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TIG〜トップアイドルは地味⁉︎〜  作者: トップアイドル
11/17

黄金の夜明け。世界はまた一つ、未来へ歩き出す



大晦日。除夜の鐘が鳴り始め、葵は事務所の屋上へ夜空を仰いでいた。

一年を振り返る――なんてことはしない。葵は、振り返らないのだ。

常に己は未来にある。

過去の葵は過去の葵。


「今の俺は、ここにしかいないからな」


雪がパラパラと降り始めた。

手のひらに落ち、溶け出す。

雨が世界の涙なら、雪とはなんなのだろう。葵は長年考え続けていた。


「嬉しい時は晴れ……悲しい時は雨……雪は……なぁ、世界。お前は今、どんなことを思っているんだ?」


返答はない。

そう簡単に意思は交わせないようだ。


「……俺が自分で見つけなきゃダメだよな。自分の手で掴んでこそ、天宮葵――トップアイドル一葵だから」


ならば、考え続けよう。


「……寂しい、かな。雪は儚く溶けて、消えていく。世界は寂しがっているのかもしれないな……。

だとしたら、俺になにができる?

俺は、世界の寂しさを和らげることができるのか?

世界一つ救えないで……なにがトップアイドルだよ……くそッ」


アイドルの仕事は人々を笑顔にすること。

それは世界とて同じだ。人が暮らしている世界。最も苦労をかけている世界には、誰よりも笑顔になってほしい。


「俺は、世界を笑顔にするために生まれたのかもしれない。だったら、俺が世界の友達にやってやらねぇとな……」


年越しが近い。

世界に寂しい想いを抱かせたまま、新たな年を迎えるのは嫌だ。

どうすればいい。

歌うか?それだけじゃ足りない。

もっと、寄り添わねば。

もっと、抱きしめてやらねば。

共に、夢を語り合う親友のように。


「――これで、いいか?」


事務所の外に出た葵は、地面に大の字になって寝転がった。


「声は聞こえない。でも感じるよ。お前の鼓動が。お前の温かさが」


ひんやりと肌を刺す寒風。

だが体の中を満たすのは温かさ。

悠久の時、人を守り続けた世界の心が、葵の中に流れてくる。


「ったく、寂しいなら寂しいって言いやがれ。わかんねぇだろ……っ!」


涙が頬を伝う。


「でもまあ……、気付いてやるのも親友の役目だよな。今日くらい、泣いていいんだぜ――世界」


ぽつりと、一滴、雨が頬に落ちる。

それは涙だったのかもしれないが、葵は世界の答えだと思った。


「可愛い奴め。強がるのもたいがいにしろよな。モテないぜ?」


あ、と葵は苦笑する。


「モテたら俺が嫉妬する。……だからそのままでいろ。ばーか」


そうして、年は明けていく。


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