ミヤコの企み
食事会の後、突如ミミダナのミヤコ様に呼び出される。
人気のない廊下の曲がり角を後を追って曲がると扇子を喉仏に突き立てられた。
「のぉアルゼル。良いことを教えてやろう」
「はい?」
「地球の婚姻について、じゃ。こちらに誓いを結ぶ儀式があるように、あちらにも似たような儀式がある」
背の低いミヤコ様は楽しそうに俺を見上げる。ソフィアさんなら喉が鳴ってそうな顔だ。
「結婚式の際、お互いの左手の薬指に指輪を通すそうだ。それが地球のやり方だ。参考になったかのぉ」
「…どんな指輪ですか?」
「様々のようだが。金であったり銀であったり。色を付ける者もおる。太さもそれぞれじゃ」
「参考になりました」
「感謝するなら、指輪作りはミミダナで頼む。絶対零度の騎士が結婚の際にミミダナ産の指輪を妻に贈ったとなれば売り上げが上がりそうでの」
くすす、と広げた扇子で口元を隠して上品に笑う。
指輪の制作をしてる店の紹介お願いします、というと迅速に対応しよう、となびく服を手に華麗に去っていった。
一年後、ミヤコ様の思惑通り結婚式での指輪の交換はトゥーダナで流行り、それがダナにも起こりつつある。
ミミダナでは指輪専門店が出来て、オーダーメイドで色々できる店が人気だ。
「誓いがあれば、十分なのにね」
「言うなれば誓いは色も形もお揃いではないからな。お前の国もなかなか良い儀式を持っている」
俺と詩子の左手の薬指には、銀で作った捻りの入った輪に俺の瞳と同じ色の小さな宝石が埋め込まれている指輪がある。
俺も詩子の瞳の色の宝石を着けたい、と言ったがお揃いがいいし、黒は地味で嫌だと断固拒否された。
俺からしたら漆黒はこの国唯一の詩子の色で、とても魅力的だと思うのだが。
「新婚旅行はダナがいいなぁ。緑豊かで海もある。すごい綺麗」
ベッドで寝そべりながらダナの本を見て足をバタバタしている。
新婚旅行。これもこちらにはない習慣だ。俺が大々的にこれを行うとまたトゥーダナでも流行るんだろうか。先にダナの国王に連絡をして流行らせてほしい観光地でも聞いてみるか。
「見て、ここなんか海が真っ青だよ!」
…詩子の国の海は何色なんだ。
楽しそうな妻に近寄り額にキスを落とすとペチッと腕を叩かれたので押し倒す。
「…今はダナの本見てるの」
「俺はずっと詩子を見てた」
「アルゼルは何処に行きたいの?」
「詩子の中」
バチン、と両手で頬を挟まれて本気で呻く。かなり痛い。
最高に不機嫌な顔をしてるので、大人しく旅行の計画を一緒にたてることにする。
「ここに俺の親が昔住んでいた家がある」
「アルゼルのご両親はダナ出身なの?じゃあここも行こう!楽しみ!」
行きたい場所を順に書き出しているが、国土の広いダナの端と端だったりしている。
これを指摘したらどんな顔をするんだろうか。可愛い妻の横顔を悪戯に見つめた。
ありがとうございました。次回で最後の更新です。




