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母と兄の秘密

意識が急浮上する。スタートと同時に急速に最高速度に達するジェットコースターに乗ったときと似た感覚だ。どうにかその速度に合わせようと身体に力を入れるが脇腹が痛み、つい声をあげる。私の口から出た声は少し掠れていた。


「ウタ」


いつもの安心する低い声がする。少しずつ目を開けると、頭を撫でられ「おはよう」と優しい微笑みを浮かべたアルゼルと目が合うと、必ず目を覚ませよ、と言われたところから闘技場の事が走馬灯のように頭を駆け巡る。


「リアーナとダリアは?」

「第一声がそれか…リアーナは無事だ。ダリアももう動ける」


良かったと呟くと、自分の事も心配しろ、と身体を起こされて白湯を飲ませてくれた。

ふぅ、と喉の乾きを癒すと、アルゼルの後ろに団長さんと白髪の女性がいるのに気付いた。


「団長さん」

「回復して何よりだ。こちらは君の回復を行ったミリィデリアだ」


ありがとうございます、と体を曲げて礼をすると脇腹が痛み、顔を歪めるとフフッと笑われた。


「色が変わるだけでこうも気付かれないだなんて、寂しいわ、もう」


その声色と話し方に、痛む体を無視して思いっきり起き上がる。


「…お母さん?」

「お待たせ、詩子」


髪と目の色は違うが、確かに数ヶ月前に別れた母がそこにいた。








感動の再会にはならなかった。何故ここにいるのか、髪と目の色が変わっているのか疑問だらけだったからだ。


「母さんはね、あなた達を妊娠した時にこの世界を離れたの。。だから元々こちらの人間。髪と目の色もこっちが本物よ」

「…なにそれ」

「妊娠した当時はこの国もまだ王の独裁政治で平和協定にサインせず、イ・ダナと毎日のように戦いをして土地を奪い合っていたの。私は魔力が高いから王に目をつけられていたわ。だから子供を取られる可能性があった」

「魔力は遺伝しないって…」

「そう。それでもあの王は少しでも魔力の高い戦士が欲しがっていた。私の孕む子ならもしかしたら、とね。それも運命かと思ったわ。でも…少ししたらお腹の中から2つの魔力を感じたわ。双子だ、と」

「双子は何かあるの?」


アルゼルを見ると、そこはあまり信憑性はないが、双子だと片割れが魔力が高く、もう片割れには特殊な能力がつく事があると言われている、と教えてくれた。


「万が一うちの子もそれに当てはまったら、その特殊な能力を探るためにどんなひどい仕打ちをされるんだろうって思ったら…逃げるしかなかった」


まさに私の能力はそれに当てはまっていたわけだ。じゃあ兄は魔力が高かったという事になるが、魔法を使った所なんて見たことがない。

母は話を進めた。


「誘いの滝に行って魔力を込めて異界への扉を開いたわ。中には老夫婦がいて、事情を話すとわかってくれて、出産まで面倒を見てくれたの」


例の門番の老夫婦だ…


「それで地球にきてシングルマザーとして普通に過ごしてた。でも、お兄ちゃんが大きくなってくると彼に異変が起きたわ…魔力不足よ」


原因不明の病…それが魔力不足?


「それを恐れて地球で蓄えられる僅かな魔力を小さい頃からあなた達には与えていたわ」

「それで君の身体にミリィの魔法が効いたんだ。小さい頃から馴染ませていたお陰でな」


色々な話が続き頭が混乱するが、とりあえず母の魔法は私に効くという事なんだな。魔法が与えられていたなんて知らなかった。


「与えてはいたけど、お兄ちゃんには全然足りなかった。私が動けなくなるまで与えてやっとよ。そして、いつしか魔力は切れて亡くなってしまった。戦や実験から遠ざけたつもりだったのに、こうなるなんて悔しかったわ…」


しん、と医務室が静まる。兄の死にまさか魔法が関係していたなんて。


「詩子にはもっと話さなきゃいけないことはあるんだけど、私もこちらの住民登録を更新したり新しい国王に挨拶しなくちゃ」

「私も気持ちの整理する…行ってらっしゃい」

「ちなみにあなたの父親はジークよ。言ってた通り、素敵でしょ?」





……はい?!




「嘘でしょ!さっきの話の流れだと昔の国王との子じゃん!」

「やだぁ、魔力の強い私にムリヤリは出来ないわよ。正当防衛で攻撃出来ちゃうもの」

「じゃあ本当に…団長さんが…」


団長さんは少し複雑な顔をしてから頷いた。じゃあまたね、と二人は早々に医務室から出ていった。



「独身を貫いてきた団長に子供がいて、それがお前とはな」

「子供がいた事をジークフリードにも言ってなかったもの。誰も知らなかった。ミリィデリアが失踪した時は大騒ぎだったのよ。」


お母さんは誰にも相談せずに地球に逃げ出したのか…。どんだけ怖い国王だったのだろう。


「ま、ミリィデリアが失踪したのをきっかけにジークフリードと夫が動き出して国王を討ち、この国を平和にしたんだから有難かったといえばそうなんだけど」

「お母さんが失踪したのは国王のせいだと疑ったのですか?」

「疑いじゃないわ、確信があった。事実そうでしょう?この国が嫌だとジークフリードには常々言っていたらしくてね。国王を討つ計画を立てたのは夫だけど、進めたのはジークフリードよ。国と王が変われば彼女が帰ってくると信じてた」


でも帰って来なかった。それからずっと、団長さんはお母さんの帰りを待ってた。

お母さんは地球でこっちが恥ずかしくなるくらいずっと団長さんを想ってた。

二人は二十年以上もそうやってお互いに想い合ってたんだ。


「ソフィアさん、ウタは部屋に戻れますか?」

「駄目と言って聞いてくれるの?車椅子の準備をしてるから部屋で安静にしててちょうだい」


いい?安静よ?と念押しされるアルゼル。わかってます、と返事をしてから私が乗った車椅子を押して部屋に戻った。





部屋に戻る途中、うずくまったダリアがいた。

声を掛けると、わぁっと泣きながら私の顔を抱きしめた。何度も謝ってくるダリアに、私こそ一人で動くなと言われたのに動いた事を謝った。それから羽を広げて私を隠してくれた事にありがとう、と言うとまた顔をくしゃくしゃにして泣いた。


「…ねぇダリア、私お腹すいた。何か作って欲しい」

「…はい。胃袋が驚きますので全がゆから始めましょうね」


気を紛らわす様にわざと仕事を頼むと目元を真っ赤にしながらも、先に戻って作ります、と足早にダリアは階段を上っていった。


「ダリアは大丈夫そうだな」

「リアーナにも会いたい」

「もう分娩室なんだ。ウタが回復した事だけ伝えておく」


そっか、もう産まれるんだ。

傷が治ったら抱っこさせてもらおう。頑張って、リアーナ…



荷物用のエレベーターのボタンを押すアルゼルの右手首に私の印が見えた。やっぱり真っ黒だ。柄もなんだか地味。


「…なんかもっと格好良い印になって欲しかったな」

「俺は気に入ってる。シンプルで良いと思う」

「本当?」


あぁ、とエレベーターに乗り込むと車椅子の後ろから私の前にしゃがみこんだ。


「もうあんな事はするな。お前の血は二度と見たくない」

「ごめんなさい…リアーナと赤ちゃんを助けたくて」

「もちろん部下を助けてもらって感謝はしてる。だが…こちらの心臓が止まるかと思った。生きて、起きてくれて良かった」


色っぽいアルゼルの顔が近付いてくるが、自分が三日間寝ていた事を思い出して顔を反らす。


「…何故」

「歯磨きしてお風呂入ってからがいい。髪の毛も汚いから触らない方がいいよ」

「気にしない」

「私が気にするの」


シッシと手を払うとアルゼルはムッとして無理やり頬を押さえて唇を合わせてきた。絶対開けるものかと固く口を結ぶが、アルゼルはわざとらしく音を立てて啄む。

エレベーターの到着音がなるとアルゼルが離れる。ニヤリと勝ち誇った顔をしていて、それもすごく色っぽく見えてしまい悔しくて睨み付ける。

エレベーターを降りて私の部屋へ入ると、端にあったこたつがテーブルのあった真ん中に移動していた。小さかったベッドがアルゼルの部屋にあった大きいものになっている。


「…あれ?」

「配置を変えた。この部屋は寝室。俺の部屋が執務室」

「…えっと私の寝室は?」

「ここ」

「アルゼルの寝室は?」

「ここ」


……なんですって?!


「誓いを結んだから後日の夜会で正式に婚約を発表する」

「ままま、待って同居は発表してからで良いんじゃない?」

「俺が隣の部屋でどんだけ我慢してきたと思ってるんだ。というか大体変わんないだろ、最近は」


我慢なぞ知るか!とは言えず黙る。私が夜這いを仕掛けた夜からはほぼ毎晩一緒に寝ていた。私に月のものが来ればお腹を撫でてもらいながら眠りについたし、アルゼルが例の一日稽古の日は彼が寝付くまで足をマッサージして添い寝をした。

そっか変わらないのか…

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