儚く脆い
アルゼルside
獣が最後の力を振り絞ったのか逝く間際に周囲に火球を放った。
結界を張ったとはいえそれは魔法に対するもので全ての衝撃を無効にするわけじゃない。
フレイと同時に危ない、と叫び駆け寄ろうとしたが彼女に向かっていった火球が不自然に渦を巻いて消えた。
「何、今の。消えたよねぇ…?」
フレイと共に思わず立ち止まってしまった。
ウタはこちらに背を向けてしゃがんでいたが、バッと上を見上げた。視線を追うと焼け焦げた木の枝が落ちていく所だった。
「ウタ!!」
今度こそ駆け寄るも間に合わずウタは悲鳴をあげて崩れ落ちた。
結界があるものの、枝が落ちてきたのは相当痛かったと思う。あざにはなるかもしれない、と彼女の腕を見ると火傷を負い血が出ていた。
何故?!結界は発動してたのに熱を防げなかったのか?!
青ざめた顔で気を失っている彼女を抱きかかえ急いで村の救護所へと走る。
フレイも驚き、走りながら彼女の手首を冷やそうと水の魔法を試みるがまた不自然な渦を巻いて消える。
「シノちゃん、まさか魔法が効かない体質?!」
「知るか!」
しかし、だとすれば俺の冷気を感じないと言っていたのも頷ける。
彼女は異世界人で、何が起きるかわからない存在だということが抜け落ちていた。
自分のせいで血を流すウタに謝罪の言葉もない…!
救護所に入ると第八騎士団の者が怪我人の治癒をしていたが、きっと彼女に治癒の魔法は効かない。
水道に行き、患部に水を流し続ける。水の冷たさに刺激されたのかウタが目を開けた。
「ィッ…」
「ウタ…俺の責任だ。申し訳ない」
水にあたる手首を見て久しぶりに火傷した、と俺に寄っ掛かっていた体を起こした。
「あんな場所にいて無傷な方がおかしいでしょ」
と、対して気にしない言い方をする。
本来は魔獣の討伐は第一騎士団の担うレベルではない。暴走していたとはいえ、それでも第三騎士団レベルだ。
「こんな事で保護対象者を守れないなんて第一騎士団失格だな。自主降格を申請しておく」
というとウタがギョッとしてフレイが持ってきたガーゼを落として掴みかかってきた。
「やだよ僕のパートナーはアルゼルじゃないと絶対無理!他の第一のやつらは癖がありすぎて我も強いし魔術師を雑用にしか見てないんだよ絶対!シノちゃんも自分の怪我で降格なんてしたら罪悪感感じちゃうよね!ね!」
「う、うんそうだね」
「第ニに降格したらシノちゃんの護衛も出来ないんだよ!シノちゃんの傍にいたいなら立場と権利を乱用できる第一がいいと思うんだよね!翻訳機は俺しか務まりません護衛もしますって!はい、この話は終わり!僕は村長に暴走の経緯を聞いてくるっ」
そう捲し上げると魔法でガーゼを清潔にして俺に渡し、村長のもとへ去っていった。
「フレイはアルゼルが大好きなんだね」
「…子供の頃から共にいたからな。あいつは魔力が高かったせいで色々言われ、信用出来る人間があまりいない。俺に依存してる」
二人は同い年に見えないね、とウタが笑う。
20分ほどたち、患部を見ると水膨れになっていたが痕が残りそうな深さではなさそうだ。
治癒の魔法はあるがウタにはうまく馴染まないので完治には時間が掛かる事を話すと、元々私の世界では自然治癒が基本だから気にしないで、と言われた。
それを逞しく思う反面、魔法があるこの世界では彼女は大変弱く脆い存在なのを思い知った。
彼女に結界の効果はほとんどない。
治癒魔法も効かない。
魔法も剣も扱えない。
ガーゼを巻こうとしている彼女を止める。
「別の魔法を試していいか」