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動き始めた歯車

「珍しいな、お前が自分から報告書を読みに来るなんて」

「フォルクスが元同僚が不審な騎士に会った話を聞いたんだって」


これじゃないこれも違う、とバサバサ報告書を広げる。俺は無言で弾き出された報告書を直していた。フレイのガサツな面をフォローするのはよくある事だ。


「これだ」

「じゃあ俺はこっちのを処理するから」

「ねぇ、こたつでやっていい?」

「あっちは私室になった。怪我人もいるから諦めろ」


ちぇ、と言いながらもフレイは真顔で報告書に目を通し始めた。仕事顔だ。後で何が気になったのか聞いてみよう。




第二の報告書を処理していると、任務外で魔獣が急に暴走して襲撃された旨が書かれている事が多い。

繁殖期などに暴走は見られるが、こんなに様々な魔獣が一斉に繁殖期を迎えることはない。

第二に同行している第一の同僚のメモ欄にも人為的なモノを感じると書かれている。


一回任務を二班同時に行かせて、一班は周囲調査をしながらにしてみるかと考えていると、フレイが話し掛けてきた。


「読み終わったのか?」

「うん。不審な騎士はいきなり襲撃してきて、全身黒で身を包んで色を隠し、魔法も使わずに第二を蹴散らしたって。第一のフォロー組はなんとか倒されなかったけど、一週間以内に周囲の魔獣の巣を全て探索しろ、と言って去ったみたいなんだよ。」

「そいつが魔獣の暴走を引き起こしている犯人か…?」

「でも探索しろってなんだろう。一週間以内に…この報告書から一週間後ってイ・ダナの訪問日だ」

「…気になるな。少しダリアに見てきてもらうか。徒歩より早い」


フレイが隣の部屋に行き、ダリアに交渉すると二つ返事で了承してくれたらしい。

ミミズクと化したダリアの背にフレイがしがみつき、一番近い闘技場の近くの森へと飛んだ。

詩子を覗き見ると、こたつで知らない文字で埋め尽くされた紙の上にうつ伏して寝ていた。

恐らくリアーナの子供の名を考えているうちに寝てしまったのだろう。

執務室に戻り、他の報告書を処理して団長に向ける報告書を広げる。フレイの調査次第ではイ・ダナの訪問を断って貰うかもしれない。嫌な予感しかしない。


あまり時間が立たぬ内に二人は帰還した。フレイの腕には何か装置が抱かれている。


「ありがとう、ダリアちゃん」

「いいえ、いつでも協力しますので言ってください」


部屋に下がるダリアの表情は険しい。


「何があった」

「魔獣の巣に向けて魔具が設置されてた。呪いが施されてるみたいだから…ミリィデリアさんに相談してもいい?」


恐らくフレイは自分でも解析出来る。だが尊敬しているミリィデリアさんの技を少しでも見たいのだろう。早く報告する事を条件に送り出すと嬉しそうにスキップしながら階段を登っていった。

引き返そうとすると隣の扉が開き、ダリアが頭を下げた。


「あの、ミミダナに鳥獣人の派遣を申請した方が宜しいかと」

「どうした?」

「やはりフレイ様はお話されずにミリィデリアさんの元へ行きましたね。あの森に魔具が設置されていたのは一つではありません。巣穴に対して一つ、です。あれが一斉に起動するような呪いがされていたら、城下町は壊滅です」

「…あの馬鹿。ダリア、ありがとう。ミミダナに派遣を申請する」

「提案者に私の名をお使いください。ミヤコ様は他国に獣人としての能力を利用されるのがお嫌いです」


助かる、と礼をして部屋に戻り報告書をいくつか抱えながらフレイが向かった団長の部屋に走る。

目をキラキラさせてミリィデリアさんと装置を眺めるフレイの頭に一発入れてから団長に経緯と申請の話をした。

団長はすぐ国王にも取り入ってくれてダリアの名のお陰で申請はすんなり受理された。


「施されている呪いはニつね。

六日後12時に発動

発動後は消滅

とてもシンプルだわ。これならそこそこの魔術師がいれば量産出来る」

「イ・ダナの魔具だとは思いますが、何故ディギが訪問している時なんでしょう。これではディギにも危険が迫ります」

「いや…それがさっき、訪問時にアルゼルとの一対一の決闘が申し込まれたそうだ。妹の相手として相応しいか確認したい、だと」

「その決闘を城周辺以外で行う様にすればディギは襲撃を免れるという事ね?んもぅ、そんな考えの奴に私の子供を名乗らないで欲しいわ!」

「僕に一度負けてる癖に良く言うよ。魔法も剣術もホント大したことないんだよ」

「次は魔具をジャラジャラ身に付けて来るんだろ。団長、どうするんですか?」

「この不審な騎士も気になるが…取り敢えず設置されてる魔具は撤去しなければ大変な事になる。これはミミダナの派遣が到着次第に全騎士を用いて開始だ」


団長は国王とソフィアの都合を付けてくる、と部屋を出た。


「娘を取り合って決闘だなんて、詩子が知ったら驚くわよ」

「訪問はキャンセルした方がいいかと思いますが」

「ディギを懲らしめるチャンスなんでしょ、ソフィアがキャンセルしないわよ」


ミリィデリアさんが装置を撫でながら笑った。まぁ、俺もそう思う。装置を出来るだけ撤去して俺がディギを倒せばいい。だが。


「詩子さんがまた怪我をしないかと思って」

「大丈夫よ、アルゼル君が離れてる間は私とジークが傍を離れないから」

「僕もいるよ、アルゼル。もうこの前のようにはならないよ。城も、ガーティスが育てた騎士達がいっぱいだ」


一番心配なのはアルゼルだって、とフレイがケラケラ笑う。つられて俺も少し笑った。

団長が国王とソフィアさんを連れて帰ってくると、やはりキャンセルはしないと言われた。

このままディギを討ち、次期国王からは外す。ディギとイ・ダナ国王にリュードの行方を聞き出すこと。

既にミミダナとダナにはこの極秘の計画は伝えられていて、万が一戦争へもつれた場合はイ・ダナと共に戦う意思を確認し合った所だったそうだ。


「我々の国だって平和条約を結んで良い国になれた。イ・ダナにも続いてもらおう」


国王は優しい声で呟いた。

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