無許可な彼女
仕事の帰り道、呼ばれた気がした。
懐かしいあの人の声で、おいでって。
腕を捕まれた感覚があった後、暖かい水に包まれて私は気を失った。
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中立の村ダズの村長から伝達があった。申請をせず召喚をした者がいる、魔法の繭に包まれた何かが召喚されたが中身はわからない、と。
魔法の繭は解除に高度な技術と魔力が必要という事でフレイとパートナーの俺に任された。
村長に軽く挨拶をして、早速誘いの滝へ向かう。
「僕、誘いの滝に行くの初めてだ。アルゼルはある?」
「ない。召喚士とその護衛くらいしか来ないだろ、こんなところ。」
塗装もされていない獣道をひたすら歩く。しばらくして立派な滝が見え、村人だろうか麓に人だかりが出来ている。
「騎士様お待ちしておりました、こちらです!」
一人の村人が大声で呼ぶ。
繭を見るなりフレイが興奮したように駆け寄っていった。
「すっげ、マジか。こんな濃い繭誰が作れるんだよ。うわー…おー…」
大きい一人言は野次馬の村人を立ち退かせる事に成功する。
「解除するから下がっていろ。何が入ってるかわからない。」
一応声掛けし、繭とフレイを見る。早速解除に取りかかっているがあのフレイでも一瞬では終わらないようだ。
国一番と評される強大な魔力を持つ彼がてこずる所を初めて見た。
「ごめんアルゼル。すっごい複雑でさ…こうして……違う…こうか…」
繭に両手をかざしながら微妙に指先を動かし慎重に魔力を吸い出しているようだ。
繭がうっすら透けてくると、中には黒髪の人間らしいものが丸くなって入っているようだった。
「人か」
「あー吸いすぎて魔力酔いしそう…アルゼル、繭の中に水入ってるから吸ってくれないかな。多分それで最後だ。」
言われた通りに繭に手をかざし、魔力を含んだ水を吸い込む。
自分も水属性なら魔力はある方だと思っているがかなりの量に目眩がした。
全てを吸い込んだ頃、繭はほどけ中身が露になった。やはり人間、黒髪の女だった。
周りの村人に引き返す様促し、女を抱き上げとりあえず村に戻る事にした。
「黒髪なんて珍しいね。魔力がないなんてある?」
「さあな。」
髪色と瞳の色は親からの遺伝ではなく保有する魔力に影響される。
水や氷の魔力が濃い自分は髪色が藍色で瞳は水色だ。
様々な魔力が濃いフレイは髪も瞳も肌でさえ白に近い。
「さっさとこの子を調査部にでも引き渡して訓練所に戻りたい。魔力発散しないと体調悪くなりそうだ僕」
「お前がそんなにへばるなんてな。繭の制作者の顔が見たい」
「…同感。召喚者は繭の対処が出来なくて放置するしかなかったのかもね。だとすると」
様々な角度から魔力の塊が迫ってくる気配がする。
「そういう事だな。解除後回収にくる。」