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コミュニケーション不足

イ・ダナの訪問まであと三日。


私はまだ痛み止めを飲んでいるが大分歩けるようになった。少し突っ張る感じもあるし走ったりは無理だが、しばらく外出は出来ないわけだしあまり不自由ではなかった。

各国で既に“オリヅル”として売り出された私の鶴は、どうやら赤の売れ行きが最もいいらしく赤色を多く生産してほしいと注文書に書いてあった。

なので今日もフレイから炎の魔法を吸いとらせてもらう。炎を兎や猫のような動物に見立てて出してくれて、吸いとるのが勿体無いくらい可愛い。なので私に触れると直ぐ様消えてしまうのが結構寂しい。…あと、ちょっとだけ傷付く。


ダリアは今日もイ・ダナの設置した魔具の撤去任務に参加している。私が少し昼寝をしていた間に物事がすごく動いていて、ダリアが経緯を話してくれた上で、任務に参加させてくださいとお願いされたのにはビックリした。

でも設置された際に警戒心が高まっている魔獣の巣に行かせるのは心配だったので、任務の際にはフレイを付けることで了承した。

フレイは一通り炎の動物を出すと、行ってきます、と部屋を出た。行ってらっしゃい、と階段まで見送るとアルゼルが登ってくる所だった。最近は朝早く夜遅い、といった感じで、寝てる間に温もりを感じるくらいしか接点がなかった。今朝も起きたら既に隣にはいなかった。


「お疲れ様、アルゼル」

「あぁ、おはよう」


ポンポン頭を叩かれたが部屋には入らず、そのまま廊下を進んで行ってしまったので少し残念に思いながら部屋に戻る。

炎の動物達が不思議そうにこちらを見ていたので両手を広げると、飛び込んできたものの渦を巻いていなくなってしまう。

静けさを増した部屋で折り鶴を作る準備をしていると、リアーナが入ってきた。


「おはようシノ!今日も護衛しま~す。はぁ、子供同伴で仕事が出来るなんて幸せ~」


と、金髪の天使に頬を寄せる。


「おはようリアーナ、リオン」


天使にはリオンと名付けた。色々悩んだが…金髪でふわふわした髪を見てたんぽぽを連想した私は、英語のダンデリオンからもらってリオンと提案した。

リアーナはすごく気に入ってくれて、その場で出生届に書いて旦那さんに提出するよう部屋を追い出していた。


「今日も城は静かね~。リオンにはいい環境かもしれないけどさ。嵐の前の静けさっての?なんか嫌な感じよね」


窓の下には鳥獣人が騎士を一人背負いながら出発したり帰還する姿が見える。


「そうだね。装置も怖いし…ディギとアルゼルの決闘も嫌」

「大丈夫、我らが副団長様よ?負けるわけないじゃない」


ふにゃ、と泣いたリオンをリアーナはよしよしとあやしながらオムツを交換し始めた。

アルゼルが強いのは知ってるけど、イ・ダナの魔具の威力も知っている。あんな魔具を向けられて無傷でなんかいられない。

わぁ!とリアーナが声をあげたのでそちらを見ると、オムツを外した状態でリオンがやってしまっていた。


「いっつもタイミングが合わないんだからぁ!オムツから解放されて気が緩むのはわかるんだけど!」


リオンので濡れた服やマットレスを魔法で乾かして今度は素早くオムツをつける。手洗ってくる、とリアーナが席を立ったのでリオンを覗き込んでリオンの手を指でつつくと、ぎゅうと握り返された。

それを目一杯の力で口に持って行こうとするものだから、駄目だよー、と手を引き抜く。するとハシュハシュと泣き始めてしまった。


「り、リアーナごめん泣いちゃう!」


大丈夫大丈夫、と洗面所から戻ってきたリアーナは手早く授乳する。


「すっかりママだね」

「成らざるを得ないのよ」


リオンの食事を邪魔しないように静かにして鶴を折る。

しばらくすると満腹になったリオンがうとうとし始めたので、予め置いてあったベビーベッドに寝かしつける。

鶴を折りながらお疲れ様、というと、リオンがね、と笑われた。


「ねぇ、折り鶴ってシノの世界では何のためにあるの?」

「んー、紙で作る遊びって所かなぁ。たまに千羽折ったのを繋げてお見舞いや元気付けに贈ったりするよ」

「千羽!すごい大きさにならない?」

「うん、これより小さい紙で折るんだけどそれでも大きくなるよ。兄が入院した時はそれが三つも届いたの。賑やかな病床だったよ」

「へぇ~。治ります様にって祈りを込めるものでもあったって事ね。面白いわ。お兄さんは人気者だったのね」


ダリアがいないので、麦茶とお煎餅を出す。授乳をしているリアーナには大きめのコップで出した。ちゃんと水分をとらないと出が悪い、らしい。

お煎餅を食べ終えた頃にコンコン、とドアがノックされて扉が開きアルゼルがフラフラと入ってきた。


「流石に疲れた。休憩させろ」

「連日魔具付きの団長と訓練してるんだって?よくやるわねぇ」


リアーナは立ち上がりベビーベッドを押して執務室に入り、ごゆっくり、と扉を閉めた。


「流石に足がダルい。揉んでくれるか」


いいよ、とベッドに寝転ぶように言ってうつ伏せになったアルゼルの口にチョコを入れる。


「…甘い」

「ビターなのなくて。でもチョコは疲れが取れるから食べて」


ふくらはぎや太ももを重点的に揉むと、うー、とか、あー、とか呻き声があがる。いつものアルゼルとは違って面白い。


「決闘、本当にやるの?」

「まぁな」

「勝つよね?」

「魔具のレベルによるな」

「そこは勝つって言ってよ」

「無責任な事は言えない。俺が死んでも言語は通じるから心配するな」


その言葉に怒りと悲しみが沸き上がる。揉んでいた手を離して思いっきり背中をバチンッと叩いた。


「痛ぇ!」

「そんな事言われるぐらいならお母さんなんか来ない方が良かった。ずっと眠ってそのまま死んだ方がマシだった」


ポロポロと涙がアルゼルの背中に落ちる。振り返ろうとするアルゼルの背中に抱き付いて動けなくする。


「…悪い。冗談が過ぎてたな」

「ちゃんと勝って帰ってきてよ。イ・ダナに怯えない平和な時間をアルゼルと過ごしたい…」


抱き付いている背中に力が入ったと気付いたときにはもうアルゼルは私の上に覆い被さっていた。

目尻に溜まった涙を舐められてゾクゾクして思わず声が出た。それが頬に下り唇に到着すると、貪るように深く口付けられて離れた頃には息が上がっていた。


「あと三日か…」

「ん…」

「大事な勝負の前には女は抱くなと言われてるが誘われたらしょうがないな」


いや、誘ってないから!

私の抗議は声にならずにベッドへと沈んだ。

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