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トゥーダナ

急に突風が起こった。

巻き上がった砂が目に入り両手で顔を覆う。アルゼルは私を抱えたまま馬から飛び降り、フレイが何か魔法を発動させると風が収まった。

涙目になりながら必死に目を開ける。


緑髪はフレイに向かって両腕を順に振り上げて風をぶつけ続けていた。フレイの服が切れてるあたり、かまいたち、というものかも。

無数のそれを表情変えず消し去ったり、弾き飛ばす感じはいつものフレイからは見てとれない国家騎士の姿だった。


金髪はというと私達の前に立ち、両手を組みアルゼルと睨み合っている。


「申請はしたが通らなかった。だから奪いに来たまで」

「断られた召喚をした上に魔法の繭が解けず一度退却。後に強奪とはイ・ダナも情けなくなったな」


それに、とアルゼルは続ける。


「魔法の繭を解いたご褒美が翻訳権だったらしくてな。俺に触れてないとこいつと会話は出来ないぞ」


流石に驚いたのか一瞬目を見開いたがすぐに怖い顔に戻った。


「ミミダナに協力を申請すれば大丈夫だろう」

「あそこの長が争い嫌いなのを知っててお前らからの協力申請が通るとでも?」


金髪は黙る。



「終わったよー」


フレイが片足で緑髪を押さえつけていた。体は魔法なのか何かに縛られているかのように硬直している。


「ディギ!」


呼ばれた緑髪はフレイを恐ろしい顔で睨み付けている。先程までの余裕をかましたニヤニヤ顔はない。


「君らにも城に来てもらおうかな。誘いの滝にいた奴等を殺したのは君達でしょ」


対して勝者のフレイは爽やかな笑顔だ。

アルゼルが凍り付けたあの人、殺されたんだ…


「色々聞き出そうとしてたんだけどね。回収班が吐いたってさ、ひどい有り様で」


ディギという男はククッと笑い、随分耐性がないんだな、平和慣れしやがって、とニヤニヤ顔を取り戻した。

次の瞬間、バチッとすごい音がなり視界が真っ白になった。アルゼルは私を抱き寄せて包み込んだ。守ってもらってなんですが、苦しい…


「アル…くるし…」


声を振り絞って訴えると、悪い、と肩を掴んで離れてくれた。


「フレイ、大丈夫か?」

「ちょっと足が痺れる~」


そう擦る足元にいたはずのディギがいない。



「あの人達は?」

「逃げたな。あいつは雷の使い手でかなり素早いことで知られてる。わかってたのに見えなかったな…」


何処か悔しそうに辺りを見回す。


フレイがピィッと口笛を鳴らすと何処からか馬が帰ってきた。


「うわ、お利口」

「戦闘中は身を潜むように訓練されてるよ。大事な荷物を背負ってる場合もあるからね」


そう言うと乱れた手綱を整えてまた出発した。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






城下町の入り口はとても大きい門だった。解放されているようで門番らしい人もいない。

馬に乗った私達はどうしても他の人より目立ってしまい、やはりキャアキャアと黄色い声が聞こえ出す。


この前の村と違うのは、遠慮なくフレイやアルゼルに近寄り話しかけてくる所だ。

お茶会にいらっしゃいませんか、夜会にはいつご参加ですか、などドレスを着ている女性が特に積極的に話しかけている。

フレイはニコニコと今度ね~とか、ありがとうね~、と流しながら対応しているがアルゼルは完全無視を決め込んでいるのか見もしない。



大通りから城へ続く坂道に入るところに今度は小さめの門があり、門番が数人いた。


お帰りなさい、と近寄った門番に降りた馬を託す。すると待ちわびたかのように女性が群がってきた。


「フレイ様、近々夜会を開くことになりましてぜひアルゼル様とご参加を!」

「アル様、わたくし一流の職人にブローチを作らせましたの!ぜひ受け取って下さいな!」


上着を二重に着込んだ女性が押し寄せる。



フレイがまだ任務中だからね~、と女性をなだめる中アルゼルは私と手を繋いだまま門番に通行の手続きをとっている。


「第一団長から聞いています。通行証の腕章をお渡しするのでシノヤさんにお付けください」


アルゼルが腕章をつけてくれていると、門の奥からフレイとアルゼルを呼ぶ声があった。

周りの女性達がそれに気付くと再び歓声が起き、雪崩のように押し寄せてきた。

人混みに揉まれる中で何この女、邪魔だわ、などと小さい声で罵倒されアルゼルと繋がる腕を体で強く押され手に力が入らなくなる。


こっちは離すなって言われてるのにっ…


もう駄目だ、と思った瞬間ピキピキピキッと腕に当たっていた体が凍る。

えっ、と顔をあげると群がる女性の半数が凍り動かなくなっていた。


なんだか一度体験した出来事だが、その時と規模が違った。

フレイは額に手をやり呆れた様子だった。




「おいおい、何やってるんだアルゼル」


門越しに話し掛けてきたのは暗い赤髪で背の高い50歳くらいの男性だった。


「…スミマセン」

「随分心が籠ってないな」


ジト…と睨み付ける。



「…えっとシノちゃん、僕らの団長だよー」


フレイの声で団長さんと目が合う。


「初めまして、篠谷と申します。ご迷惑お掛けします」

「第一騎士団長のジークフリードです。トゥーダナ城へようこそ、シノヤさん」


ニコッとしてくれるが、すごくオーラのある人で背筋が伸びる。

顔や腕に傷痕があり、彼の戦場での場数が読み取れて緊張する。


「君達申し訳ないが彼女達の処理を頼む」


ハッと門番兵が指示に従い魔法を使って氷を慎重に溶かし始めた。


「一刻も早く報告を受けたい。客室にソフィアも呼んでいる」






客室と呼ばれた部屋に行くまでにいくつもの扉を通り廊下を歩いた。

入り口に戻されたら同じ場所には辿り着けなさそうだ。


団長さんがドアをノックし入ると、フレイほどではないが色素が薄くて髪の長い女性がソファーに座っていた。


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