五話 戦うだけじゃない
サービス開始三日目、本日は何時もよりも早く朝食を済ませてログインした。
今日は朝から生産関係を―――つまりは【錬金術】をどうにかしようと考えている。こういうほそぼそとした作業は割と時間を食う為、まとまった時間を要求する。というわけで割と早い時間にログインしたが、既にプレイヤーや活動しているNPCの姿が多く見える。どうやら自分が予想するよりも活動の時間は早いらしい。何時かはゲーム内で寝泊まりする事も考えなくてはならない日が来るのだろう。それはそれとして、昨日の露店巡りは楽しかったなぁ、
そう思いながら向かう場所は―――ゲル婆さんの道具屋だ。
問題は店が開いているかどうかだったが、朝一で向かってみた所、どうやら店は開いているようで、既に開いていた。軽く扉を覗き込む様に開けると、何時も通り椅子の上でパイプを吸いながら座っている老婆の姿がそこにはあった。パイプの姿を見る限りちゃんと生きているようでホっとする。
「おはようございます」
「んにゃ……おはよう。早いのぅ。刻みにかい」
「あ、いや、今回は魔石って【錬金術】で作れないかなぁ、って思って材料とか製法とかを探しに……」
こういうのは大体道具屋でマニュアルとか揃っているものだろう、という当たりをつけての行動だが、それに対する返答は実に簡単なものだった。
「んにゃ」
そう言うとパイプを本棚へとゲル婆さんは向けた。若干薄暗い店内の足元に気を付けながら本棚へと向かい、そしてそこに置かれてある本を確認して行く。色々と教本があり、魔術に関するものも多く置いてある。気になる幾つかをピックアップしつつ、目的である錬金術教本を発見し、それを手に取る。軽く中身を広げて確認すれば、そこに魔石の作成項目を見つける。お、と声を漏らし、そこにある材料を確認し、そしてカウンターの婆さんへと振り返る。
「ありったけください!」
「まいど」
◆
本来錬金術の様な生産スキルにはそれにふさわしい機材や道具が必要になってくる。が、初心者向けの道具であれば職人ギルドなどで無料で使わせてくれるという嬉しい事実があるらしい。大量に購入したサービスにゲル婆さんがそう口を漏らしてくれて、実は彫刻刀を購入しなくても良かったと教えてくれた。
もっと早く知りたかったアレだろう、好感度が足りなかったとか、そういうもんなんだろう。
ともあれ、気分を入れ替え、場所はランケルに存在する三大ギルドの一つ、職人ギルドの前へと移る。此方は魔術ギルドとは違って人の叫び声や人の出入りが激しく、カンカンカン、と鉄を叩く様な音が常に響いて、耳を刺激して来る。思わずうひぃ、と声を零しながらも入口近くの看板を見つければ、職人ギルド”Crafters”と、シンプルな名前が書いてあった。あとは戦士ギルドに向かえばこれでギルドは三か所全部制覇だな、なんてくだらない事を考えつつ扉を抜ける。
「三万! 三万で売ってくれ!!」
「鉄インゴットー! 鉄インゴットの安定した供給を求めてまーす!」
「誰だ炉を爆発させた馬鹿はぁ―――!!」
凄まじい喧騒の中、人が走り回りながら忙しそうにしている。自分が見た魔術ギルドはもっと落ち着いた、暗い雰囲気の場所であったが、こっちは完全にわいわいがやがや、窓から差し込む光でギルド内を照らしており、かなり明るい雰囲気の場所になっている。こういう雰囲気もいいな、と思いつつ軽くギルド内を見渡して受付を見つける。適当に人が並んでいる列が短い所を探し、並ぶ。
そのまま十分ほど列に並んで待つ。
「次どうぞー」
そう言われ、受付の前へと移動すると、受付を行っているのはやっぱり女性の姿だった。此方は短い藍色の髪に若そうな少女で、服装はスーツに近い制服の様な姿だった。何故魔術ギルドはこういうのじゃなくてメイド服だったのだろうかと思い悩みつつ、
「えーと、【錬金術】を行いたいので設備を借りたいんですけど」
「ギルドカードの提示をお願いしまーす……はい、フォウルさんですね、確認しました。錬金術用の設備はギルドの地下二階、一番奥となっております。ステータスを確認する限りルーンの刻印を行いそうなので、彫刻刀の方は地下一階の手前から二番目の部屋の中にあるので、そこで調達してください。基本的にここの機材は持ち出し禁止で、材料も提供を行っていないのを予めご了承ください」
「あ、はい」
「はい、では良き時間を。次どうぞー」
自分の知っているもう一人の受付とは違い、かなりハキハキとした様子がかなりの好印象だった。心の中で好感度アップ、と呟いておきながら言われた通りに地下への階段を探し、それを降りて行く。とりあえず彫刻刀は自前のがあるのでそれを使うとして、そのまま地下二階へと降り、一番奥にある錬金術用の設備のある部屋へと入る。
扉を開けて入る部屋は完全な石造りの部屋であり、壁にかけてある複数のランプが光源となっている部屋だった。勿論窓など存在せず、換気もできない。辛くなったら風の精霊を召喚して、空気の入れ替えを頼もう。そんな事を考えながら部屋の中を確認すれば、様々な設備が用意されているのが解る。まず最初に目に入るのは大きな鍋の存在だ。良く魔法使いがイメージ的にかき混ぜている鍋、それが存在しており、壁の近くの棚にはポットやガラス瓶、フラスコ、抽出器の様なものまで置いてある。
「なんか科学の授業を思い出すものが多いなぁ」
そんな事を呟きながら鍋に近づく。なんでも今回使うのがこれらしい。
近くに視線を向ければ、そこにはブックスタンドの存在が見える。それを引っ張り、鍋の近くにブックスタンドを置く。錬金術教本の魔石の作成方法ページを乗せて開いたままにし、そのページを確かめながらインベントリから魔石の原料となる原石を取り出す。と言ってもこの原石というものは実際、屑石に近いものだったりする。これに対して【錬金術】スキルを使用し、特定の工程を重ねる事で魔力を宿し、魔石へと変質するらしい。
ともあれ、作り方はそこまで複雑ではない。
魔石の元となる石をまず、鍋の中に入れる。まず一回目という事で入れる量は少なめに三、四個程度に、鍋を半分満たす程度に水を灌ぐ。道具を使ってかきまぜつつ、【錬金術】スキルを使用しつつ、
「三十分魔力を練り込み続け―――三十分!? ちょ、待てっ、そんな大変だとか聞いてねぇぞ!」
とはいえ既に作り始めてしまった。こうなるともうどうしようもない。かきまぜ続けるのが作業の一部らしく、手放す事が出来ない。これはある意味拷問の領域に入るだろうなぁ、という事を確信しつつ、三十分間の拷問を始める。
◆
「水を全部抜いて、完成っと」
アイテム名:魔石
品質:1
説明:最低品質の魔石。触媒などの幅広い用途に用いられる。
「これだけ苦労して最低品質かよざっけんなぁ―――!」
思わず作成に成功した魔石を握りつぶした。
しかもそれで筋力値が上昇した。コントか。
溜息を吐きながら完成した魔石をインベントリの中へと突っ込み、そして残りの原料を出し、そのまま魔石作成の準備に入る。教本通り作ったが、品質が低かったのはきっと、こっちの技量が低かったかとか、そういう理由があるに違いない。もう少し込める魔力を増やしたり、丁寧にやれば品質を上げる事が出来るのだ。今まで使っていたのは間違いなく最低品質の安物だが、自分で品質2のものを生み出せるようになれば、少しは夢が広がるのだ。そう、その為にはここでくじける訳にはいかない。
一気に大量に投入すると配分が狂いやすかったりする為、それに気を付けつつ慎重に【錬金術】での魔石の作成を始める。今度こそ品質2を目指すのだ。もはや止まる事は出来ない。品質2を生み出すまではここから動かない事を誓って挑むしかないのだ。
◆
アイテム名:魔石
品質:1
説明:最低品質の魔石。触媒などの幅広い用途に用いられる。
「ざけんじゃねぇ―――!!」
怒りのあまり魔石を壁に叩きつける。開いた時間にスキルトレーニングとして召喚しておいた幻狐と小鬼が憐れむような視線を此方へと向けてくる。今の魔石で大量に買い込んだ魔石の原料は完全に使い切ってしまった。こうやって残されたのは最低品質の山の様な魔石だ。一応、これで召喚術を行えば、しばらくの間は魔石に困る事はないが―――確実に赤字狩りの領域に入る。
一応、これを売れば金にはなる。が、そこまで大きな金額にはならないだろう。やはり品質向上の方法を見つけなくてはならない。それが駄目となると、やはり【ルーン魔術】でルーンを刻み込んで、魔石そのものの価値を上げるしか方法がなくなってくる。現状、最低品質の魔石に対してルーンを刻み込むと、価値が上がるというのは解っている。だから使う為の魔石を確保し、使う為のルーン石もある程度確保し、
それ以外は全部ルーン石にして売っぱらって資金にしよう。そう決めれば行動は早く、居場所を部屋の中のテーブルの方へと移り、インベントリから彫刻刀を取り出し、
魔石のルーン石への加工を始める。
◆
名前:フォウル
ステータス
筋力:9
体力:12
敏捷:15
器用:17
魔力:23
幸運:10
装備スキル
【召喚術:15】【精霊魔術:11】【陰陽道:12】【ルーン魔術:12】【仙術:4】
【マントラ:6】【錬金術:8】【瞑想:9】【索敵:9】【鑑定:10】
【投げ:3】【格闘:3】
SP:7
地味で辛い作業だった。だがなんとか自分で使う為の魔石を二十個、ルーン石を十個、そして販売用にルーン石を五十個用意してある。これを一気に売れば結構儲けが出るだろう。いや、有り金を全部出してこれを購入してしまった分、これが売れてくれないと色々と困るのだ。それにしてもちょくちょく召喚術を使用していた割にはレベルが上がっていない。レベル15辺りからレベルの上りが段々と悪くなってくるのだろうか? もしかしてぶっぱしないと駄目なだけかもしれない。
ともあれ、とりあえずの生産行動は完了した。自分の物は全部インベントリへ戻し、部屋から出て上へと戻る。丸一日生産の為に消費しようかと考えたが、どうやら普通に無理だったらしい。一階に戻ってみると、まだまだ日は高く、明るい時間だった。というか完全に時間がお昼前だった。余裕を持つため、と思ったが少々時間を空けすぎたかもしれない。ここはちょっと反省しておくべきところだろう。
さて、売りに行こうか、と思ったところで気になる叫び声が聞こえる。
「ルーン石各種を十個一スタック単位で買うよー!」
「なぬぅ」
振り返りながら耳を澄ませれば、確かにルーン石を買おうとしている声が聞こえる。注意深くその声の主を探しなら耳を傾けていると、他にも林のボスドロップ品や、生産素材を求めている声が聞こえる。その中には勿論高品質の魔石を求めるような声があり、生産する事ができればそのままここで売る事もできるのが解る。割と金策しやすいのかもなぁ、なんて事を思いつつ視線を巡らせていると、呼び込みをしている人物を見つける。少々太った、緑髪の商人風の男だった。
片手を上げて、売りまーすとアピールすると、向こうも此方に気付いて速足で近づいてくる。
「おぉ、助かった助かった。急な発注で必要になったから困っていたんだよ。品質は?」
「最低品質です……」
「そうか、なら一スタックで銀貨五枚が相場って所かな。どれぐらい用意できる?」
「五スタックなら」
「全部買おう」
あっという間に商談に商人はケリを付けると、銀貨が二十五枚入った革袋を用意する。それと持っていたルーン石を交換し、商談成立。一瞬で全てが終わり、気付いたら商人はまたどっかでルーン石を求めて叫んでいた。これを俗に商魂たくましい、というのだろうか。多分そんな感じなのだろう。
「……まぁ、売れたしいっか」
適正価格で売れたからそれでよしとする。焦っている様子からして交渉すれば相場以上で売れた様な気もするが、そういう交渉技術が自分にはないし、考えるだけ無駄だ。だったらこのお金で何をするかを考えた方が遥かに建設的だ。しかしこのお金でできる事と言ったら魔石を作って、ストックしておく事ぐらいなのだが。いや、それも十分に重要な作業なのだが、ハッキリ言ってしまえば性に合わない。
やっぱり暴れたい。戦って召喚術を放ちたい。それが自分というキャラクターに一番合っている気がする。楽しい事には間違いがないのだ、生産は。ただ自分とはそこまで合っていない。昨日の狩りの方が遥かに爽快感が高いし、そっちの方面でもっと進めた方がいいのかもしれない。となると金策はやはり、モンスターからのドロップがメインになる可能性が高くなってくる。そう考えると考慮しなくてはいけない事が一気に増える。
ソロでの動き方とか、金策のベースをどうするべきとか、近接戦での立ち回りとか。考えれば考えるほどワクワクして来るのはやはり、やる事がたくさんあって、それでも自由が保障されている事から来るのだろう。とりあえず、ある程度の生産活動は後回しにしよう。これやっていると時間が足りなさ過ぎる。
そう考え、職人ギルドを後にする。とりあえず元手となる銀貨を二十五枚入手した。インベントリに収納しながら、これの使い道を考える。やはり魔石代にするのが順当―――と思ったが、魔石代の為に魔石を売るという凄まじい事態が発生しそうなので、頭を横に振って考えを振り払う。
「あっ」
そして思い出す。
「そう言えばファーレン先生の中級講座って銀貨二十枚じゃねぇか……」
すっかり忘れてた。意外と目標達成簡単だったなぁ、とは思うが、銀貨二十枚という金額は自分から何らかの金策活動を始めないと得る事の出来ない金額だ。それはつまり、”私は努力する覚悟があります”という意思を見せる意味もあるのだと思う。少なくとも今、自分が得た二十五枚の銀貨は忍耐力と苦労があって得たものだ。そういう解釈でいいんじゃないかなぁ、と思っておく。とりあえず、先行投資という意味を込めて、これは中級講座の受注に使ってしまおうと決める。
そうと決まれば話は早い。向かうのは魔術ギルド―――ではなくファーレンの実家の方だ。普段から仕事がないと言っていたのだから、どうせまた家の中で本を読んでいるに違いないと当たりを付け、真っ直ぐファーレンの家へと向かう。道は既に地図を確認しなくてもいい様に覚えてある―――というか彼との時間が結構印象的であったために必然的に覚えてしまう。
という事もあり、最初は地図を見ながら、半分迷いながらだから時間がかかったが、敏捷が上がったり道を覚えたりで移動が早くなった今、ファーレンの家へと到着する事にそんなに時間を消費する事はなかった。最初は自転車か何か、移動手段でも必要かと思ったが、敏捷が上昇すればそんな事はない。ステータスの上昇による恩恵は着実にその姿を体に現していた。
そんな事もあり、ファーレンの家の前に到着し、軽く扉をノックする。
「すいませーん! フォウルでーす! 銀貨が溜まったので中級講座を受けに来ましたー!」
「ちょっとまって―――ぐわぁ……」
ファーレンの断末魔と共に本棚が倒れる様な音、そして本の雪崩れる様な音が聞こえる。今、家の中がどんな状態になっているのか、見なくても予想がつく。扉を壊して無事を確認した方がいいんじゃないだろうかこれ、等と思っている間に扉の向こう側から大丈夫、という声が響く。まだ生きているらしい。
まだ。
「センセー?」
「あ、うん! もうめんどくさいからこのままでいいね! 鍵は開いているからおいでおいで」
「お、おう……」
本当に大丈夫かこれ、と疑いたくなってくるが、何時までも躊躇していても状況は進まない。軽く深呼吸をしてから一気に扉を開ければ、そこには少し前に見た玄関があり、そしてその奥には完全に本に埋まったリビングの姿があった。呆然とその方向を眺めていると、本の上を転がる様にファーレンの姿が現れる。呆れながら視線を送ると、取り繕う様にファーレンが喋り出す。
「いや、その、あのね? 本の整理をしていたんだ。いい加減溜まって来ていたしね? こう、いらない奴といるやつと分けてたりするんだけどさ、整理していると懐かしかったりする本が出てきて、アレ? これってどんな感じだったっけ? 懐かしいなぁ、というごく自然な流れが始まるわけでねぇ……」
「言い訳になってないんでソレ」
ファーレンががっくりとうなだれると、こっちへおいで、と本で埋もれたリビングの方へと手招きして来る。良い人なのは間違いがないが、このダメっぽさは間違いなくあかん部分だよなぁ、と師に当たる人物に対して心の中で駄目だししておく。その間に本を椅子の様に整えていたりした。そこに座れ、という事なのだろう。溜息を吐きながら用意された椅子というか重ねられた本の上に座り、軽くジト目をファーレンへと向ける。
「うぉっほん! 中級講座を受けるという事は冷やかしじゃなくて本気でこの道を歩みたいって事だね? 初級が無料なのは冷やかしもアリだって意味で、中級からお金を取るのは意思確認の意味もあるからね! 私と同じ道を歩んでくれるのは嬉しい事だよ。うん。だからジト目を向けるのは止めないか?」
「うっす。とりあえずこれが銀貨二十枚っすわ」
忘れる前に渡してしまう。こういうのは後払いよりも先払いの方が安心できるものであって、ファーレンもそれを受け取り、確かめる。それが彼のインベントリの中へと消えたところで、漸く講義が始められる。
「一応講義始める前に聞いておくけど、お金の方はどうやって集めたのかな?」
「【錬金術】を使用して作った魔石にルーンを彫り込んで売りました。でもやっていて性に合わないなぁ、って。なんか召喚術を放つ感覚を体で覚えちゃったみたいで……」
「あぁ、うん。その気分は解る。まぁ、最低品質の魔石で妥協するなら、そのうち直ぐに黒字になると思うよ。ランケル周辺だと少し数をこなさないとキツイかもしれないけど、もっと強いモンスターとの相手になってくると、もっと高額で素材がやり取りされるからね。そうなってくると一匹の素材で魔石一個分、とかなってくるから大分黒字になるよ。そこに魔石を消費しない組み合わせで戦ったりすれば黒字化が加速するし。まぁ、辛いのは最初だけだよ。きっと。うん、魔術師に慣れよって良く言われるかもしれないけど頑張って……?」
「なんで疑問形なんですかそこ」
笑ってごまかそうとするファーレンがちょっとだけウザイ。しかし、おかげでいい感じに落ち着けているのも事実だ。銀髪の男は眼鏡を右手で軽くかけ直すと、さて、と言葉を置いて此方の注目を集める。本題に入ってくれるという事なのだろう。
「特化型召喚術中級編はそんなに難しい話じゃないんだ―――召喚にもいろんな種類がある事を覚えて、それを状況に合わせて使い分ける、そういう話なんだ。初級編を終わらせればもう部分的にできている事、それを意識的にやろうって話だね」
「ほうほう」
真面目な話に入る為、ファーレンの話に耳を傾ける。
「さて、知っての通り召喚術がそのままだと魔石を消費して行使する強力だけど重いスキルでしかない。これを他の魔術体系スキルと組み合わせる事によってバリエーションが生まれ、そして様々な召喚獣や召喚物を使役する事が可能となる。だけどこの召喚にも色々と種類がある。まず最初が一番基本的な”爆撃型”とも言えるタイプ」
これはサラマンダーの様な召喚の事だろう。力だけ、或いは存在そのものを呼び寄せて強力な一撃を放たせるという召喚タイプだ。
「一番オーソドックスで、召喚と言えばこれ! ってイメージになるね。そして一番期待されるタイプでもある。基本的に実力以上の存在を召喚できる召喚師はその性質上、強力な一撃を求められているからね。で、二つ目のタイプは【陰陽道】等と組み合わせる事によって召喚できる鬼や狐、天狗の召喚獣、”使役”タイプの召喚だ。これに関しては良く調教師の劣化だって言われるタイプだね」
調教師、つまりテイマーは召喚師の様にモンスターを召喚し、それを永続的に出し続けたり育てたりできるのだ。このタイプの召喚法と実に似ているが、違いはある。
「あちらが召喚モンスターを強化しなきゃいけない事に対して、こっちに関しては実力に合わせて召喚される側が勝手に強化されているんだ。たとえば私が召喚する幻狐と、君が召喚される幻狐では全く同じ召喚方法でも姿も実力も違うだろう。それは幻狐が私の実力に合わせて姿を変え、実力を発揮しているからだ。だから育てる必要はないし、装備を用意する必要なんてもない。彼らは本来私達よりも遥かに強い存在で、合わせてくれているんだ。その事を忘れてはならないよ?」
そこに付け加える様にファーレンは言う。
「ちなみに裏技でリミッター解除が存在するけど、完全に制御不能になるから余程相性がいいか、心を許されていない限りはオススメしない。昔遊び半分で裏技を試した馬鹿が村一つ吹き飛ばしたという話があるからね」
「うへぇ……」
あんな可愛い見た目してそんなだったのか、と軽いショックを受ける。が、ファーレンはそれを特に気にする様子もなく話を始める。
「で、これが三種類目。おそらく君がまだ触れていないタイプの召喚だ。今までが生物やその生物の力を借りるという事を目的としていたわけだが―――別に召喚術というのは生物に限ったわけではない。”器物召喚”と言ってね、生物ではない存在を召喚する技術、というかカテゴリーが存在するんだ。君はもう見ているはずだよ?」
「えっ? ……あ、あぁ!」
そう言えば最初に狩りへと出かけた時、ファーレンが椅子を出していた。アレはインベントリから出したのではなく、召喚術で手元に呼び寄せたのだと今更になって気付く。そんな事までできるのか、と軽く召喚術の可能性に関して驚く。
「ちなみに私がやったのは応用で、予めマーキングしておいたものを手元に召喚するというだけの事だ。これは本来、各魔術体系に大きく影響している武器や防具、或いは特殊な環境をその場に呼び出し、行使する為のカテゴリーなんだ。たとえばそうだな……確か【精霊魔術】を取得していたよね? アレと組み合わせる事によってエクスカリバーを手元に呼び出して振るう、なんて事が出来るって話を聞いたことがあるね」
聖剣エクスカリバーは色々と話があるが、その内一本は精霊である湖の乙女より入手したもの……なんて話を聞いたことがある。だから精霊魔術なのだろうか。それにしても取得したスキルにアーサー王のエクスカリバーの話を考えると、この世界の神話っていったいどうなってるのか物凄い気になってくる。ごった煮というレベルじゃない。
「というわけで、中級講座はこれを意識して、そして運用する事だね。簡単に見えて割と面倒な話だけど……そうだねちょっとスキルを見せて貰ってもいいかな?」
「あ、どうぞ」
ステータス画面を表示させ、自分が今習得しているスキルを見せる。それを見たファーレンが頷く。
「君も立派にキワモノの道を歩んでいるようでなんだか安心したよ―――たぶんしちゃいけないんだろうけどさ」
「目指せ特化型近接召喚師」
口に出して言ってみて、そして改めて響きの際物っぷりを痛感する。近接で召喚師ってなんだろう。
しかも特化型ってどういうことなのだろうか。
だがそれがいい。
「この【仙術】スキルは地形や空間の属性に対して影響を与える陣を組める事が知ってる? こういうのって大規模のだと前準備が色々と面倒だけど、【召喚術】を通せば別の場所で完成させた陣を自分の所へ引っ張ってくる事もできるよ」
「あ、それは凄い」
「でしょ? 私も若い頃は”追いつめただと? 馬鹿め! 誘導してやったのだよ!” という感じで行き止まりに誘導して陣を多重召喚したものだよ。いやぁ、懐かしい。綺麗に戦術がハマるとスッキリするよね」
この人、昔は何をやっていたんだろう。
そんな事を思いつつ、今保有しているスキルとの組み合わせや、どういう事が出来るのか、それを講座ついでにファーレンに相談する。これから真面目に戦っていくつもりなら、間違いなく経験者との話し合いは必須であり、そしていい経験になるのだろうから。
予想外に真面目に取り組んでいる自分に苦笑しつつ、
ファーレンとの話し合いに熱を入れる。聞けることは聞いてしまおうと。
中級までがチュートリアルって感じなんじゃないだろうか。上級からが本番って感じで。
それと現在インドで雨が降るとネット回線が死ぬ地域にいます。それでいて雨季。辛いものがある……。更新が雨次第で遅れるのでそこらへんはお覚悟を(震え声