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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
序章 駆け出し編
7/64

七話 黒との出会い

 【錬金術】はラスボス。これだけは昨夜の奮闘で理解した。


 あのスキルは絶対に最低品質しか生み出せないのだ。そうに違いない。


 ログインし、確認する時刻は大体十時半だ。合流の時間が十二時であり、十一時には合流場所へと向かおうと考えている。そう考えると結構遅くログインしてしまったのかもしれないが―――まぁ、それもしょうがない。今朝はリアルの方で多少ゴタついたから直ぐにログイン、というわけにもいかなかった。これが今日だけで終わればいいのだが、そう思いながら昨夜の魔石作成とルーン石作成で上昇したステータスを確認する。



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:14

  体力:15

  敏捷:18

  器用:20

  魔力:29

  幸運:12


 装備スキル

  【召喚術:20】【精霊魔術:15】【陰陽道:15】【ルーン魔術:20】【仙術:10】

  【マントラ:10】【錬金術:11】【瞑想:12】【索敵:14】【鑑定:13】

  【投げ:8】【格闘:10】【身体強化:8】【見切り:11】【召喚師の心得:1】


 SP:0



 【ルーン魔術】が20の大台に、そして【錬金術】が11を超えた。【ルーン魔術】に関してはヴァルキリー無双すればかなり楽にレベリングが出来るが―――おそらくヴァルキリー本人がそういう使い方を嫌がるだろうから、出来ないのが辛い所かもしれない。ともあれ、SPを全て消費し、【召喚師の心得】という魔力消費とクールタイムをカットするパッシブスキルも習得した。今までこれが出現していなかったところを見ると、おそらく【召喚術】のレベルが取得条件だったのかもしれない。


 これで完全に保有しているスキル枠は埋まり、今度からはスキルを習得する場合は、スキルを装備したり外したりで管理しなくてはならなくなってくる。今の所これ以上スキルを習得できないし、目ぼしいスキルもない。こんなもんだろうと納得しておきつつ、


 軽く広場の隅にある屋台へと移動する。


「すいません、フィッシュ&チップスください」


「あいよ!」


 銅貨を十枚支払い、受け取った料理アイテムをインベントリの中にしまう。インベントリに入れている間もドンドン劣化して行くのが難点だが、それでもこれは自分の昼飯用に購入したものだ。待っている間に食べてしまおうという魂胆だ。長引いた場合、或いはお腹が空いた時用に既に干し肉は合間に購入してある。勿論、そこまで美味しい訳ではない。ただお腹が膨れるのは間違いのない事だった。何時か、生産職の皆が美味しい携帯食料を作成してくれることを信じながら、そのまま街の北側へと向かう。


 整備されていた道路が終わり、何度も踏まれることによって固められた土の道へと変わる街道と街の境界線。そこへと到着し、視線を周りへと向ける。腰を下ろせそうなものはないため、さっそく習ったばっかりである器物召喚でマーキングしておいた椅子を召喚し、その上に座る。ファーレンがやった事を真似ているだけだが、これが実に便利だったりする。未だに【仙術】の陣を引き寄せ召喚するというのはやっていないが、いずれはやってみたいとも思っている。


 まだ遠い先の話かもしれないが、きっと、楽しい事になるだろう。


 手袋を脱いで白身魚のフライをタルタルソースにつけながら、街の入り口から街の様子を眺める。口の中に揚げたてのフライを味わいながら、既に活発に活動している街の様子は完全にリアルそのものだ。何度見ても、この光景には驚かされるし、そして感銘を受ける。良くぞこんなものを生み出したと。しかもこれでまだ世界のほんの切れ端なのだ。残りを見るのが非常に楽しみになってくる。


 と、そんな事を考えながら早めの昼食を終えると、此方へと向かって歩いてくる姿が見える。


 それはおそらくは十五、或いは十六歳辺りの少女だった。


 背は低め、腰まで届くぼさっとした黒髪の持ち主であり、その髪の様に服装は上下とも布製で黒がベースになっているが、所々茶色のラインが入っている。上はロングスリーブだが、下は若干タイトなミニスカートになっており、構造上スカートが広がらない様に、それでいて動きを阻害しない様に出来ている様に見える。服装や髪色と同じ黒のニーハイブーツを装着し、唯一色が違うのは若干くすんだ白のような色をしており首元のマフラーであり、これは地面に届きそうにまで伸びている。唯一ファッションらしいファッションと言えるものだが―――それを抜いてしまえばまるでアサシンの様な少女だった。顔立ちも日系ではないから、おそらくはNPC側だと思う。


 ただ腰に装備している数本のナイフ、そして剣が彼女を冒険者である身分という事を証明していた。おそらく彼女が同行者なのだと思う。表情からして明らかにクール系の少女だ。それに対応した感じで挨拶をするのが一番だろうと思い、接近して来る彼女に対して最後のチップスを食べながら片手を上げる。


「どうも、商人の護衛依頼で来た人?」


「……」


 近づいて来た少女はコクリ、と頷いて返答する。とりあえず、彼女がもう一人の同行者でいいらしい。あんまりコミュニケーションを期待できそうな感じはしないが、それでも一応護衛依頼なのだから、セオリー的な感じの流れで、お互いのスタイル等を確認した方がいいのだろうと思う。少なくとも昨夜、ログアウトしてからネットで調べたこういう状況の場合、交流しておくのはプラスになると書いてあった。


 世界最強の検索エンジンからその答えが出てきたのだ、間違いがない。


 とりあえず手が自由になったので手袋を装着し直す。


「えっと、いいかな?」


 人差し指を上へと向けながら、注意を此方に向ける様に話しかけてみる。隣までやって来て無言で立っていた少女は此方の声に視線を此方へと向けてくる。


「え、えっと、俺の名前はフォウル。宜しくな」


「ニグレド」


 そう答えた少女は此方へと視線を向けたまま、無言で視線を向け続ける。いや、待て、それは名前なのか。名前なんだろう、きっと。それ以上何も言わないから解らないが、きっとそれが彼女の名前なんだろう。そう思っておきたい。しかしその無表情の視線は何を意味するのだろうか。何で話しかけてるのこいつ? もしくは続きはどうしたの? パターン的にはどちらかなのだろうが、表情にも動きにも一切の変化がないので、なにも伝わってこない。静かに、首の裏に汗が流れる様な気がした。


 ―――頑張れ、頑張るんだ俺。別に俺はコミュ障でも何でもないだろう……!


「お、俺はサマナーなんだけど……ニグレドちゃんはどういうクラスなのかなぁ、って俺は思っていたり……」


「アサシン」


「あ、はい」


 ―――アサシンって断言されたぜ……! それっぽい姿だけどさぁ! それ、自分で言っちゃうのか……。


 彼女がコミュニケーション的な意味で非常に強敵である事は嫌でも理解した。だが、自分は男だ。そして目の前にいるのは確実に美少女と呼べるレベルの少女だ。だったらここで負ける理由はありえない。男であるならば、誰しも胸に欲望を抱いている―――そう、美少女と近づきたい! 仲良くなりたい! そういう欲望が常に存在する。努力した分、絶対に報われるネットゲームの法則とは別に、コミュニケーションによって得られる優越感は必ずしも報われるわけではない。


 つまり、ここで美少女と仲良くなれば自慢が出来る。悪いがギルドの受付なんて魔境に住んでそうな人物達と仲良くなれても別に嬉しくないからノーカンである。ヴァルキリーさんもカッコカワエロな感じがするが、定時退社を強硬遂行する人はごめんである。あの日の苦労と恨みは絶対に忘れない。


「お、俺サマナーっつーけど近接なんだよ!」


「召喚師は後衛」


 少女は視線を逸らす事なく即座に言い返す。しかし、それに対して言い返す。


「だけどなぁ、俺は近接特化型召喚師なんだよ」


「だけど……召喚師クラスは……後衛」


 ……おぉ?


 ニグレドが、明確に反応して来る。それがちょっと楽しい。今までは一言二言だったのが、少し長くしゃべるようになった。それはゆっくりと、言葉を区切る様な喋り方だが、特に言語障害がある様ではなく、個性と言えるものだ。そうやって、自分の知識と明確に食い違う所に対してニグレドは疑問を投げかけている。だからそれを否定する。


「あぁ、普通は召喚師は後衛だろうな。だけど逆に考えるんだ、別に近接召喚師でもいいじゃないって」


「……? 召喚師で……接近する……意味が解らない」


 首を傾げながら答えを求めるニグレドに対して、胸を張って答える。


「いいか? 最初は提案してきた友人の事を俺も”なんだこいつ頭おかしいんじゃねぇかってか元から頭おかしかったな”って納得してしまったんだが、その頭がアッパラパーな友人のおかげで、更なる個性を求める事を思いついたんだよ。そう、確かに後衛で召喚師というスタイルは安定している。安定した大火力でパーティーの要になるだろうな?」


 コクリとニグレドが頷く。なので話を続ける。


「だけどよく考えろ。そこのどこに個性があるんだ? 他人が用意したテンプレートは確かに使いやすいし、安定もする。だけどそこに”自分”というものがない、”芯”と言える部分が存在しないんだよ。だったら大変かもしれないし、奇抜かもしれない。キワモノとだって言われる。だけどそれをやっているのはオンリーだぜ? 自分だけだぞ? 自分らしくて実に結構じゃないか。少なくてもテンプレじゃないし、俺にしか出来ない事をやっているんだ―――俺が先駆者として名前を残すんだ」


 どうだ、それはカッコいいだろう、とニグレドに言う。


 ―――なお、この言葉のほとんどが即興で思いついたものである事を考えると、かなりかっこ悪い。年下の少女を必死に論破してる絵面だと指摘すると更にかっこ悪いのが理解できる。護衛の依頼が始まる前に軽く死にたくなってきたが、


「なるほど」


 どうやら今の言葉はニグレドの中に響くものがあったらしく、少しだけ、ほんの少しだけ満足げな表情を浮かべ、頷いた。なんだ、ちゃんと表情を変える事が出来るんじゃないか、と思いながら続けて何を聞こうかと思っていると、馬の蹄が地を蹴る音、馬車の車輪が回る音が聞こえてくる。視線をニグレドの頭上の向こうへ、街の方へと向けると、四匹の馬に率いられた天井の付いたタイプの馬車が一台やってくるのが見えた。ちらりと御者台に乗っている隙間から馬車の中をのぞき込むと、そこには大量の荷物が収められていた。おそらくあれが商品、もしくは交易品なのだろう。


 此方から手を振り、自分達が護衛である事をアピールする。それに反応して御者が片手を離して振り返しながら横に馬車を止める。


「おぉ、お待たせしましたかな? 私が商人のポルコです。中を見れば解ると思いますが、この中にはランケルの交易品を積んであります。これをティニアへと運び、売る事を目的としているので是非とも、護衛をお願いします」


 どうやら御者が依頼人の商人、ポルコだった様だ。此方は前、職人ギルドで見た者とは違い標準体型だが、着ている服装は中々良いものだった。少なくとも清潔であるのは見てすぐに解る。そういう印象は商人にとっては重要なものだ。だから挨拶も笑顔も、しっかりしているのだろう。なので此方も相応の礼儀を返す。


「いえ、此方こそよろしくお願いしますポルコさん」


「……」


 再び了承する様にニグレドは頷き、馬車の裏手へと移動する。ぶっきらぼうというか、愛想の悪いニグレドの姿に苦笑すると、ポルコが馬車の裏手を指差す。


「兄妹ですかな? 一緒に冒険者とはまた珍しいものですが」


「あ、いえ、完全に初対面です俺ら」


「む、そうでしたか。いえ、すみませんね。あまりにもお二方が似ていたので勘違いをしてしまいましたよ! ははは、それでは裏からから中へどうぞ。護衛のお二方様にちゃんと座る場所を用意してありますので」


「これはすみません」


「いえいえ、護衛を頼んでいるのは此方なのですから、これぐらい当り前ですよ。ただ、襲われるようなことがあれば頼みますよ?」


「えぇ、その場合はお任せください。では失礼します」


 軽く手を振って馬車の裏手へと移動しつつ、息を吐く。こういう事務的なやり取りは苦手だなぁ、と思いつつ馬車の裏から足場を踏み、一気に荷台の中へと入り込む。ポルコが言っていた通り、荷台には男が二人横に並んでも余裕があるスペースがクッションと共に確保されていた。既に片方はニグレドによって占拠されているが、ニグレドの横に座り、並ぶ。この座った位置も考えられているようで、御者台の横から馬車の向こう先、そして馬車の背後を見る事が出来る。生憎と馬車の横を確認する事が出来ないが、【索敵】のスキルを使えばそこはカバーが出来る。道中は【瞑想】と【索敵】を併用してしまおうと決める。流石に移動中何もしないのは暇なのだ。ついでに【マントラ】と【仙術】もトレーニングができそうな気がする。


「それではティニアに向けて出発します。宜しくお願いします」


「宜しくお願いします」


「……」


 ニグレドが頷く。その様子を横から眺め、何故ポルコが兄妹だなんて事を言ったのかが気になるが―――そう言えば自分のこの姿、髪の毛を多少のばしてぼさっとしているのだ。顔の細かい部分は別として、髪色と髪質が近いのであればそう思われてもしょうがないよな、と思う。くだらない事に多少面白さを感じ、小さく苦笑すると、視線を向けられていたことに気付いたニグレドが此方へと視線を向け、首を傾げる。


「何でもないよ」


「そう」


 ちょっと寂しそうに答えるニグレドの姿を視界に収めつつ、半日はかかるティニアへの馬車旅が始まる。同時にスキルトレーニングを始める為にそれぞれのスキルの使用を始める。【索敵】を発動させ、【仙術】で魔力と体力を消耗し、【マントラ】と【瞑想】で減った体力と魔力の回復を行う。かなり地味な作業だが、よく考えれば単一のスキルを連打してトレーニングする事はネトゲにはよくある事だ。普段であれば時間がもったいなくてそんな事もできないが、


 警戒以外特にする事もない今ではこれぐらいしかする事がない。


 そんな事を考え、偶にはニグレドと話でもしようか。そんな考えも過らせつつ初めての馬車旅が始まる。



                           ◆



 土で出来た道を進む事数時間、夕陽が現れ始める頃になって、地平線に村の存在が見えてくる。ランケルから一番近い村がヨラン村であるため、アレが必然的にヨラン村となるのを理解する。ニグレドの頭上を越える様に視線を送っていると、ポルコが解説を始めてくれる。


「あそこにあるヨランは比較的にランケルに近い場所なのですが、小さな村なので商売をするにはあんまり向いていないんです。ただあそこで取れる薬草はかなり品質が良く、山脈が近くにあるので、少し歩く必要になりますが鉱石の採取の為に利用する人がいます。と言っても、村の規模を見て解る様に、村を活性化させるほどの鉱脈というわけではありません。なにせ、ティニアへ行けばもっと大きく、ちゃんとした鉱山が存在しますからね。大体はそちらの方へと向かいます。ですが静かに暮らすならオススメの、良い村ですよここは」


「へぇ……」


 薬草、これもまた【錬金術】スキルで使用する材料の一つだ。ポーションを作成したりするのに使う基本的な材料なので、何時か、気が向いた時にお世話になるかもしれない。まぁ、ヨラン村に対する印象はその程度だ。再びスキルのトレーニングを再開しつつ、視線をニグレドへと向け直す。その名前の通りにほぼ黒一色の少女は特に何かをするわけでもなく、静かにそこに座っているだけだ。そんななので大丈夫かと思うが、特に退屈も面白さを見せる事無く、ニグレドはずっと人形の様に表情を見せずにいる。


 ちょっとつまらない。


 そんな事を考えていると馬車はヨラン村を通り過ぎ、次の村へと向けて進み始める。ヨランからアシヤまではそう遠くはなく、二時間程度の距離しかないらしい。そして残りの移動時間がアシヤからティニア、までとなる。馬車を使って半日の移動とは実はかなりの距離だよな、と馬車の中で揺られながら改めて思う。


 スタート地点であるランケルから王都まではかなり近いらしいが、それでも馬車でティニアまで半日、そこから更に時間がかかると考えると、相当な距離があると思える。身体能力が上昇して歩いたり走ったりする速度は確かに上昇しているが、それでも冷静になって考えてみると、陸上での高速移動手段や飛行手段がないと、この大陸の端までは到底移動できそうにない。


 いや、そもそもこの世界、大陸が一つだけとは限らない。入手している地図だってランケル市内の物だし、大陸図とかは持っていない。もしかしてこの世界は自分が予想している以上に広いのかもしれない。そう考えると、本当に端から端まで行くことができるのか怪しくなってくる。


 そもそもこの世界を再現するマシンだって、どれだけスペックが必要になってくるのだろうか?


 そんな事を考え始めるとキリがないのは解っているが、それでもどうしても気になる内容でもあった。考えれば考えるほど気になり、そして終わりのない世界がある―――実に愉快、実に楽しい。もっともっと楽しい事があるに違いない。それこそ、試練の様に降りかかってくる理不尽だってあるだろう。だがそれさえも楽しめる自信がある。いや、そうだ、そういう理不尽や試練があるからこそ、この世界は楽しいのかもしれない。


 山も谷も危険性のない現代とは違ったこの世界でしかない命の危機、それが楽しいのかもしれない。だからこそ近接で召喚師なんてスタイルを受け入れたのだと思う。


 自分の持つ業に気付きつつあるその時、急にニグレドが警戒したように、鋭い雰囲気を見せ始める。その様子に、彼女が自分の持っていない、索敵系のスキルで何かを見つけ出したのだとなんとなく察し、視線をニグレドへと向ける。それを受け止めた彼女は頷く。


「敵……たぶん、盗賊……二十人、ぐらい?」


「そこそこいるな」


 自分でも【索敵】を発動させるが、そこに敵の存在はかからない。やはり、自分とは違った索敵スキルを彼女は保有しているのだろう。その事にちょっと羨ましく思いつつも、何時でも馬車の外へと飛び出せる用意を整える。話を聞いているポルコは馬車を止めずに、ゆっくりと動かしている。


「私はどうしたら良いのでしょうか?」


「ん……そのまま……まっすぐ。飛び降りて……迎撃するから……逃げないで待ってて」


「たぶん逃げた所を追いかけられると分断されて護衛はどうしようもなくなるんで、馬車を守る様に動くために止めてくださいって事だと思います」


「うん」


「良く言葉が解るねぇ」


 なんとなく、というか相手の目を見て話せば伝えたい事は大体解ってくる。最初は戸惑っていたが、今ではこれもニグレドの個性だと受け入れている部分がある。だから、ちゃんと目を見れば言いたい事は解る。


「攪乱して……仕留める……」


「じゃあ俺も攪乱して殲滅する」


 近接と近接のコラボ。殺される前に殺せという究極のチーム。予めある程度の話を通しておいて良かったと思いつつ、馬車がゆっくり、ゆっくりと速度を下げて行く。それに合わせ、


 ニグレドが御者台の方から飛び出す。


 それに合わせる様に裏側から印を結びながら飛び出し、


「幻狐招来! 小鬼招来! 行くぞ殲滅戦だ!」


 馬車から飛び出し、不自然に草の多い街道横の空間へ、刃の精霊を放つ。次の瞬間に発生するのは男の声による叫び声であり、そして血が舞う光景だった。人間を殺した―――そこに発生する罪悪感の一切を感じず、そのまま相手を殲滅する為の行動を移す為に動き出す。既に幻狐も小鬼も殲滅の為に狐火と鉈を二刀取り出しており、殺す為の動作に入っている。


「クソがっ! バレているぞ!」


「殺せ殺せェ!」


「おぉ、怖い怖い」


 肌にチリチリと感じる感覚―――おそらくは殺意を感じつつ、自分の方へと向かって来る矢を拳の裏で叩き落としつつ前進し、一番手前にいた盗賊を顔面で掴み、斬りかかってくる盗賊の方へと投げる。スキルの影響で動作が強化されるのを感じつつ、体を横へとロールし、盗賊たちが一直線に並ぶのを確認する。


「貫け、ヴァルキリー!」


 ルーン石が消費され、ヴァルキリーが出現する。しかしその消費コストは安い為、一撃の攻撃の為の召喚、単発召喚である。とはいえ、召喚された白髪のヴァルキリーは右手の槍を勢いよく登場と共に振りかぶり、そして全力で投擲する。


 それは一気に六人の盗賊を貫通し、その上半身を綺麗に無に吹き飛ばす。


「クソがぁ!!」


 そんな叫び声と共に盗賊が四方から自分に飛びかかってくる。その一体を小鬼が投擲した鉈が頭を捉え、空中で殺して迎撃するが、三人の盗賊がまだ生き残っている。それに対応する様に、死んだ盗賊の方へと大きく一歩、逃げる様に踏み出しながら、両手で印を組み、足を大地に固定し、そして言葉を力に変換させる。


「秦天クゥン―――天絶ジィィィンッ!」


 【仙術】と【召喚術】の組み合わせにより、 秦天君と呼ばれる仙人の姿がほとんど幻と言えるレベルで透けているが、召喚される。召喚された 秦天君が大地を叩くのと同時に、そこを中心に幾何学模様が陣として半径三メートルの領域に広がる。その中に自ら飛び込む様に入り込んだ盗賊は一瞬でその方向感覚を失う。


「あ、ああ、あっ、あぶばっ―――」


 飛び込もうとして頭だけ左へと進み、右腕は右へ、足は上へと向かい、五体がそれぞれ、自分の意思で違う方向へと向けられ、進もうとし、そして三人の盗賊が正しい方向感覚を理解できず、自分から訳も解らずバラバラの死体となって砕け散った。天絶陣の効果により生まれた、あまりの凄惨な殺人現場に印を結んだ状態のまま硬直し、瞬間に判断する。


「秦天君さん、お前出禁で」


 悲しげな表情を浮かべた秦天君が天絶陣と共に消えて行く。


「悲しげな表情浮かべても出禁だからなお前! 十絶陣の他のお友達にも言っておけよ! お前らやりすぎたら揃って出禁にしてやるからな! 反省したら採用も検討してやっから! ただそれまではどう足掻いても出禁だからお前! 封神台で反省してろ!」


 印を解除しながら秦天君の背中に石を投げつける。こんなキチガイ効果気軽に使えるかよという怒りを込めながら。使えると教えてくれたのがファーレンだったのだが、一番最初に天絶陣を使ってみ、と笑顔で進めてきた辺り絶対に確信犯だと思う。少なくとも、自分はこの心臓に悪すぎる陣を事前知識なしに使おうとは二度と思わない。


 強いには強い。だがこれはトラウマになる。


 目の前で自分の体が自分の意思で千切れそうになっている、というのは理解できずにそのままバラバラになる人間を真正面から見るのって流石にひどすぎるだろうこれ。


 ここがゲームだと思っているから殺人的なショックとかは一切なかったが、これは違う意味でショックが大きかった。この調子だと他にも使える召喚獣や召喚物に関しては、使用する前に検索エンジンとかで検索して事前知識を仕入れておいた方がいいのかもしれない。そんな事を思いながら、溜息を吐き、馬車の方へと戻って行く。既に小鬼と幻狐の召喚時間が切れたのか、その姿はない。


 あるいは天絶陣でビビって帰ってしまったのかもしれない。俺だったら帰る。


「ふぅ……」


 そう息を吐きながら馬車の裏へと戻ってくると、既に戦闘を終わらせていたニグレドが定位置に戻っていた。その姿を確認し、自分も返り血を浴びてない事を確認しつつ馬車に乗り込む。精神的に疲れた。そんな事を思い、ステータスを確認しようとすると、ニグレドが此方の服の袖を引っ張っていた。


「後衛に見せかけ……近接を挑み……引き込んで、纏めて圧殺。見事な……戦術だった……」


「あの、いや、違うんです。これは違うんです。本当はもっとかっこよくやる筈だったんですよニグレドちゃん」


「……? 天絶陣に……誘い込む作戦……見事だった」


「あの、いえ、その……違うんです」


 声を震わせながら答えるが、ニグレドは相手を誘導する見事な戦術だったと評価している。だが違うのだ、天絶陣を甘く見ていただけなのだ、そんな評価されると心が非常に痛む。この誤解は是非とも解かなくてはならない。


「あは、あはは……お疲れ様ですお二人とも、それでは馬車を走らせますよ……?」


「あ、どうぞ。そしてニグレドちゃん、俺達は是非とも話し合う必要があるんだ。そう思わないか」


「ん……天絶陣……もっと有効に……使える」


「違う、そうじゃない」


 もしかしなくても、この少女には若干天然系の要素が入っているのではないだろうか。そんな疑いを感じつつステータス画面を開き、先程の戦闘と、そして道中で行ってきたスキルトレーニングによる上昇を素早く確認しておく。



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:14

  体力:15

  敏捷:18

  器用:20

  魔力:30

  幸運:12


 装備スキル

  【召喚術:20】【精霊魔術:15】【陰陽道:15】【ルーン魔術:20】【仙術:14】

  【マントラ:13】【錬金術:11】【瞑想:15】【索敵:16】【鑑定:14】

  【投げ:8】【格闘:10】【身体強化:8】【見切り:11】【召喚師の心得:2】


 SP:1



 意外と伸びているが、やはり15あたりからはレベルが上がりにくくなっている気がする。おそらく他のスキルも15ぐらいまではサクサク上がりそうな気がする。とりあえずスキルのレベリングは15を超えた辺りからが本番、という所だろうか。流石に丸一日をトレーニングに消費すれば5から6ぐらいはレベルを上げられそうな気もするが。


 それはともあれ、


「ニグレドちゃん、時間はいっぱいある―――話そう」


「ん……天絶陣……?」


「なんで君はそこまで秦天君を引っ張ってくるんだ。アイツは天絶陣諸共出禁になったんだよ! 放っておいてあげろよ!」


 馬車の中で揺られながら、ティニアに到着するまでの時間の間、ニグレドと話す事に時間の全てを消費する事となった。


 それは意外と、悪くはなかった。

 天絶陣は極悪だったのでSANチェック入れつつ出禁です。十絶陣はどれもこれも内容が極悪で相手を殺す事しか考えてない内容。封神演義の世界はホント魔境やでぇ。


 あと、たまにはクール系ロリなんかを。

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