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翻訳機な彼

がっくんがっくんと揺れる感覚につい眉に皺が寄る。

キィン、と間近で金属音がなり驚いて顔を上げるとすごい形相で追いかけてくる男がいた。


「…なっ何?!」

「頼むからそれ以上上体を起こすなよ。落ちる」


グワッと視界が回転してた途端、またキィン、と金属音がなる。少し涼しい風が起こる。

再び視界が回転すると先程のすごい形相の男が氷漬けになって固まっている。


「粗方片付いたか。大丈夫か、お前」


しばらく歩いた後肩から下ろされるも、悪い、靴を片方落としたみたいだな、とすぐ横抱きにされる。


人の氷漬けを見たのも、肩で担がれたことも横抱きされたのも初めてで何から反応すればいいかわからない。


「あの…ここどこですか。あなたは誰ですか?」


まず自分が置かれた状況を把握したかった。私は森に入った記憶はない。


「ここは誘いの滝を囲む迷いの森の中。俺はトゥーダナ国第一騎士団のアルゼルだ」


ますます混乱した。










「アルゼル!無事だよねわかってる」


相変わらず横抱きにされたまま道を進んでいると後ろから声が聞こえた。

アルゼルさんは構わずスタスタ歩くので彼の首越しに顔を覗かせてみると白髪の青年がニコッと微笑んだ。


「こんちにわ、僕はフレイ。君の名は?」

「篠谷です。すみません…保護していただくようで…」


どうやらこの世界には異世界人は珍しくないらしい。

周辺の国々に申請を通し、正式な手順を踏めば召喚士が異世界人を呼ぶことができる。

そうやって異文化を取り入れて成長してきた世界らしい。

ただ私は無許可で召喚されたらしく、誰が何の為の召喚かわからないので国で一時保護、監察をするとアルゼルさんに言われた。

もちろん私にはこの世界に何か教えられるような知識も技術もない。なぜ召喚されたのか検討もつかない。



「とりあえず住民登録はしないとね。異世界人登録書ってダズの村長が持ってるんだっけ」

「あぁ。書類と宿頼む。俺はこいつと靴を調達してくる。」


それは助かる。所謂お姫様抱っこはいい加減恥ずかしい。

自分で歩くと何回か伝えたが、毒性のある植物が生えてる、と言われては甘えるしかなかった。





村に入りフレイさんと別れた後、早速靴を買いに行った。

異世界人が来た時用の店らしく、スタンダードなこちらの世界各国の服一式を取り扱っていた。

靴だけで良い、と言ったがアルゼルさんはしっかりトゥーダナ国の民族衣装一式を試着室に私と押し込んだ。


試しに着てみると茶色が基調の花が刺繍されているワンピースでとても動きやすい。


「*******!***!」


店員のおばちゃんがケラケラ笑って何か言ってるが方言なのか全然聞き取れなかった。

試着室から出てアルゼルさんを見ると、少し驚いた顔をした…ような気がする。


会計を済ませたアルゼルさんが手提げの袋を持ってきてくれたので着ていた服を詰める。


「アルゼルさんすみません、お金必ず返します。」

店を出てすぐ礼をして顔をあげるとさっきとは違う驚愕な顔をしていた。



「…どうしました?」

「***、*****?」



…アルゼルさんが何を言ってるか、わからない。


「えっと…ごめんなさい言葉が…?」

「****…」


アルゼルさんの顔が険しくなる。

さっきまで普通に喋れたのにどうして?


お互い無言のまま突っ立っているとフレイさんが歩いてくるのが見えた。


「シノ**~~!」

多分、手を降ってる感じを見る限りシノちゃ~ん って言ってる…かな。


手を少し挙げ答えるとアルゼルさんがフレイさんに歩みより、何か話してる。

フレイさんもビックリした様子で私に何か話し掛けているがやっぱりわからない。


どうしたもんか、と考えていたらアルゼルさんに腕を捕まれた。



「とりあえず宿に行く。」


今度はあまりにも鮮明に言葉がわかったので思わず「あ、はい、わかりました」と普通に答えてしまった。


アルゼルさんは私を見て

「…触ればわかるのか」

と、呟いた。


あぁ、なるほど!さっきは抱き上げてもらってたから…って、なんて不便な。







「ふぅん、僕じゃ駄目みたいだ。役得だねアルゼル」


宿についてから色んなパターンを試した結果、洋服でも髪の毛でもアルゼルさんに少しでも触れていれば言葉が通じる事がわかった。


「翻訳機か俺は」

「なんかすみません…」

「繭解除の時にシノちゃんを保護してた水をアルゼルが吸収したからかなぁ。えー最後まで僕がやればよかった」


ニコニコ陽気に話すフレイさんとは対照的にアルゼルさんは基本しかめっ面。

怒られないように斜め後ろから服の裾をつまむ。


「私、どうすれば…」

「住民登録、保護、監察、翻訳解決策、帰国方法、全て城に繋がる。このまま付いてくれば問題ない」

「その間はぜひともアルゼルとイチャイチャ手を繋いで歩いてもらいたいな僕。裾を遠慮がちに握ってるのも良いんだけどやっぱりこうがっしり…イタッ!」


フレイさんが自分の両手をニギニギした所でアルゼルさんが物凄い勢いで頭を叩いた。


「いきなりの事だ、疲れただろ。明日出発するからもう休め。俺達は隣の部屋にいるから安心しろ」

「あ、はい」


ス、とアルゼルさんが立ち上がったので指から裾が離れる。


「****~!」


フレイさんが手を振りながら後に続いて部屋を出ていく。じゃあね~、かな?


しん、とした部屋に私の溜め息が響く。

お風呂入って寝よう。混乱した上に疲れてる。



お母さん…私どうなっちゃうんだろう…


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