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秘められた折り鶴

「…猫?」


女性はフフッと笑い、そうよ、と耳をピコピコ動かす。アルゼルにまず名乗れ、と言われてしまったと慌てた。


「あ、ごめんなさい。えと、初めまして篠谷と申します」


女性が立つと、隣にいたフレイは膝まづき、アルゼルは私と手を繋いだまま体を折った。


「魔術師長と国の王妃を務めてます、ソフィアと申します」


妃?…王妃!?


「も、申し訳ありませんご無礼をっ」

「いいのよ。気楽にしてちょうだい。王妃の立場より魔術師長でいる方が長いの。ソフィアと名で呼んで下さい」

今ここに呼ばれたのも魔術師長としてよ、とソフィア様は付け足す。


「あなた達も畏まらないで。座りましょう、報告を聞きたいのです」


はい、とアルゼル達が背筋を伸ばし、ソフィア様と団長さんの向かいのソファーへ座る。


「まず帰り道にイ・ダナのディギとソウエンに襲撃されました」


アルゼルが言うと、団長さんがディギか、と呟き腕を組んだ。


「…アルゼル知り合いだったの?」

金髪の名はあそこでは判明しなかったはずだ。


「ディギはイ・ダナの次期王と噂されてる人物で、よく国王と行動を共にしている。ソウエンはディギの片腕だ」

「手合わせしたのは初めてだけど、ディギは呆気なかったよ。結構期待してたのに」

残念がるフレイにソフィア様が戦いに楽しみを求めてはいけません、と叱った。


「これでウタ…シノヤの召喚はイ・ダナの仕業だという確証になったと思います。一応申請はしたが却下された、と言っていたので書類もあるかと」


ソフィア様がそれは私が調べましょう、とメモをとる。


「それとシノヤの報告を一つ訂正します。魔法無効化体質と言いましたが、恐らく吸収体質です」


これには私もフレイも「え?」と反応した。


「シノヤ、折り鶴を作ってくれないか」


言われた通り、ポケットの紙を取り出して折る。鶴は黄色の結晶となる。


「あ、黄色は初めてだよ」


顔をあげると団長さんもソフィア様も信じられないといった表情だった。

そういえばアルゼルに見せたときもこんな顔だった気がする…。

背中に手を当ててくれていたアルゼルが後何枚か折ってくれというので折り続けると、緑と赤が出来た。その後はまたいつもの青が続いたので五枚程でやめた。


アルゼルが折った順に鶴を並べると端から指をさして


「黄はソウエンの雷魔法

緑はディギの風魔法

馬の上で俺に折って見せた青は火傷を冷やそうとしたフレイの水魔法

赤は魔獣の放った火魔法

その後の青は俺から漏れてる氷魔法だろう」


ソフィア様が一羽手に取り見つめる


「とても立派な魔石です。中の魔力の量も、形も」

「魔石?」

「魔力を結晶化したものです。例えば…料理をするときに火の魔法を使えない者は、赤魔石を使って火を起こすのです。皆の暮らしにおいて必要不可欠なものよ」

「これを戦いに用いる国もあるのだけどね」


団長さんも鶴を手に取り眺めながら呟いた。


「それがイ・ダナですか?」

「そう。君が召喚された理由が判明したね。魔石生成だ」


魔石生成は普通自分自身の魔力を結晶化するもので、一日に何十個も作れるものではないし、技術も必要らしい。

ところが私は魔力さえ吸収すれば、何個でも生成できるし何色にでも対応できる。


魔石を戦で使用する時は、結晶化した魔力を一気に解放するという。物凄い威力らしく、それはつまり爆弾みたいなものだと思う。

平和条約を結んでいるトゥーダナ含め三ヶ国は魔石を戦で使うことを禁止しているが、そこに不参加のイ・ダナでも戦に回す程の魔石は作れないという。


「国民の暮らしに不便なく魔石を行き渡せるのは、国の役目なのよ。戦に回す分をシノヤさんに作らせる気だったのでしょうね」


す、とソフィア様がソファーを立つと動こうとするアルゼル達を手で制止させ、


「他国にこの事を連絡してきます。下手に隠すと我が国が疑われる事になりそう」

と言うと部屋を出ていった。外でバタバタと人が移動する音が聞こえた。


「…私、危険人物だったんですね」


ポツリと言うとアルゼルは手を握り直してそんなことない、と声を掛けてくれる。


「シノちゃんの目の色が変わったのは魔力を吸ったからだったんだね」


今は真っ黒だよ、といつもの笑顔を向けてくれる。二人の優しさが益々身に染みる。私、兵器製造機みたいなものなのに…


「さっき言ったように、魔石は生活必需品だ。正しく使えば問題はない」


アルゼルの言葉に、うん、うん、と自分の中でも復唱して納得させる。


「君をイ・ダナに渡す気はないよ。三ヶ国の中で一番兵力のあるトゥーダナで保護していく事になると思う」

「それはいつまででしょうか?私は元の世界には帰れますか?」



一番聞きたかった質問につい早口になる。



「多分、それは無理だ」

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