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嘘と真実と口付け

アルゼルside

今日は日付が変わる前に全員の稽古が済んだ。先月よりかなり早く終わって俺は助かったが、ガーティスはもっと教え子の成果が見たかったんだがなぁ、と睨んできた。


「ガーティス勘弁してあげてよー、恋する騎士アルゼルは早くシノちゃんに会いたいんだよ」


フレイがケラケラ笑うが、流石に魔力が減って疲れてるようで息切れしているかのような呼吸をしている。俺も傷や体力は回復してもらってるが腕や足のダルさを感じ、さっさと寝たい気分だった。

片付けは任せろ、と体力が有り余るガーティスを置いてフレイと馬車に乗り込み、思わずため息が出る。


「シノちゃん、ダリアちゃんが来て嬉しそうだったね」


そうだな、と窓の外に移るまだ遠い城を眺める。今日は昼過ぎ何回か呼ばれた気がした。やはり距離があるとウタからも印を貰わないと声が届きにくいらしい。リアーナに連絡を入れると変わりないと言われたので駆け付けないよう必死に自分を抑えていた。


「なぁフレイ、ダナレスの誓いって魔力がなくても出来ると思うか」


ついに?!と車内で立ち上がり頭をぶつけたフレイが嬉しそうに興奮する。


「ガーティスの意見を聞いたら早い方がいいと判断した。もちろんウタの気持ちと意見は反映するし団長にも許可を」

「なんで団長の許可がいるの、二人で決めなよ!シノちゃん喜ぶよ、見ててわかるもん。あー本当に嬉しい。僕幸せ」


自分の事のように喜んでくれるフレイに心が暖まる。


「断られたりしてな」

「そしたら慰めてあげる。元恋人として」



魔力がなくても誓いを結べるかはやってみないとわからないが、それよりそこそこ血を流す作業になる方が正直問題だった。彼女に治癒魔法は効かないし、自分をナイフで傷付けるのも大分勇気が必要だと思う。

そこも相談しないと駄目だな、と興奮するフレイを横目に考えていた。





部屋に入り、電気を付ける間を惜しんでそのままシャワー室に直行し汗を流す。土埃が舞う中にいたので、頭を洗うと流れる水が濁った。髪がキシキシするのを感じて数回洗い流し、体も念入りに洗う。しかし、どうウタに話を切り出すか考えると洗う動きが止まってしまう。

柄にもなく緊張してるんだな、と苦笑し、横になってから考えようと浴室から出て電気をつけるとベッドの布団がかすかに動いた。

侵入者かと思い、咄嗟に布団を氷の刃で囲う。が、向けた刃の先端から渦を巻いて消え始めた。

その様子を見て中身が誰かわかり魔法を消し、布団をそっと剥ぐと眩しそうに顔をしかめたウタがいた。頭を撫で、額に口づける。


「こら」

「ぅ…ん?」


「夜着で異性の部屋に侵入するのがどういう事かわかってるのか」


わざと低めの声で耳元に囁くとバッと起き上がり目を細めながら、違う、ごめん、お疲れ、お帰り、と真っ赤で慌てふためくウタに表現が緩むのを感じる。


「あの、話が、」


目が光に慣れ落ち着いたウタが手を繋ぎそう切り出したが、俺の顔から足まで視線を落としたことで、ゥワァアア!と声をあげて顔を布団で隠し、すみませんが服を着てください!と何故か敬語で叫ぶ。


「タオル巻いてるだろ」

「いいから、早く!」


「シノ、どうしました!?」


ウタの叫び声を聞き付けたのかダリアが扉を思いっきり開けた。場に沈黙が走る。


下半身タオル一枚でウタの腕を掴む俺と、布団に身を隠すウタ。



なるほど、とダリアはいつもの冷静な声色に戻り礼をした。


「アルゼル様のお戻りを知らず失礼致しました。防音の魔法を掛けておきますのでどうぞ朝までごゆっくり」


パタン、と静かに扉が閉まる。



「待ってダリアなんか勘違いしてない?!」


追い掛けようと俺の手から逃げ出しベッドを降りたウタを両腕で包み込むように腹部あたりを捕まえる。


「話があるんだろ、逃げるなよ」


真っ赤になり振り返るだけで何も言い返せないウタの頭に口づけて、着替るからそっちに座ってろ、とソファーに促す。正直あれ以上ベッドでやり取りをしていて自分を抑えられる自信がなかったからだ。ダリアにも感謝しなければ。




脱衣所で着替えをしていて気付く。まだどうやって話を切り出すか考えていない。ウタが話があるというので、それを優先して自分の話は明日に回すか、とも思ったがウタへの気持ちに気付き伝えると決めてしまった今、なんだか色々止まりそうにない。

戻ると両手で顔を隠しているウタがちゃんとソファーに座っていた。横に座り、手が空いてないようなので頭に触れる。指の隙間からこちらを伺っているので、もう裸じゃないが、と言うとわかってるよと頭に添えていた手を剥いで繋ぎ直した。


「話とはなんだ」

「アルゼル私に嘘ついた?」


いきなりそう言われて驚く。


「ついたな」


正直に答えると予想していたのか何も言わず俯いてしまった。


「あの森に毒草が生えていると言ったがあれは嘘だ」

「え?」

「ん?」


「最初に会って靴がなくなって…下ろしてくれなかったときの事?」


そうだが、と言うと全然気付かなかった、恥ずかしかったんだから!と責められる。


「ほ、他は?」

「…嘘と言うかどうかわからないが、額にキスするのは別にこちらの文化にはない」

「は?!」

「ん?」


額を押さえながら、アルゼルはセクハラしまくりの変態って認識になるけど?!と言われる。


「セクハラとはなんだ」

「…なんでもないっ他にはっ」


この様子だと恐らく誓いの事を知られたな、と読み取る。


「ダナレスの誓いを専属騎士契約と話した事か」


きゅ、と手を強く握られる。


「名称を偽ったのはわかりやすく説明する為だった。悪い」

「偽ったのは名称だけ?」


潤む瞳で見上げるウタに抱き締めたくなる衝動に駆られるのを抑え込む。


「そうだ」


答えると安心したのか息をついた。誓いの事を知ったのなら随分話が早くなったな、と今度は俺が手を強く握る。気付いたウタが顔を上げた。


「俺の右腕にもお前に誓いを立ててほしい。護衛だから、翻訳機だからではない」


俺は今どんな表情をしているのだろう。こんな風に自分の気持ちを異性に向かって話した事はない。


「一日離れて苦しかった。遠くに微かに聞こえる声のもとへ駆けつけたくて仕方なくもどかしかった。俺の体はもうウタなしでは生きていけなさそうだ」

「…うん」


「お前と正式に誓いを結びたい。

 

 好きだ」


私も、と全て聞き終える前にウタの唇を奪う。んぅっ、と苦しそうに制止を求める声は今は俺への刺激の一つにしかならない。

気持ちは焦り、もっともっととウタを求めている。そこを出来るだけゆっくり優しく唇を啄み舌を絡ませ、でも離すまいと力強く抱き締める。

ウタの手が背中に回ったのを感じ、キスをしたまま慎重にソファーへと押し倒す。

わざと大きめのリップ音を鳴らし顔を離すと予想以上に色気を放つウタがいた。ドクン、と胸が高鳴る音が全身に響き、あぁもう止まらないだろうな、と抑制を諦め再び顔を近付けた所でウタが予想外の言葉を放った。


「きょきょきょ今日はここまで!」

「…何故だ」

「いっ…今のが!」


「私、今のが初めてだったんだからね?!」


そう言い放つと真っ赤にした顔をまた両手で隠し黙り込んでしまった。

そこを無理に再度襲うわけにも行かず、また彼女の初めてをもらった嬉しさに自分も固まる。


「異性と付き合った事がないのか」

「兄が厳しくて。私の住んでる町では皆知ってたから男性はあまり話し掛けてくれなかったの。兄が怖いからって」

「へぇ…お前の兄には感謝しないとな」


ウタを抱き上げベッドまで運ぶと多少抵抗されたが、もう体が限界だから眠らせてくれ、と抱き締めたまま寝の体勢に入り目を閉じると、観念したのか体から力が抜け胸元に収まる。

自分の火照った体を落ち着かせるのに必死ではあったが、その後の眠りには、抱き心地の良い枕を抱えてるようで気持ちよく入れた。

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