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実験

「アルゼル!シノちゃん貸して!」

「断る去れ」


アルゼルの部屋で一緒に午後の休憩をしているとフレイがノックもせずに入ってきた。


「お願い!イ・ダナの魔具が二個も手に入ったんだ。一個は解析に回してて、もう一個はもらってきたんだ。シノちゃん、ちょっと実験しようよ」

「イ・ダナの魔具なんて危なっかしいもので実験するな」

「すんごい魔法が見られるよ~」


ニヤニヤしてフレイが小さなストラップみたいなものをぶら下げている。すんごい魔法はちょっと見てみたい…


「危なくなってもシノちゃん魔法効かないから大丈夫でしょ」

「魔法は効かなくても魔法による二次災害は防げないだろ」

「じゃあアルゼルが側にいてあげてよ。ねぇお願い」


はぁー、とアルゼルは長くため息をついた。しょうがないから付き合うか、と言った様な気がした。


「10分だけだぞ。まだ俺は仕事があるんだ」

「ありがとうアルゼル!シノちゃん屋上行こう!」


ぐい、とフレイに手を引かれて部屋を出て階段をかけ上がる。

屋上に出ると色々な野菜や果物が栽培されていて、そこを抜けると噴水を取り囲んだ芝の広場があった。


「魔具は初めて見るんだっけ?これはミミダナ産の普通の魔具。赤魔石をここに設置すると、火が起こせる」


柱しかない四角い装置の中に魔石を置いてボタンを押すと、ボッと魔具の先から火が点る。四角いライターのようなものなんだろうな。


「持ち運び出来る魔法って事?魔石だけじゃ使えないんだね」

「魔石はリミッターをつけないとただの爆弾だ。装置につけて少しずつ使うことで日用品に活かせる」

「そういうこと。んでこれがイ・ダナ産の魔具ね」


フレイがストラップの先に赤魔石を付けて、それを中指に掛けた。手を空に向かって広げると一瞬で太い火柱が上がり、周囲が赤く染まる。


「すごい…」

「イ・ダナはこの様な魔具を用いて戦を仕掛けてくる。騎士の戦闘力は関係ない。魔具を扱えれば幼子さえも戦闘に参加する」


なんて非道な国なんだろう。改めてディギ達に拾われなくて良かった。私の魔石はこれに使われる予定だったわけだ。


「んで、実験させて欲しいのは、今使ったこの魔具に新しい魔石をつけてぇ…」


赤かった魔石はただの石になっている。それにフレイは魔法を籠めてまた赤魔石に仕上げて魔具に付けた。


「シノちゃん、ちょっと触ってみて」


ほんとにちょっとだよ、と念を押されたので人差し指でチョン、と触った。

よっしゃ、と先程のように手を空に向けたが火柱はあがらない。


「フレイ、魔石の魔力は吸われたみたいだぞ」

「はは、やっぱね。そんで」


魔石を外してまた赤魔石を作り、魔具につけて空に向けた。


「…うん、完全に魔具が壊れてるね。魔具そのもののエネルギーも吸っちゃってる。シノちゃんはホント、イ・ダナにとって脅威な存在だね~」

「実験したいってこれか?」

「そ。どうなるのか興味があったんだ~」


魔具を上に投げ出し、パンッと粉々に割ってフレイが笑う。


「でも、私冷蔵庫とかお風呂かは触っても平気だよ」

「魔石を設置する核の部分を触ってないし、そもそも冷却機の冷風は魔法じゃなくて魔法で冷やした風だからこれはシノちゃんが吸収する対象にはなってないんだよ。対して魔具は設置台がむき出しな上に直接魔法を繰り出す為の道具。万が一の話だけどさ、ものすご~い強大な魔具を開発されてぶっ放されたら大変でしょ。僕らが魔法や剣でダメージを蓄積させるより一瞬で片付けられる方法が見つかったって事だよ」

「そんな危険な場所に行かせるか」

「万が一だって」



相変わらず眼帯をつけたままのフレイは片目で私を見ている。ね?と口は笑うが目は鋭いまま。


「…万が一そうなったら、私を利用していいよ」

「馬鹿、ウタ!」

「待ってましたその言葉!早速ソフィアさんに報告書書いてくる!」


走り出したフレイをアルゼルは「おい!」と引き留めようと腕を伸ばすがスルリと抜けられ野菜畑に消えていった。


「…あの研究馬鹿に利用されるぞ」

「いいよ、少しでも役に立てるなら。今更だけどフレイって研究好きなんだ?」

「小さい頃から魔法の訓練は必要なかったからな。知らない物や新しい物を追及するのが唯一の楽しみだったんだろ」


部屋に戻る、というアルゼルの手を握り歩き出す。


「フレイは幻術も出来る?」

「幻術は二つ以上の魔法を組み合わせて作る魔法だから当然あいつも出来る。医療系魔法もそれにあたるから、俺も出来るっちゃ出来るがかなり疲れる。リアーナはそういう繊細で緻密な魔法を練るのが上手いから指導者にまでなったんだ」


あぁ、幻術ってそういう部類の事だったのか。幻を見せてやる~的なのじゃないのね。


「フレイが指導者じゃないのはなんで?」


第一騎士団はみんな指導者として担当を持っていたがフレイだけは指導者ではなかった。実際に魔法をもらいに練習場に行くといつも教壇にたっているのはソフィアさんだ。


「フレイは魔力が高すぎるから、あいつがコツだ技術だなんて語っても誰も理解出来ないんだよ。指導者には向いてない」


…なるほど。


「だからと言って無能な奴でもない。器用なのは確かだから誰かの休みの代わりや補助に回れる。多少の自由は許してやりたいんだ、幼い頃縛られた生活してたしな」

「フレイがアルゼル好きなのは知ってたけど、アルゼルもちゃんとフレイを理解して接してるんだね。さすが元恋人」


ピタッとアルゼルの足が止まる。


「誰から聞いた」

「ふふ~秘密」


しかめっ面で私を睨み付けるが、もう私にその攻撃は全然効かない。変わらずニヤ~ッと笑い返し続けるとムニッと頬を両手で引っ張られた。


「なにふんの!(なにすんの!)」

「くそ生意気な顔しやがってコラ、誰から聞いたんだ」


手を振りほどき、走り出す。


『内緒!』


アルゼルはフレイに向けたあのため息を漏らす。

どうせすぐ追い付かれてしまう。ならば思い切り逃げてみよう。


あの暖かい腕に捕まるまで。


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