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テンプレートの日常

鉛色に淀んだ雲。

空に貼り付いているかのように微動だにしない厚い雲からは、降るのか振らないのかはっきりしない優柔不断な雨が降り続いていた。。

急にざーっ、と降ったかと思えばすぐにパラパラとした降り方に変わり、それも数分持たずに強くなっていく。

……変な天気だな。

6時間目の授業、教師のどうでもいい脱線世間話を聞かずに教室の窓から天気を確認した俺は軽く溜息を付いた。どうも雨の日は何となくアンニュイな気分になってしまう。それも、今の季節は梅雨。天気予報ではここ2週間は雨が降り続けるようで、俺の気持ちさえもあの雲のように淀んでしまいそうだ。


そういえば最近淀んだ……というよりかは、暗いニュースが多い。先週には小さな女の子が行方不明になるとか、その日の先週辺りには通り魔が無差別に十数人を刺殺したってのも報道されている。長い雨は人の心だけではなく、言動さえもアンニュイにするのだろうか。


そんな俺の意識は聞きなれたチャイムの音で呼び戻された。はっと時計を見れば終了時間を指している。

(あー…またやってしまったか)

ゆっくりと机に伏していた顔を上げ、俺は心の中で今出ていこうとする教師を睨む。世間話をし始めた時は授業は半分も終わっていなかったし、別に眠くも無かった。だけど、10分、15分…授業内容ならともかく、どうでもいい、かつ長い雑談に飽き、寝てしまった。

……で、起きて見てみると黒板にびっしりと書かれた単語や方程式。当然寝ていた俺のノートには世間話を始める前の僅かな文章しか書き残されていない。すぐに写そうかとも思ったが、今日の日直が黒板消しを持った瞬間、間に合わない…そう悟った。

(まぁいい、友達に見せてもらおう)

心の中でそうは言ったが、残念ながら俺に友達と言えるような人物は存在しない。決して俺にコミュニティ能力が無いからと言う訳では無が、人間ってのは基本何人か群れるとその内特定の1人を弄る、または虐めるように出来ている。事実、最近自殺の報が増えた。それも学生の自殺が大半だ。

俺がそんな状況にはならないと思うけど、そんな事になる位なら初めから友達など作らない方が気楽だ。困る事としては強いて言うなら「ペアになって何かをする」という課題が与えられた時くらいだ。ペアになる事自体は問題ないが、出来るだけ人とは関わりたくない。

いつの間にかHRが終わり、俺は教科書やノート等をさっさと鞄に入れ、肩に提げた。

放課後で賑わう生徒達の会話を横目に廊下を歩き、外へと通じるドアの前で足を止めた。

ガラス越しに確認出来るだけでも、さっき見た時より数倍雨が激しく降っていた。俺は小さく溜息を付くと、鞄から黒色の折りたたみ傘を取り出す。そのまま傘を開き、静かにドアを開けた。

「明日のテストいけそ?」

「えーヤバイ、全然勉強してないってー」

目の前を通った女子達の会話が耳に入り、俺は明日の事を思い出す。明日は英語、ここ1週間それなりに勉強はしたし、とんでもない数字を見る事は無いだろう。

俺は立ち止まり、イヤホンを付けた。いつも通りお気に入りの曲をBGMにしながらバス停に向かって歩く。ここからバス停まではそれ程距離は無く、数分も歩いてると辿り着ける程度の距離だ。

ふと視線を上に向け、空の様子を確認する。……相変わらずの鉛空だ。一欠片の青空の覗く余地すら与えずに降り続いている。


そんな事を考えながら歩いている内にバス停に到着した。バス停では既にバスが待機しており、俺は折りたたみ傘を畳むとゆっくりとバスに乗り込んだ。いつも通りの行動パターンだ。程なくしてバスは発車し、俺はポケットからスマホを取り出すとスマホゲームを開いた。乗り込んだバスから9つ目、俺が降りるバス停までは15分ほど時間がかかる。それ程長い時間じゃないが暇つぶし程度にスマホゲームをするには丁度良い時間だ。


しばらくして運転手から俺の降りる場所の名を告げられ、俺はスマホをポケットにしまう。その手で次降りますのボタンを二、三度押し、停車するのを待った。

バスが停車し、俺はバスから降りる。雨はもうすっかり小雨になってはいたが、こんな天気は信用出来ない。1度閉じた折りたたみ傘をもう一度開け、ぱらぱらと降ってくる雨を受け流す。

ここから先は歩きで家へ向かうだけだ。俺は何時もの通学路を歩き出そうとした。その時。

「そこに居るのは…ゆうまお兄ちゃんなの?」

後ろから声が聞こえた。幼い少女の声だ。だが俺には妹どころか友達すら殆どいない。

「えっ?」

念の為振り返るとそこには帰りを急ぐ人々の様子だけ。お兄ちゃん、と呼んだような少女の姿はどこにも無かった。

(やっぱり俺の事ではないか)

俺はそれ以上気に止める事は無く、歩き出した。

空は相変わらずの鉛空だが、いつの間にか雨は止んでいた。

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