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美里の過去

その日は雨だった。

全魔力を振り絞り、誘いの滝に隠れた扉をこじ開けて中に飛び込む。

びちょ濡れになった私が落ちたのは、細かい砂利がひかれた小さな軒先だった。


「なんだ?申請はなかったはずだがなぁ」

「あんた扉をこじ開けたね?なんという無茶な事を……あら妊婦だね、どうしたかい」


老夫婦がタオルで私を包んで家に入れてくれた。髪を拭くと、魔力が空になり黒に近い色になっていた。

老夫婦に双子を妊娠した事、自分の国で産んだら殺すようなものだと話すと、物騒になったもんだねぇとお茶を啜った。


「まぁ何かの縁さね。いきなり異世界はお腹の子にストレスがかかろう。出産までここにいなさい」

「赤ん坊なんてもうしばらく見んねぇ。生きるのが楽しみになったのう」



こうして私は世界の門番の老夫婦の元で暮らすことになった。






「ほら、また来たよぅ。あんたの主人だ」


家の中にあるテレビから誘いの滝の外が見える。そこに映るのは愛しの人、ジークだった。何かを叫んでいる。


「ミリィを誘ったなら行き先を教えてくれないか、だと。まぁ残念ながら誘った訳でなく勝手に転がり込んできたのだがの」


カッカッカ、とお爺さんが笑う。泣きそうな顔のジークを見ると私の方が泣いてしまう。

涙を流す私を見て、戻るかい?と問うが、それは首を振って拒否をする。

縁側でしくしく泣いているとお爺さんが見たことのない楽器を弾き始める。お婆さんがそれに合わせて知らない歌を唄う。

それを聴いていると、寂しくて切ない気持ちも少し和らいだ。




出産が近くなると、お婆さんが紙で鳥を折り始めた。それは何ですか?と聞くと、お守りのような、願掛けのような物だと返された。

折り方を教えてもらい、私もかなり折った。


ある日、どこかの世界から医師が呼ばれ私は数日後帝王切開での出産になる事が決まった。不安な夜を過ごす私に、二人はまた歌を唄う。








「ほれほれ今度は嬢ちゃんがお呼びだ」

「む、無理ぃ!」


産まれて数日、寝る間もないほど二人の赤子に呼ばれる。

特に女の子の方はおむつが汚れるのが嫌らしく、起きる回数が多い。


「あんた世話だけじゃなく名前も考えんと。いつまでも坊やと嬢ちゃんじゃ可哀想よ」

「…私、お二人のお名前を戴きたいんですが、どうでしょうか」

「忘れちまったよそんなもん」


戴くつもりでいたのでさらりと言われショックを受ける。




子供が同時に寝てくれて私も眠りにつく。ウトウトする中で、遠くからお爺さんの演奏とお婆さんの歌が聞こえる。


演奏と歌…奏と歌、それを名前にしようかな…変ではないだろうか…


思い付くと眠気は飛び、二人の元へ意見をもらいにいく。


「ソウとウタかぁ。そのまんまじゃのう」

「あんたを送る予定の国では、ソウをカナデと読ませる名前があるよ。カナデはどうだい」

「うん、カナデ。男の子は奏にします」

「歌は同じ読みで私の好きな文字がある。その国らしく“コ”をつければ詩子だ。どうだい?まぁ、これじゃ私が考えた事になっちまうがね」

「ううん、それでいいの。奏と詩子。それに決める」





こうして私の子供の名前が決まった。

なんだかんだと離乳食が落ち着くまで世話になり、一年を過ぎた所で地球の日本という国に転送された。

着いた先には家も書類も整っていて、町の雰囲気も静かで良いところだった。

老夫婦の家に似た建物が多いことから、きっと老夫婦も暮らした世界なのだろう。


「篠谷さん、どうしたの玄関に立って。中で詩子ちゃん泣いとるよ」


既に近所の方とは知り合いの設定の様だ。


「…ちょっと疲れちゃって」

「なら手伝うよ。ほれ、冷蔵庫見せてみぃ」


老夫婦のような素敵なお節介さんもいるようだ。


これから大変な事もあるだろうがこの子達を近所の方にも力を借りて大切に育てていこう。


ジークから頂いた、大切な命だ。

何があっても、守ってみせる。

奏→演奏→えんそう→えん そう→そう えん →ソウエン。

ダナ国名もそうですが、安易です。

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