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保護対象者な彼女

アルゼルside

魔力を発散したがっていたパートナーは不気味な笑顔で追っ手の相手を願い出た。

黒髪の女を肩に担ぎ、俺は村へと急ぐ。

無許可な召喚をした上に中立の村で暴れるとなると大問題になる。今は村が一番安全な場所になるだろう。


後ろからはものすごい轟音がする。その音は正当防衛で書類が通るレベルではない気がする…フレイ、勘弁してくれ。



しばらく走っていると肩の上の女が動いた。

聞こえた声は驚いていたが可愛らしいと思った。普段媚びた女の声ばかり聞いているせいか、それより少し低めで心地よい声だった。


落ちては困るので静止させ、ある程度引き付けていた追っ手を氷漬けにした。



落ち着かせようと肩から降ろすと靴が片方ない事に気付いた。いくら脱げやすそうな靴だとはいえ保護対象者にあってはならない失態だな、と反省する。


「悪い、靴を片方落としたみたいだな」


見た目よりずっと軽い彼女をひょいと横抱きにするとそこで初めて目があった。


黒い。


初めて見る黒い瞳に引き込まれそうになる。目が離せなかった。


「あの…ここどこですか。あなたは誰ですか?」

不安そうな声がしてハッとした。


「ここは誘いの滝を囲む迷いの森の中。俺はトゥーダナ国第一騎士団のアルゼルだ」



彼女は益々不安顔になった。


「えっと…私は篠谷です。アルゼルさん、私歩けます。」


シノヤは家名なのか、¨さん¨はいらない、言いたいことはあったがなんとなくこの抱き心地は死守したかった。


最初は遠慮するな、と流したが降ろして欲しいと何回も言うので適当に毒草が生えている様な事を言ったら納得してもらえた。



しばらくシノヤにこの世界の説明をした。俺の説明をなるほど、なるほど、と落ち着いて聞き入れていた。

その様子から成人はしているんだろうな、と安心した。ギャーギャー泣かれたらたまったもんじゃない。



後ろからフレイの声がした。シノヤが俺の首に添えていた腕に力をいれて後ろを伺い、自己紹介をし始めた。

無意識だろうが密着されて正直胸が鳴った。


「とりあえず住民登録はしないとね。異世界人登録書ってダズの村長が持ってるんだっけ」

「あぁ。書類と宿頼む。俺はこいつと靴を調達してくる。」


流石にフレイがいると騎士団の頭になる。


早く不自由なくしてやらなければ。




異世界人用の店に入り、店員にトゥーダナ国の民族衣装一式を頼み試着室にシノヤと押し込んだ。

この世界に来たのだから、この世界の服に早く着替えてほしかった。


俺のいる国の服に。



試着を待っていると店員が

「遠慮しないで何セットでも買ってもらいな!どうせお国の経費なんだからうちにガンガン落としてちょうだい!」

とシノヤに向かって面白そうに言った。

中から反応はなかったがその通りなので遠慮はいらない。


試着室からは先程の男のような格好からは想像がつかないような華奢で女性らしいシノヤが出てきて思わず見入った。

店員はふふん♪と得意気に俺に、まいどあり!と声をかける。


店の外に出るとシノヤが頭を下げた。


「****、****。」


突然発せられた聞いたことのない異国語に驚き固まる。



「…****?」

「お前、何を言っている?」

「***…******…?」

「どういうことだ…」



どうやらシノヤ側も同じく言葉が通じていないらしい。


「シノちゃ~~ん!」


無言の場によく知った声が通る。



「フレイ、突然彼女に言葉が通じなくなった。彼女の言葉もわからない」

「なにそれ?」

「さぁな。」

「シノちゃん好きな男性のタイプ教えてー!愛してるよー!」

「恥ずかしいからやめろ。場所を変えよう。」



不安そうにするシノヤを見て、またどうにかしなければという気持ちに駆られる。

シノヤの腕をとり、通じないとわかっていても声をかけた。


「とりあえず宿に行く」

「あ、はい、わかりました」


あっさり言葉が通じる。シノヤもフレイも多分俺も驚いた顔になっていると思う。







宿で色々試した結果俺はシノヤの翻訳機らしい。様子を伺うように俺の斜め後ろから服の裾をつまむ彼女を見るとフレイの役得発言も否定出来ない。


「私、どうすれば…」

「住民登録、保護、監察、翻訳解決策、帰国方法、全て城に繋がる。このまま付いてくれば問題ない」

「その間はぜひともアルゼルとイチャイチャ手を繋いで歩いてもらいたいな僕。裾を遠慮がちに握ってるのも良いんだけどやっぱりこうがっしり…イタッ!」



あまりにも馬鹿な妄想をするフレイを遠慮なく叩き、シノヤには休むよう伝える。

いきなり異世界に来て一人で考える事もあるだろう。

立つとシノヤの指を服の裾が通り抜ける感覚があった。




隣の部屋に入るとフレイが仕事顔になる。


「シノちゃんを召喚したのは間違いなくイ・ダナの者だろうね。団長にもさっき連絡しといた」

「早いな」

「そこは間違ってないだろうと思ってね。僕らがあの森に縛り付けた追っ手の回収も頼んだよ。団長は保護対象者を無事に城まで届けること、だって」



フレイが脱ぎ散らかした上着と自分のをクローゼットに片し、報告書を広げる。


「問題は何故無許可で召喚を行ったのか、何故シノヤなのか、だな」

「争い事大好きな国に魔力のないシノちゃんが必要とは思えないんだけどねぇ。繭を解除出来ないなら言葉も通じない」


「そもそも繭でシノヤを囲った人物は誰だ。連中も予想外な展開だったんだろう。シノヤの世界に魔法はないと言っていたから召喚された瞬間に囲った事になる」

「瞬時にあの繭を作るなんて不可能だよ。あれの作り手が他国にいるだなんて想像もしたくない!」


フレイと間を惜しむほど意見を言い合うが、謎が多すぎる上に情報がなさすぎて解決しない。

団長の言う通り、城までシノヤを届けるのが今出来ることの全ての様な気がする。



ふぅ、とため息を吐くとフレイがニヤッと笑った。


「んで、シノちゃんどうなの?好き?僕、アルゼルとシノちゃんすごく合うと思うよ」



馬鹿か、寝ろ、と報告書と向き合いペンを走らす。

あぁ、そうだ。過剰な正当防衛の訳を書かなければ。










朝が過ぎ、昼になろうとする頃シノヤの部屋のドアを叩いた。

言葉は通じない状態なので、気が引けるがドアをあけた。


モゾモゾと布団が動き、ヒョコッとシノヤの顔が出た。


「アルゼル**…****…」


近付くと顔が赤いのがわかる。シノヤが差し出した手をとるが、それも熱い。


「熱が出てるのか。」

「熱以外に体調が悪いところはないので多分精神的なものです…すみません、すぐ下がると思います」

「発つのは熱が下がってからでいい。ゆっくりしてろ」


安心したのか少し微笑んだ赤い顔が色っぽく、ドキリとした。そんな自分に慌てて、フレイと話してくるから少し待つように言って部屋を出た。

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