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見守る閃光

当日。

任務を知らない侍女さんたちも、イ・ダナの人間が来るというだけで緊張感が漂っていた。

何がきっかけで戦を仕掛けるかわからない国だから、失礼のない様にと廊下も窓もピカピカにしていた。


私は少し怪我の具合を偽って、まだベッドと車椅子生活だという設定にした。ベッドでダリアとアルゼルと共にディギの到着を待つ。


コンコン、とついに扉が叩かれた。どうぞ、と声を掛けると扉が開かれた。


「やぁ、詩子。調子はどうだい」


いつものニヤついたディギが入ってきた。ソウエンは扉から一歩入ったところで止まった。


「お久しぶりです。わざわざお見舞いに来ていただき光栄です。先日の食事会では失礼な発言をしてしまい」

「堅苦しい挨拶はいいよ。君の具合を聞いてるんだ」

「えと…良くはなってます」

「毒はどうやって解毒したの?」


母の存在を話していいものかわからず言葉に詰まっているとアルゼルが口を開いた。


「…毒の報告はしていないかと思いますが」

「あぁそうだっけ?誰かから聞いたんだ。誰だったかな。いや、ガーゴイルは薬草に詳しいから使った気がしたんだよ」


相変わらず調子よく話をはぐらかす態度にイラつきを覚える。


「まぁその話はいい。詩子、今日はお前の婚約者と手合わせをお願いしたくてね」

「何故ですか?」

「相応しいかどうか見るんだよ。お前の護衛に指名されたかと思えば誓いを結んでるこいつが。俺は昔から付き合う男は見極めろと口煩く言っていたろ」

「だからと言って戦う必要はないでしょう」

「この世界には必要なんだよ。兄の洗礼を受けてもらおうか、アルゼル。訓練場を借りてもいいだろうか」


訓練場には今大量の回収した魔具が置かれていると昨日言っていた。どうするのだろう、とアルゼルを見るといつもの顔で私の頭をポンポンした。


「今訓練場には近いうちに開催される祭りの出し物があるから別の場所で願いたい。魔具を使うなら尚更だ。街から遠い所が良い」

「…詩子に見てもらいたかったんだが、まぁ良いだろう。ソウエン、移動しよう」


ソウエンがこちらに歩み寄り、ディギとアルゼルの肩に手を置いた。え、もう行っちゃうの?本当に形だけの見舞いだ。


「うあ、ア、アルゼル!」

「じゃあな、ウタ」


バチッと閃光が走り三人の姿が消えた。まともな送り出しも出来なかった…あんなに色々考えたのに…

あまりの喪失感に言葉を失うが、ダリアによって現実に戻された。


「現場に行かなくては、シノ」




ダリアの背中に初めて乗る。さすがミミズクで、羽音が鳴らない。すー、と空を滑っていくようだ。途中で恐竜のような鳥の獣人が近付いてきて、現場の報告を始めた。


「今例の装置の周辺でイ・ダナの騎士とトゥーダナの騎士が戦いを始めてます」

「やはり待ち受けていましたか。少し離れた所に降りるのでミリィデリア様に連絡お願いします」


了解、というとすごい速さで森の奥へと消えた。その方向からは煙が上がっている。


「早めにお母様と団長様に合流しましょう」


わかった、と返事をしようとしたがダリアの体が急に縦になったのでしがみつくしかなかった。


「ダリアッ」

「下から矢で狙われています。少しスピードをあげますので首にしがみついてください」


そう言うと首が持ってかれるような重力を一気に浴びた。慌てて言われたようにダリアの首にしがみついて身を縮める。


スピードが収まったな、と顔をあげると団長さんが抱き上げてくれた。


「ダリアご苦労だった。詩子は怪我は痛まないか」

「はい」

「既にあちらにはこちらの任務が漏れている。こうなった以上、12時を待たずに処理をしてしまおう。お前が処理する魔具はこの先にある」


この先、と示した方向では魔法が飛び交い叫び声が響く。

団長さんの通信機には絶え間なく報告が届いていて、たまにさっきソウエンが使っていた様な移動の魔法を使って手助けに行く。

こちらに飛んでくる魔法や武器をお母さんが弾き飛ばして、ダリアも上空を徘徊して危険を知らせていた。


さぁ行くわよ、とお母さんに手を引かれる。団長さんが先頭を切り、フレイが駆けつけて後ろに回ってくれた。


二人を頼りに一直線に走ると魔具が見えてきた。

確かに大きい。バスくらいはあって大砲のような発射口が先についていた。半分より後ろは魔石がびっしりついていて、綺麗というより妖しい光が反射している。

その中には私の作ったオリヅルもあった。イ・ダナでは販売していない筈だから裏で違法に入手したのだろう。


「私、こんなに吸収できるかな」

「やるしかないわ。まず私が出来る限り魔石の魔力を吸収するわね」


チカチカと点滅して光を失う石が出てくる。フレイも手伝いながら、吸収した分をその場で放出して敵にぶつけていく。


「チッ」


魔具の上から舌打ちが聞こえたのでお母さんと共に見上げると、発射口にソウエンが座っていた。


「ソウエン…!」

「なにモタモタしてんだ」


自分の部下へだろうか、愚痴を漏らすと発射口から飛び降り着地した足元から電流が流れ、周囲の騎士が一斉に感電して倒れ込む。


魔力を吸収していたお母さんも感電して膝をつく。

団長さんがソウエンに斬りかかり、フレイが私の前に立って魔法でそれをフォローする。


「ミリィデリアさん大丈夫ですか!」

「へ…き!詩子、お願い!」

「う…うん」


魔具に手を添えるとドクンと体が熱くなる。頭がクラクラするのを押さえて魔具を見るが、まだ光っている魔石があった。

急いで紙を取り出し、かなり雑だが鶴を折る。

その間もソウエンと団長さんが剣や魔法を交えて戦っている。

感電した周囲の騎士は回復したのか立ち上がるが、二人の戦いが激しく近寄ることはしない。


「早くしろ!」


ソウエンが叫ぶ。なんだか、イ・ダナの騎士ではなく私に言ってる気がしてきた。

雑でヨレヨレな折り鶴を五匹折ったところでまた魔具を触る。

体の中に大量の熱いものが流れてくる感覚によろめく。顔をあげると魔石は全て色を失った。お母さんが手を添えて呪いの類いが消えてるのを確認する。


「ジーク成功よ!」

「詩子と早くこの場を離れろ!」

「悪いが俺はそいつに用がある」


バチッとソウエンの瞬身の魔法が光り、あっという間にフレイを蹴飛ばし私の目の前に来る。

頭がクラクラしてうまく動けずに腕を捕まれたが、今度はソウエンの背中に団長さんが瞬身の魔法を使って飛び乗って崩れ落ちた。


「させるか、小僧」

「チッ…」

「俺の娘だ。好き勝手にはさせない」


娘発言に驚いたのかソウエンの目が見開く。

私も団長さんの父親らしい言葉に驚き固まる。

ドォン、と城の方から地響きがした。12時になって稽古場の装置が発動したのだろう。目の前の魔具は発動しなかった。


「くそっ……シノヤ・ミサト!詩子を貸せ!」


篠谷美里はお母さんの名前だ。なんでソウエンがお母さんの地球での名前を…


「カナデ…?あなた奏なの?」


久々に聞いた兄の名に、クラクラしていた頭も急速に冷える。


「城を助けたなら次は婚約者だろ!間に合わなくなる!」


団長さんが状況を理解して押さえ込んでいた体を離す。


「お前が転生者だったのか、ソウエン…」

「今はどうだっていい。詩子、その汚ねぇ鶴持ってこっち来い!フレイ、少し耳を貸せ」


ヨレヨレながらも魔石として固まった折り鶴を抱えてソウエンの元に走る。


「フレイ、頼んだ」

「…わかった」

「お兄ちゃ…」

「あんま吸うなよ」


バチッと閃光が走り目が霞むがすぐに地面に投げ出される。だがもうお母さん達や魔具はなかった。だいぶ移動したようだ。


「ッハァ…魔石貸せ」


言われた通りに折り鶴を渡すと魔法を体に取り込んでいるようだった。


「ごめん、吸収しちゃって…」

「これでも吸われない方だろ。慣れてるからな。これからディギの魔具のも吸うんだ。折り鶴折っとけよ」


わたわたと紙を取り出し鶴を折る。


「な…なんですぐ自分が奏だって言わなかったの?」

「こっちにはこっちの事情があんだよ」

「お兄ちゃんは誰の味方なの?」

「…行くぞ」


バチッとまた視界が白く飛ぶ。

同じ様に違う場所に落ちたので、ソウエンに折り鶴を渡して自分はまた紙を折る。


「ッハァ…現場に着いたら俺に捕まったフリをしろよ。俺はディギの手下だ。アルゼルに助けを乞え」

「わかった」

「学園祭の棒読み女王に演技が出来るのか不安が残る」

「いつの話よ!」


兄だ。顔は全然違うけど、確かに兄と話をしている。


「次で着く」


後ろから体を固定された姿勢でバチッと閃光が走る。


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