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食事会2

結果、食べ過ぎて苦しくなった。デザートはもう味を楽しむ間もなく押し込んだ感じだった。こちらの世界の人は胃袋の大きさからして違うんだろうな。


今日はトゥーダナ城に泊まるらしい各国の方の見送りをした後、ふぅ、とお腹を擦って息をはくとアルゼルに笑われた。


「少し外歩くか。中庭でいいか?」


うん、と返事をしようとしたが、見送り終わった筈のミヤコ様が戻ってきて扇子でアルゼルを指した。


「アルゼルと話がしたいのだが、ジークフリード」


団長さんは少し驚きながらいいですよ、と答えて私に付いてくるように言った。


「中庭にいるから、終わったら来い」

「わかりました。よろしくお願いします」


ミヤコ様は振り返らずスタスタと歩き始めたのでアルゼルが急いで後を追った。ダリアがすみません、私も後片付けを手伝う様に侍女長から言われていまして、と私から離れる。

ダリアとアルゼルが見えなくなると、団長さんが国王とソフィアさんに礼をして歩き出したので私も同じ様に続く。


「アルゼルが来るまでの間、君に家族の事を聞きたい」

『家族、母だけ』

「いや、君のお兄さんの話も聞きたい。ディギとは関係なくどんな人だったのか知りたいんだ」


何故私の家族の話?とは思ったが、団長さんとどう過ごせばいいか緊張してたのでちょうどいいかもしれない。


『兄、無口、でも優しくて、私と母、いつも守ってくれた』

「いい男だな」

『はい。好き、いっぱい言われてた』


ハハハ、と初めて団長さんの笑顔を見る。その笑顔になんだか少し安心感を覚える。


「最期は病気だと聞いたが?」

『原因不明の、病気でした。体、どんどん動かない』

「…そうか。双子の兄の姿を見るのは辛く、凄まじく怖かったろうな」


そう。兄に起こる病なら私もそうなるかもしれない。兄の弱る姿は自分に重なり、それで病院から足が遠ざかった。大好きな兄が弱る姿を見たくなかった、は美談だ。

初めてそれを言い当てられ固まる。


「母は健康だったか?」

『…母、弱かった。体調に波、ある。寝込む日、たくさん』

「母と兄は**、君は?」


わからなかった単語は恐らく《病弱》だろう。私は健康そのものだった。人並みに風邪を引くことはあるが、母の様に体が怠いとかで寝込んだ事はない。そう伝えると、なるほど、と返された。…なるほど?


中庭に到着すると、夜だからか以前ダリアと来たときと違って人がほとんどいない。ベンチに座るが団長さんは立ったまま少し考え事をしている様だった。

団長さんをそっとしておき花を楽しんでいると、いきなり風が吹き肩に掛けていたショールが舞う。慌てて手を伸ばし追い掛けるが蝶のようにすり抜けてどんどん風に乗る。


「待って!」


アルゼルからのプレゼント!大声で叫ぶと団長さんも振り向き手を伸ばすが舞い上がってしまい届かない。

ふわふわとあっという間に飛んでいき、広い中庭の奥の方で落下したのが見える。そこへ向かって走り出したところでアルゼルの声がした。


『アルゼル、ショールが、飛んでった!』

「ショール?あぁ…」

「もう暗い。庭師に連絡しておくから探すのは諦めた方がいいだろう」


でも、と渋る私にアルゼルは頭を撫でて落ち着くように言う。


「あれは透明に近いから暗闇で探すのは不可能だ。もし見付からなかったらまたいくらでも青色の物を贈ってやるから」


それでもアルゼルが初めてくれたプレゼントだ。後ろ髪引かれつつも、もう冷えるから帰ろうというアルゼルに連れられて団長さんに礼をしてから部屋に戻った。



次の日になっても、一週間たっても、ショールが見付かることはなかった。

もしかしたら誰かに持っていかれてしまったかもしれない。部屋を出てすぐの廊下の窓から中庭を覗く私に、見たことのない青年が話し掛けてきた。

赤髪をオールバックにして、少しピンクに近い色の目をした眼鏡の青年が何を見ている?と。


『花、です』

「へぇ…残念、ショールを探してくれてるかと思ったんだけど」


何故それを、と改めて彼を見つめると色は違えど顔の作りはアルゼルだ。


『アルゼル?』

「買い物行くぞ、ほら」


帽子を被せられ、ぐいっと腕を引っ張られながら階段を下る。赤髪の一見見知らぬ青年に腕を引かれる私に侍女さん達が通信機を構えるが、アルゼルが何か紋章みたいなものを見せると安心したように行ってらっしゃいませ、と送り出してくれる。

門をくぐり城下町に入ってもアルゼルだと気付く人はいない。


「一時間暇が出来たからフレイに魔法をかけてもらった。」

「ありがとう…」

「何がほしい?」

「アルゼル色ならなんでもいい」


振り向いたアルゼルが満足そうに口角をあげ、じゃあ片っ端から見るか、とアクセサリー店に入る。


誰も私達に注目する人はいない。手を繋ぎ、色んな店を見て回り、アルゼルは小さなアイスブルーの宝石がついたネックレスを買ってくれた。

私も色をプレゼントしたかったが、黒いものはあまりなかったのでペンをプレゼントした。これなら黒いインク出るから、と。

アルゼルはありがとう、と微笑んだがもう時間が迫っていたので駆け足で城へ帰った。


「忙しなくて悪い」

「うぅん、楽しかった。ありがとう」


お互いの部屋の扉をあけて中に入る。中ではダリアが掃除をしていて、リアーナがこたつで寝転んでいた。

ただいま、と声をかけると二人がガバッと駆け寄ってきて何を買ったか迫ってきたので、ダリアに飲み物をお願いして席についた。

長い女子会になりそうだなぁ。ニヤニヤしてるリアーナに、満更でもない気持ちで買い物袋をお披露目する。

わぁ、と嬉しそうなリアーナと、飲み物を運びながら中身を見せてください、と急かすダリアに、私はより一層幸せを感じた。


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