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アルゼルside

帰国出来る可能性がゼロに等しいと聞いたウタは固まった。繋いでいる手は急速に冷たくなっていく。


「何故ですか」


ウタの代わりに団長に問う。


「召喚された異世界人に話を聞くと、皆揃って老夫婦に導かれたと答えた。恐らくこの世界には門番がいる」


ウタの作った折り鶴をつまみ、くるくると廻しながら団長は話を続ける。


「召喚された理由を丁寧に話し、召喚中は元の国では自分の存在や周りはどうなっているかなど細かく説明してくれたそうだ。君と同じチキュウから来た者も、言語には不便をしていない。召喚された理由を達成すると帰国するかどうかを訪ねに夢に現れるそうだ」


思わずウタを見る。


「私は、老夫婦に会ってません…」


震えて今にも消えそうな声で答えた。


「それが無許可の代償なのだろう」


しん、と部屋が静まる。許可を申請するのは国同士の確認作業だけかと思っていた。門番というのは神なのだろうか。


あの、とフレイが空気を断ち切る。


「シノちゃんを休ませたいんです。今日は負担を掛けすぎです。心も体も。」


そうだな、すまない、と団長が言うとフレイがズイッと身を乗り出して目を輝かせる。


「シノちゃんの部屋なんですけど!アルゼルの部屋の隣っ!今は第一騎士団会議室として使ってる部屋がいいと思います!」

「っおい!」

「やっぱ言語が伝わる相手が傍にいると安心だし、何かあったときすぐ駆けつけられます。なんたって室内もドアで繋がってますし!」


団長が吹き出して笑う。


「まぁ、そうだな。そうしよう。」


そこは止めろ!俺は男なんだぞ、と思いながらも心のどこかでそうなりたいと思ってしまい何も言えなくなる。


「お前の部屋、広いんだろ。会議は自室で行うことになるだろうが、いいか」

「…ウタは俺の隣の部屋でいいのか」


こくん、と頷く顔はあまり会話が頭に入ってなさそうに見える。


「寝具や棚を届けるよう手配しておくからその間お前の部屋で休ませておけ。…しっかり話もするんだぞ」


そう言うと団長は部屋を出た。フレイも色々したいことがあるから、と続く。


「ウタ、歩けるか」


二人になった途端、ウタの目からポロポロと涙が落ちてきた。


「ちょ、待って今止めるから。ティッシュとかあるかな、えっと」

「…止めなくていい」


座っていた格好のままウタを抱き上げ早足で部屋へ向かう。

途中すれ違う騎士や侍女が二度見をしてくるなどかなり人に見られたが、気にしていられなかった。


部屋に入りソファーにウタを下ろしたが涙は止まっていなかった。


「止まらなくて」

「泣けるときに泣かないと苦しくなるから泣け」


右手の包帯をほどき、ガーゼは落ちぬよう軽く押さえて手首を見る。

数時間前に刻んだ俺の色は消えていないようでホッとした。


「これは、専属騎士契約の印なんだ」


左手で流れる涙を拭いながら上目使いでそれは何か問うような視線をもらう。



「その名の通り専属の騎士になる契約だ。俺とお前は繋がってる。心の中で強く願えば俺にそれは届く。


お前は一人じゃない。

この世界では俺がお前を守る」



ウタは涙を拭うのを止め、口元を押さえ真っ赤になっている。可哀想に思いながらも、傍にいれる事に俺は喜びを感じずには居れなかった。


「アルゼル…」

「なんだ」

「泣いていい?」


もちろん、というと俺に抱きつき声を出して泣き始めた。

最初の頃泣きわめいたら困る、みたいに思った気がする。なんて事を思ってしまっていたんだろうか。後頭部を撫で、背中をトントン叩く。柔らかくすぐ骨の存在を感じることが出来る。ウタは華奢だ。以前、自分は背の高い方だと言っていたがこの世界では低めの方だと思う。


しばらくして少し落ち着いたように見えたので、頭を解放し額に口付けを落とす。両手で顔を優しく持ち上げ、大丈夫か?と声を掛けると予想外の顔のウタがいた。

悲しみではなく、明らかに驚いていた。目だけではなく全体が真っ赤だ。


「ぃ、ぃ、今っ」


ん?と続きを待つが、額に手をやりアワアワして何も言わない。


まぁ額に口付けをした件だろうが正直自分でも自然に出た行為に驚いていた所だった。それを悟られぬよう、包帯をいつもより複雑に巻いて気を紛らわす。


「ぶ…文化の違いですかね?」


…そういう事にしておくか。

再度大丈夫か問うとスッキリしました、と笑顔を見せる。

ウタがお腹が空いた、というと会議室に繋がるドアが開きフレイが顔を覗かせた。


「色々食料買ってきたけど食べる~?」

「…お前いつからそこにいた」

「内緒~」


手に持った買い物袋を楽しそうに揺らしながら近付いてくる。


「卵サンド、食べれる?確か異世界からきた食べ物なんだけど」


私の世界にもありました、とウタがサンドイッチを受けとる。

両手で食べれるように繋いだ手を離し、ソファーとウタの間に手を置く。ほんの少しウタの服に触れる程度の距離だ。

ウタも自分で俺と触れているか確認してから、ありがとう、とサンドイッチを食べ始めた。


「もう少しで家具が運び込まれるって。あと明日早速第一の皆に紹介しろってさ。リアーナの耳にはもうアルゼルが婚約者を優しく抱いて城内に帰還したって噂が入ってウズウズしてるらしいよ」


ウタがむぐっとサンドイッチが口に入ったまま「婚約者?!」と叫ぶ。


「侍女はそういう噂話大好きだからこれからどんどん誇張されていくよ。異世界の姫を命を掛けて助けて婚姻した、とかそんな感じに」


えぇっ…とウタが引く。


「ソフィアさんからは、今夜イ・ダナも含めた緊急国際会議を開くことになったって。団長も参加して、アルゼルを保護観察役に推薦してくれるみたいだよ」


今日はこんなもんかな~、とフレイの報告が終わる。隣の部屋で物音がし始めたので家具の入れ替えをしているのだろう。


「会議室で使ってたとはいえ、あちらにもお風呂とお手洗いあるからちゃんと暮らせるよ。寂しくなったらちゃんとアルゼルに甘えるんだよ。夜這いも出来るからね、遠慮なくベッドに潜り込むんだよ」


ウタは咳き込み、俺は思いっきり頭を叩いた。


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