作戦会議
訪問前日。
広めの会議室にアルゼルとダリアと共に向かう。明日の訪問に向けて最終報告と行動の再確認をするとのことだ。
中に入ると国王様とソフィアさんを始め、第一騎士団全員と育児休暇中のリアーナとお母さん、各騎士団長がいた。
席につくと団長が始まりの挨拶を手短にして早速報告を始めた。
「まず魔獣の巣に設置された魔具だが、粗方回収出来たと感じる。取り残しは十分あり得るので各騎士団員当日12時はしっかり備えること」
「魔具ですが、故意に破壊されると呪いの掛け主に伝わる様に設定されていたものもありましたので、それは訓練場に集めてあります。12時に発動するので魔術師以外は近付かぬようお願いします」
ソフィアさんも続けた。
各騎士団長はカリカリと急いでメモをとる。団長がフレイ、と名前を呼ぶとフレイが立ち上がってお辞儀した。
「僕とダリアちゃんで探索したエリアに明らかに他のとは違う魔具がありました。巨大で回収は不可能。矛先は城に向いています。こちらの魔具には12時に発動、故意の接触には伝達、魔具発動失敗の場合装着魔石全解放という呪いがかかっています。装着されている魔石は百を越えています」
ざわ、と会議室が揺れた。アルゼルのメモを取る手が止まる。
「僕は、この魔具の破壊はシノちゃんに任せるべきだと思います。ミリィデリアさんはどう思いますか?」
「12時前に接触すると伝達されるなら、発動してから魔法が発射される数秒間に解除する事になる。私も詩子にしか出来ないと思うわ」
いきなり私の名前が議題にあがり驚いて固まる。アルゼルは怒っているのかペンがビキビキと音を立てていて、近くに座っている騎士が寒そうに腕を擦っていた。
「詩子、出来る?」
「あ、はい。やります」
私の能力を知らない騎士団長達が少しざわついたが、上の人間が言ったことには意見しなかった。
団長が話を続けた。
「次にディギについて。当日は何も知らないふりをする事。詩子の見舞いが終わった後にアルゼルと決闘をしたいというので、恐らくソウエンの能力を使って遠くへ移動するのだろう。ソウエンは戦闘場所から退去させること。アルゼルは必ず勝って生け捕りにするんだ」
「わかりました」
「戦闘中に12時を迎える。そこで襲撃される城を見せてアルゼルの隙を突こうとするはずだ。そこを逆手に取れよ。お前なら勝てる。本来ならアルゼルも城も壊滅的になり、そこを乗っ取る予定なのだと思う。魔獣の他にもイ・ダナの騎士には気を付けろ。トゥーダナが墜ちたらこの大陸はイ・ダナのもの同然だ」
会議室に緊張が走る。私とアルゼルを餌にした戦争を仕掛けられている。団長さんや国王様は戦争とは口にしないけど、そう言うことだ。事の大きさを理解した。
団長さんが各自の行動をまとめた紙を配り出すと、お母さんがちょっといい?と私の手を取り会議室から団長さんの部屋へと移動した。
「これが詩子の行動指示書」
もらった紙には簡単に、見舞い終了後アルゼルとディギの見送り。即ダリアと共に魔具設置場所へ移動、12時に処理。と書かれていた。随分余白の多い紙だ。
「こんな事言える立場じゃないんだけど、改めてごめんなさい。あなたをこの世界に巻き込んで」
「私感謝してるよ」
「アルゼル君の事は私も良かったと思ってるわよ。だけどこんな任務に巻き込ませるなんて。そういうのが嫌でこの世界から逃げたのに…」
「大丈夫、これで最後だよ。この国も昔は酷かったんでしょ。きっとイ・ダナも変われるよ」
強い子に育ったわね、と目尻を拭ってお母さんが微笑んだ。
…ううん、本当は全然大丈夫じゃないし強くない。一生明日なんか来なきゃいいと思ってる。悟られないように話題を変えた。
「ねぇ、お母さんは団長さんと結婚するの?」
「この年になって娘と同時に結婚なんて嫌よ。同居はするし誓いは交わして妻として振る舞うけど籍はしばらくは入れないかしらね。ねぇ、お父さんって呼んであげてよ。ジークは詩子って呼んだでしょ」
「んー…お父さんはまだ早くない?」
「早く切り換えないと団長さんで定着しちゃうじゃない」
いや、とっくに定着してるんだけど!再婚とか血の繋がってない人じゃないだけマシってだけで23年のブランクと半年の赤の他人歴がある。
「…今回の件が終わったらそう呼ぶ」
「あら、約束よ」
そこにアルゼルが迎えに来たので別れを言って部屋を出た。
「悪い。さっきお前から貰ったペンを壊した」
「あんな力いれて握るからだよ」
「いつかの万が一が明日来ると思わなかったんだ。お前が危険な場所に行くのを想像したら力が入った」
「アルゼルが一番危ないんだからね?未知数の魔具を身に付けたディギと一人で戦うんだから…」
まぁな、とあまり気にしてないような返事をされた。
部屋に戻ると今日はこのまま休暇だというアルゼルに、小さな布袋を渡した。
中身は回復魔法で作ったかなり小さいピンクの折り鶴だ。昨日リアーナとフォルクスに魔法をお願いして折り続けた。それと、色のついてない普通の折り鶴が一羽。
それは底の方に入れたから多分気付かないと思う。私の願いが籠った、大切な一羽。
「ありがとう。使わせてもらう」
「使う場面が来なきゃいいんだけど」
それは無理だな、とアルゼルは笑う。会った頃に比べて、笑う回数も増えたし笑顔が上手になった。笑顔が上手ってなんか変だけど…最初の頃は口角を上げるだけだったり意地悪な顔にしかならなかった。
今はこうも自然に笑ってくれてる。ギュウッと抱き付いてアルゼルの温もりを感じる。
いつもならからかう彼も、今はおとなしく抱き付かれて頭を撫でてくれる。
「明日、絶対帰ってきてね」
「お互い様だ。何かあったら念じろよ」
うん、と触れるだけのキスをした。




