第一騎士団
朝の日差しが部屋を照らし始め、自然と目が覚める。お腹が食べ物を求めているが、とりあえず歯を磨き顔を洗い、寝間着から着替えようとクローゼットを開けると物凄い量の洋服が掛かっていた。
どれをどう組み合わせて着るべきなのか迷い、アルゼルに聞こうとドアを叩くが返事はない。まだ会議をしているのかな…
ふと側の窓の外を見ると、剣を交えている騎士がいた。日がまだ低いので朝早い時間だろうに稽古だろうか。
少し部屋が高いためよく見えないが木製の剣らしくぶつかるとカコンッとかすかに音が聞こえる。
三人いる中で一人髪が藍色なのでアルゼルだったりして、と身を乗り出して目をこらしてみると藍色の騎士がこちらを向き手をあげた。
やっぱりアルゼルだ、と手を振り返すと他の二人も何か言いながら手を振ってきた。
稽古をやめて建物に入っていく様子が見えたので来てくれるのかな。
しばらくすると凄い勢いでドアが開いて紫髪のショートカットの女性が入ってきた。
「*************!!!!」
ガバッと抱き付かれて身動きが取れなくなる。私より十センチは身長が高く、完全にホールドされブンブンと左右に振り回される。
それをいつもの知った声が叱りつけ、私は解放された。そこで初めて目が合い、女性が赤と青のオッドアイだと気付く。
とても綺麗だったのでついまじまじと見つめると、女性はほっぺを押さえてクネクネして何かを言っていた。あ、恥ずかしかったのかな…
アルゼルに歩み寄り手を取り
「ごめんなさい、つい綺麗だったから」
と声を掛けると、もっと見てもいいのよ、と顔がぶつかりそうな程近付いてきた。それをアルゼルの後ろにいた、まるで熊のようなガタイの大きい男性が首根っこをつまみアルゼルの部屋に押し込んだ。
「アルゼル、嬢ちゃん着替えさせて来い」
そう言うと男性もアルゼルの部屋に入りドアを閉めた。途端に部屋が静かになる。
「悪い」
「第一騎士団の人?」
「そうだ。後で紹介するが昨日フレイが言ってた噂を聞いてウズウズしてるリアーナがあいつだ」
そう言ってクローゼットを開いて服を取り出してくれた。ありがと、と言うとアルゼルが珍しく優しく微笑んだ。
「ガーゼ替えていいか」
うん、とベッドに腰掛けて包帯をほどく。
「さっき、呼んだか?」
え?と聞くと、トントンと契約印を小突く。
「微かに聞こえた」
あぁ、だからタイミング良く上を向いてくれたんだ。
意識して呼んだわけではないが、あの騎士がアルゼルだといいな、と願った。それが届いたんだ。
アルゼルはてきぱきとガーゼを替えて包帯を巻く。その顔は、いつもの無表情だけどどこか柔らかい感じがした。着替えたらドアから入ってこい、とアルゼルも自室へ戻った。
出してもらった服に着替ると、以前買ってもらった"トゥーダナ国一式"より随分軽くて生地が柔らかく感じた。さすが国が調達したのは違うな…
ドアをノックしアルゼルの部屋に入ると、フレイとリアーナさんがソファーからブンブン手を振っている。
アルゼルの元へ行き手を繋ぐと、フレイから自己紹介を始めてくれた。
「改めまして、第一騎士団魔術師のフレイです。よろしくね」
いつもの笑顔だが、今日は眼帯をしている。どうしたんだろう、ものもらい…とか?
目大丈夫?と聞くと病気とかじゃないから大丈夫だよ、と教えてくれたが余計何のための眼帯かわからなくなった。お洒落?
「幻術指導担当のリアーナです。リアーナって呼んでね!私もシノって呼ぶから」
「ウタでいいですよ」
「それはアルゼルの特権にしたいからいーの。話したいこと沢山あるのに、アルゼルと触れてないといけないなんて不便ねーなんでも相談してほしいのに」
なんだか女性版フレイだな…すごく似ている気がする。色々押し進める感じとか…
それでも女性ってだけですごく身近に感じて嬉しい。
「剣術指導担当のガーティスだ。よろしくな」
先程の熊のような男性だ。団長より若そうだが体が大きくて威圧感がすごい。ただニカッと笑うので親戚の叔父さんって感じがする、かな。親しみやすそうだ。
よろしくお願いします、とお辞儀する。
「他に数人いるが、そいつらは第二などの任務に補助として付くから城にほとんどいない。指導者として城に滞在し、平和を保つのが俺らの仕事だ」
「アルゼルも指導者?」
「俺は書類担当」
そう言うとガーティスさんが
「馬鹿言え、副団長様だろうが」
と笑いながらツッコむ。
副団長だったの?!と驚くと、まぁ、と気の抜けた返事をされた。
団長は国王の側近だから実質私達の団長はアルゼルみたいなもんよ~、とリアーナが言う。
知らなかった…
独身で、イケメンで、第一騎士団所属で、更に副団長だなんて…村も城下町もあぁなる訳よね…
アルゼルにお前の番だ、と言われて慌てて姿勢を正した。
「篠谷詩子と申します。地球の日本から来ました。これからこちらの言葉を覚えていこうと思うのでよろしくお願いします」
そこへアルゼルが付け足す。
「イ・ダナに渡してはいけない存在だ。何があっても優勢して彼女を守るように」
そう言うと三人が了解、と声を揃えた。
その後、リアーナに折り鶴を見せるとすごく喜んだ。彼女は魔石生成も得意でそちらの製造場も仕切る存在らしい。
私が働きたい、と言うとピョンピョン飛び跳ねながら大歓迎!と言ってくれた。
「城の暮らしに慣れたらすぐ言って!働いてくれれば勿論給料は出すし、こんな素敵な形ならブランド化して、そんでボーナスも付けれると思う!」
キラキラとした目で私を見つめてから、早速製造場のみんなに見せてくるわ、と鶴を持って部屋を出ていった。
続いてガーティスさんも稽古の時間があるからと席を立った。それを見送るとフレイが侍女さんに朝御飯をお願いしてくれた。
「今日は徹夜だったからアルゼルは仕事休みなんだよ。僕が代わりにこの部屋で書類を処理するんだ。朝御飯まだでしょ?一緒に食べようよ」
俺は寝る、と部屋の隅にあるベッドに行こうとしたアルゼルを、翻訳機がいないと困る、とソファーに横になるようにフレイが促す。
しかめっ面のアルゼルが横になったソファーの隙間に座り直し服をつまむとそれを剥がして手を握り返された。
「忘れてた。お前の監視にミミダナから侍女が来る。到着したら起こしてくれないか」
そう言うと私の腰に手を回して寝に入ってしまった。