初めての買い物1
ダリアが和食を作る材料の買い出しにミミダナへ行くことになり、二日城を開けることになった。
「では、行ってきます」
深々とお辞儀をしたダリアに行ってらっしゃいと声を掛け見送ると、今がチャンスと引き出しを開けて封筒を取り出す。
つい先日リアーナから初めてもらったお給料だ。財布がないので半分に折り畳み、ポケットに大切にしまう。
ドアをノックし返事を確認してから開けると、第一騎士団の会議中だったらしく団長さん以外のみんなが揃っていた。
『今、忙しいか、話、聞ける?』
ダリアに教えてもらったこちらの言語を使って遠くから話し掛ける。フレイがおいで~!とパタパタ手を振ったが、リアーナが私達がそっちに行く!と妊婦さんらしい少し大股な足取りで近付いてきた。
リアーナは妊娠を発表した後つわりがなくなったので出産ギリギリまで引き継ぎをしながら働くと決めたらしい。
その引き継ぎ相手は以前私とダリアに城を案内してくれた第二のフォルクスさんだった。
こたつが大のお気に入りなフレイとリアーナ、続いてフォルクスさんが早速こたつに入り寛ぎ始めたので緑茶を入れる準備をする。アルゼルが私の腰に手を回しながら湯飲みを並べてくれた。
「話はなんだ」
「あのね、お買い物に行きたいんだけど私って城下町に行けるかな」
「俺と行くなら問題ない」
「ん~…一人がいいんだけど…」
遅れて書類を持って部屋に来たガーティスさんが、なんだこの部屋さみぃぞ!とドシドシとこたつに急いだ。
「城下町は人の出入りを規制していない。お前を一人には出来ない」
「じゃあフォルクスさん、一緒に行ってくれますか?」
「俺?!」
ピシピシッと何かが凍る音がして、フレイ達がギャー!とこたつ布団を手繰り寄せた。
「シノちゃん僕達を凍らせる気?!」
「だ…だって!えっと…アルゼルやフレイと行くと人が群がって買い物どころじゃなくなるし、リアーナは妊婦さんでガーティスさんはこれから稽古でしょう?」
「確かにアルゼル連れてちゃ自由に買い物出来ないわよね~。でも残念、フォルクスにも女は群がるわよ。階級の高い独身の騎士を狙って群がってるんだもの」
そっか、と落ち込むとアルゼルが悪いな、と頭を撫でた。アルゼルの冷気で冷えきった緑茶とリアーナ用の麦茶をみんなに配り、魔法で暖めてね、とお願いした。
「嬢ちゃん、独身でない俺で良かったらデートするか」
ガーティスさんがリアーナに緑茶を暖めてもらいながら言った。
「本当?お願いします!」
「ちょうど切れてる備品があってな。短時間にはなるが一緒に行こう」
それならいいだろ?とアルゼルに言うと緑茶を飲みながらジロリと睨み付けたが小さい声で了承してくれた。
リアーナが私の髪をまとめて深めの帽子をかぶせてくれた。最近城内を探索する時いつもこの帽子を被っている。
「見られた人に浮気だって言いふらされちゃうわよ?」
「それだけは勘弁だから一番先に嫁の仕事場に顔を出させてもらう。回りには無口な親戚とでも言うさ」
緑茶をグイッと飲み干し、じゃあ行くか、と席を立った。
会議面倒くさいんでしょ~とフレイにニヤニヤ指摘されたガーティスさんは、バレたか?と豪快に笑った。
「ガーティスから離れるなよ」
いつものように額にキスをもらい、行ってきます、と部屋を出た。
本編の間の話になります




