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母と兄の秘密2

アルゼルside

ウタに外出の許可が降りない話をしたら予想外に納得してくれたようだった。

いつも外出する時楽しそうだった。変装した俺を「アル」と呼び、無邪気に雑貨を見て回る彼女はとても可愛い。しばらく見れないのは残念だ。納得出来ずに全力で護るからどうか、と抗議したかったのは俺だ。

早くイ・ダナの問題を解決しなければ。



ウタにまだ話してても平気かと聞くと、大丈夫だと返答があったので続けた。


「イ・ダナに抗議したかったんだが、何せ証拠がない。俺と団長が風を見ただけだ。無用に疑いをかけるとあの国はすぐ戦に持ち込む」

「…嫌な国ね」

「二十年前はここも変わらなかったんだがな。どうしようか国王が考えてるところにイ・ダナから訪問依頼が来た。怪我をした妹の見舞いがしたい、とディギとソウエンがな」


勿論断るつもりだったのだが、ソフィアさんが絶好のチャンスだとそれを受けたらしい。

そこで少しでもウタを狙う素振りを見せたら拘束し処罰できる。書類には手書きで「訪問期間中一秒足りとも離れない事。守れる自信はあるわね?」と書いてある。


「正直これは囮捜査だ。お前が嫌ならハッキリ断る」

「私、早く問題が解決してアルゼルと城下町に行きたい。守ってくれるんでしょ、大丈夫。私も離れない」


強い眼差しから彼女の信頼が見てとれる。今度こそ答えよう。ディギを罰し、次期国王の名を剥げばもしかしたらイ・ダナも良い国になるかもしれない。


「…イ・ダナ国王の本当に血の繋がった息子はすごいイイヤツだったんだ。ディギが出てきたと同時に行方不明になった。まだ何処かで生きていてディギがいなくなれば彼が国を継いで平和条約にサインしてくれるかもしれない。少しの可能性にも俺は賭けてみたい。協力を頼んだぞ、ウタ」


うん、と手をぎゅっと握られた。




まだ話したい、というウタに少し休憩するよう言った。でも、と名残惜しそうなウタに深く口付ける。先程固く閉ざされた唇は呆気なく解放されて侵入を許される。


「ほら、こんな怪我した身体で襲われる前に休憩するって言え」

「…休憩する」


頭をポンポンと叩き執務室へ戻り、その足でダリアの部屋の扉を叩く。


「ダリア、ウタを頼む」


はい、と中から声が聞こえたのを確認し執務室に戻ろうとすると、団長とウタの母がこちらへ歩いてくるところだった。


「詩子さんは今休憩させてます」

「あら。じゃあアルゼル君と話しても良い?」


俺の返事を聞く前に団長が扉をあけてウタの母を招いた。足取りも軽やかに母はソファーへ向かい、団長は歩いていた侍女に飲み物を頼んでから部屋へ入った。


二人の向かいに座ると、ウタの母が団長の肩をバシバシ叩いて悶え始めた。何事かと口をあけて驚くと団長が俺の印を指差した。


「男の気配がなかったあの子が誓いを結んでるなんて想像もしなかった!」

「…その節はすみません。挨拶も何もしていないのに」

「何言ってるの、面倒を見てくれてありがとう」

「いいえ…ミリィデリアさん、詩子さんを連れてあちらに帰りますか?」


意を決して聞いてみる。一番聞きたかった。まだ完全に貯まってない様に見えるがそれでも彼女の魔力は膨大だ。その魔力でこちらに来たのだろう。ソフィアさんは召喚ではないと言っていた。


「いいえ。もうあちらの世界に私達の帰る場所はないわ。元々無理矢理作ってもらった居場所だったから、詩子がいなくなった途端私には子供がいない事になっていた。あの子の職場には違う子が働いていたわ」


あれには驚いた、と少し楽しそうに話す。


「すぐに詩子さんを探しに来なかったのは何故ですか」

「単純に魔力が足りなかったからよ。あちらでは少ししか得られない魔力をあの子へのに呪い(まじない)に使っていたから。こちらへ来たとき発動したでしょ?魔法の繭。もし異世界に飛ばされた場合包む様に呪いを掛けていたの。あの子私の魔法でもすぐ吸収しちゃうから何回もかけ直したわ」

「飛ばされる可能性を感じていたという事か?」


驚いた団長が母に問う。俺も驚いた。あの繭の制作者はウタの母だったのか…早くフレイに知らせてやりたい。


「詩子の兄が亡くなる時に魂をこちらの世界に飛ばしたの。転生先がお兄ちゃんそのままの優しい人なら詩子を呼ぶことはないと思ってたけど、逆なら能力を利用しようとして呼び寄せるかもしれない。万が一に備えて、あの子には色々呪いをかけてたのよ」


繭は膨大な魔力を持ち、優しい心を持つ者ではないと解けない、とかね。そう言って俺と目を合わせたウタの母はニコッと笑いかけてきた。


「…ミリィ。兄の方は自分が魔法を持ち、妹には特殊な能力がある事を知っていたのか」

「勿論。お兄ちゃんが魔法に目覚めてからは全て伝えたわ。それに詩子の能力を発見したのはお兄ちゃんだった。そこからね、お兄ちゃんが詩子に過保護になったのは」


運ばれた飲み物を飲むが、頭の中を整理するのに一杯で味はわからない。


「ミリィデリアさん的には、今その兄の転生者が詩子さんを始末しようとしてる件はどう思われますか」

「ディギ、だったかしら?以前詩子が彼に兄を感じないと言い放ったそうだけど、それが真実なのだと思う。双子には双子同士感じるものがあるというもの。ディギではないのでしょう。けれど、そちら側に転生者がいるのは間違いないと思うわ」


団長がぼそりと「リュード…」と呟いた。リュードとは先程ウタに話したイ・ダナ国王の息子の名だ。彼は独裁政治を貫き戦を好む国王の血を継いでいるとは思えない程優しい男だった。あの国王さえも、独裁も俺の代でもう終わりだな、と口にしたと聞いた。

平和条約にサインしている三ヵ国は大いに期待したのだが、ある日ディギという男を側近として置き始めてからは、リュードの姿がパタリと消えてディギが国王を継ぐ、と独裁継続を示唆した。


「リュードなのかもしれないな」

「可能性はありそうですね」

「次の訪問の時にリュードについて聞いてみよう。国王にも伝えておく。ミリィそろそろ行こう、疲れたろ」


そうね、と立ち上がり団長が開けたドアから出る。


「しばらくミリィは俺の部屋にいる。シノヤが会いたがったらいつでも来い」

「わかりました」

「シノヤだなんて。詩子でいいじゃない、父親なんだから」


いや、それはまだちょっと、と団長は照れ臭そうに部屋を出た。




ふぅ、と一息ついて飲み物を口に含むと甘めな紅茶だった事がわかった。

夜会を開いてウタとの婚約発表をしようとしていた矢先に色々物事が動いてしまった。

動いた以上、解決するまでは止められない。彼女の身の安全を確保することが何より大事だった。


イ・ダナの訪問は一週間後だ。

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