔させてもらうからその時ね」
そんなやり取りを数百、数千。ようやく終わりが見えてきた、そんな時だった。
一人の少女。
長い銀髪を靡かせる、ミステリアスで豊満な胸の少女だ。目測でHカップはあるとみて間違いない。乳房が溢れそうな純白のワンピースを纏い、少女は緊張した様子で、一葵と握手を交わした。
ーーその瞬間。
俯き気味の少女は口角を吊り上げ、ボソリと、こう呟いた。
「ーー万象と意思を交わせるのは、貴方だけじゃないんですよ」
「ッーー!?」
少女は剥がしに押されながら、最後にもう一つ言い残して、姿を消した。
ーー邂逅は近い。その時こそ、真に選ばれし者が誰なのかが分かりますから。
「……選ばれし、者……」
確実に、着実に、『何か』が一葵の身に迫ろうとしていた。
握手会を終え、一葵は空を仰ぐ。
「……何が、起ころうとしている」
答える者は居ない。
心無しか、風がざわめき、月が怪しげに嗤ったような気がした。
それから数日後。
学園の保健室で琴夜がほっこりした様子で葵に報告していた。
「あのね!一葵の握手会ね!私ったら20周もしちゃった!」
「目の前に居るだろうが……」




