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侍女の祖母

その後もいろんな場所に案内されたが私はずっとダナレスの誓いの事を考えていた。

あの時アルゼルが守ると言ってくれた事は信じたい。でも誓いをしてまで守ろうとするだろうか。

火傷をした私に負い目を感じて、降格出来ないなら…とこんな極端な行動に出たとか?なんかあり得そうな気がしないでもない。

でもこの前は明らかに額ではない場所にキスしてきそうな雰囲気だった。それはどういうことなんだろう。どういうことなんだろう!


頭を抱え悩んでいるといつの間にか自室の前にいた。ダリアがフォルクスさんに頭を下げているので私も慌てて感謝を込めて頭を下げる。

部屋に入ると、ミミダナからの荷物が届けられていた。こたつや畳などがありテンションが上がっている所にダリアが制止を込めた声で私の名を呼んだ。


「恐らく耳に入ってなかったと思うので改めて言います。リアーナ様の妊娠はご内密に、と申していました。来月末に安定期に入るのでそこで報告するまでは言わないでほしいそうです」


まったく聞いてなかった。言い直してくれたダリアに感謝してわかった、と返事をする。

部屋のレイアウトを変えるのでアルゼル様の部屋で昼食を取り休んでいてください、と言われて移動する。ソファーの前のテーブルにマフィンのようなものがあったので頂き、そのまま横になった。


アルゼルに会いたい。会って、誓いの事を確かめたい。





少しの間寝てしまい、自室に戻ってみるとステップ階段で仕切られた小さな和室コーナーが出来ていた。畳が敷かれ、こたつがある。今は涼期、日本でいう秋みたいな時期で夜は冷えるのでありがたい。


「先程完成しました。祖母の部屋に似せたのですがどうですか?」


感想を聞く割には仁王立ちで自信たっぷりの、私見事にやりました!といった表情なので思わず吹き出してしまった。シノ?駄目?と聞かれ、百点満点、ありがとうと答えた。



夕飯は隅に移動したテーブルで食べた。ダリアがしょんぼりした様子だったが、食後に"こたつでみかん"しようと誘ったら目がキラキラしてすぐ食事になった。


夕飯を食べながらダリアにおばあ様の事を聞いてみた。

もう数年前に他界しているおばあ様は手料理をミミダナ城の料理長に指導するのが任務だった。ミミダナの主は色んな世界の料理を食べるのが趣味で、よく召喚して料理長に知識を得るよう指示するらしい。

二十代の頃この世界にきたおばあ様はキッチンの下働きと恋に落ち、おばあ様が知るレシピを全て教え終わる頃には既にお腹の中にダリアの母がいたらしい。随分悩んだそうだが、例の老夫婦に頼み両親に別れを告げてこちらの世界で生き抜いたそうだ。


「とても優しい祖母でした。祖父と同じく料理場で働いて忙しかった母に代わり、私に色々教えてくれました」


おかげでこちらの世界の人とは感覚が多少ずれてるみたいなんですけど、と笑う。


「祖母がたまに使う日本語に惹かれ、教わり、それがこのように特別な仕事を舞い込ませて来るなんて夢のようです。」


そう話すダリアは少し涙目で儚げだ。


「ダリア、私あなたがいなかったらホームシックになってたと思う」


ホームシック?と興味深そうに聞かれ、故郷が恋しくなって塞ぎ込んでしまうことだよ、と教えた。


「ダリアに日本を感じるし、でもこの世界での頼りになる存在でもある。おばあ様にもダリアにも、本当に感謝してる。ありがとう」


ダリアは、とんでもない!食器片付けますね、と零れた涙を隠すように迅速に動き始めて部屋を出た。

つられて泣きそうになった私も、お風呂に入ることにして席を立った。




お風呂から戻るとこたつの上にみかんに似たフルーツがあったので、仕事を終えたダリアと食べながら談笑した。

そこで獣人は後天性であることを教えてもらった。


「ミミダナは国土が狭いので、空中、地中、海中に住めるよう開発したのが獣人になる薬でした。望む能力は選べますが、何の種類になるかはわからないのです。魔力も落ちますし、ミミダナの国民以外は獣人にはならないでしょう」

「おばあ様は?」

「我が家は空にあったのでもちろん祖母も獣人になりました。祖母はこちらの世界の鳥類でした。私が薬を摂取して地球にも存在するミミズクになった時は母が引くほど喜びました」


反抗期の時は猫の方が良かったんだからと言い返されたことがあります、と微笑ましい話にこちらも笑顔になる。


「猫と言えば、ソフィア様は…」

「ミミダナの主、ミヤコ様の娘様です。政略結婚だと思われる方も多いですが、恋愛を経ての結婚だったそうですよ」

「そうだったんだ!素敵…」


国王様にはまだ会えていないがソフィア様はまだ行ってても三十半ばだと思う。若いソフィア様が王妃になったきっかけ…気になる…。



そろそろ侍女長へ今日の報告をする時間ですので失礼します、と味はマンゴーのような甘さだったフルーツの皮を持って部屋を出ていった。

喋る相手のいなくなった部屋は静かで寂しげだが、少し前のようにビクビクする感覚はなくなった。


一人になった途端、アルゼルに会いたくなる。ダナレスの誓いの事を聞きたい。

帰って来たのを逃さないように、失礼を承知でアルゼルの部屋に入り待つことにする。

疲れてると思う。でも、話してほしい。


話したい。

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