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山岡高校声優部  作者: 影山蓮人
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先輩

  俺には夢がある。


  いや、あったと言った方が良いか。


  声優になりたいという夢が。


  いつか、叶うと思っていた。


  努力は俺を裏切らなくて、いつだってみかたをしてくれて、声優になれるんだって、思っていた。


  開けない夜はないし、止まらない涙だっていつか枯れて前を向くきっかけになる。そして、どんなに苦しくても、世界が真っ暗になって孤立しても、「きぼう」は消えないって思っていた。


  だが、俺はまだ暗闇の中で立ち止まってる。


  先が見えない階段の前で、遥か彼方にある星をその場でただ見つめてる。


  進めないことを、誰かのせいにしながら--




  「部活決めた?」

  葉菜ちゃんがシャーペンを指でくるくる回しながら私に問う。

  もちろん、決めている。

  「声優部に入るの!」

  私は朝、慌てて鞄に入れたライトノベルを取り出し、表紙に挟んである入部届と書かれた紙を葉菜ちゃんに渡した。

  彼女は、興味深げに紙を見つめると「はぁ」とため息をついて私を呆れたように見つめる。

  「彼氏できないぞー? ま、彼氏なんか作らせないけどな」

  「んな!? ひどいよ葉菜ちゃん!」

  葉菜ちゃんの言葉に、私は顔を真っ赤にしながら反論する。

  すると葉菜ちゃんはまたもや深いため息をつき、

  「そこ? もっと他にあるでしょー」

  と苦笑いをしていた。

  「で? 入部届、出しに行くんでしょ? 私も行く」

  「うん、ありがとう」

  お互いに席を立ち、スクールバッグを肩にかける。

  教科書のずっしりした重みは、今から私の夢へと近づくための一歩となる場所に行くと思えば軽いものだった。


  声優部の部室があるのは特別棟で芸術科目の教室しか無いため、なかなか生徒が来ない。シンとした廊下に続く階段に私と葉菜ちゃんだけの足音が響いた。

  ペタン、ペタン

  ペタン、ペタン

  怖い話に出てきそうなくらい廊下は暗く、寂しい。

  何か話題をと思い口を開くが、何を話していいか分からない。

  小学校から一緒なのに私は未だに葉菜ちゃんに緊張している。

  ダメだなぁと自己嫌悪しながらも、くよくよしてる暇なんてなくて気合いを入れた瞬間、気迫のある声が廊下に響いた。

  

  「闇の底で埋めく霊よ、吾の力で甦れ! 踊れ、謳え、いつかその力、尽きるまで!」


  その声は、1つだけ明かりがついている教室から聞こえているようだった。

  廊下が薄暗くてクラスのプレートが良く見えない。更に、私達はまだ芸術科目が始まっていない事から特別棟に来たのは初めてなのだ。どこになんの部活があるかなんて知らない。だが、私は声を聞いて確信した。あの人は声優部の人だと。


  「私、近くであれを聞きたい」


  階段の踊り場で立ち止まりそう呟く。

  血がドクドクと身体中をめぐる。

  体がぐわぁと表現しにくい感覚に魘われる。

  そして、気づいた時には走り出していた。


  「失礼します!」

  教室のドアを勢いよく開けると、そこにはジャージを着た男子生徒が居た。ジャージの色からして3年だろう。

  彼は、私を驚いたように見つめる。

  だが、私はそんな彼を無視して口を開いた。

  「さっきの、凄かった! 続きを聞きたい!」

  先輩だと言う事を忘れて、思いついたままを声にする。

  彼は驚いたように私を数秒見つめてから「ふっ」と笑った。

  「--君、入部希望者、かな?」

  「あ、はi」

  「ちょ、急に走んないでー私にはついていけないからァ」

  私が答えようとした瞬間、葉菜ちゃんがすごいスピードで走って来た。

  そして、全てを思い出す。

  葉菜ちゃんを置いて急に走り出したこと、礼儀も何もない態度、先輩にタメ口--

  全て失礼だ。

  「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛、ごめん、葉菜ちゃん! 先輩もすいませんでしたぁあ!」

  土下座をする勢いで謝ると、葉菜ちゃんがケラケラと笑う。

  「ばーか」

  「ぷっははは」

  葉菜ちゃんが笑った事で、先輩も笑い始める。

  恥ずかしい。

  顔を真っ赤にしていると先輩と葉菜ちゃんは涙を拭うように目元を擦る。

  そこまで笑うことないと思うのだが--

  「ああ、ごめんごめん」

  先輩が、私の顔を見て苦笑いしながら謝る。

  きっと、今私は膨れっ面で誰が見てもハブてていることが分かる顔をしているんだろう。実際、ハブてているし。

  先輩を、むくれたまま見つめると葉菜ちゃんが私の頭にチョップをする。

  「いた!?」

  「・・・で、先輩! 私達、さっきのもう1回聞きたいー!」

  「無視すんなよ!」

  「・・・聞きたい!」

  完全に葉菜ちゃんのペースだ。

  でも、私も聞きたいから先輩を見つめる。すると先輩は苦笑いをこぼした。

  「ごめん、人に聞かれるほどの物じゃないからあんまり・・・」

  その言葉を聞いて、何も言いたくなくなった。いや、言えなくなった、と言った方が正しいのだろう。

  苦しそうな顔をして、先輩は私達じゃなくて自分自身に声をかけて苦しめている様に見える。

  歪めた顔には、悲しい光があった。

  「・・・先輩?」

  私が声をかけると、はっとした様に歪めた顔を元に戻す。

  「ごめん、入部希望だよね?」

  「あ、はい」

  「声優部は、俺と後5人しかいないからちょっと寂しいかもだけど、楽しいよ! ほかの奴らは、今度自己紹介するとして・・・えっと俺は、部長の真田迅汰さなだはやたです。普通に、迅汰でいいよ。そっちの君も、入部希望?」

  迅汰先輩は葉菜ちゃんを見ながら言う。

  葉菜ちゃんが焦ったように「見学したくて」と言うと迅汰先輩は優しく笑った。

  「うん、わかった。取り敢えず、発声とかから頑張ろうか」

  「はい!」

  こうして、私の青春ぶかつが始まった

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