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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
序章 駆け出し編
4/64

四話 自分だけの道へ

 ボス、それはゲームに用意された突破するべき試練の存在。


 それを倒す事で実力を認めさせるか、或いはその場所を突破したと初めて認められる。明らかに周りの存在よりも強化されている突出した固体であり、そして凶悪とも言える性能を保有している存在。出現する雑魚が弱いから、ボスもまた―――なんて甘い幻想は出来ない。そういうのを打ち砕いてくるからこそのボスという存在なのだ。それに挑むとは即ち、このエリア最強の存在を打ち破る覚悟と用意があり、その場での最強に君臨するという証だ。


「お前、正気か?」


「いや、いけるって。聞いた話、ここのボスはクマらしいけど、動きは大振りで単調だから、慣れれば簡単だって話だぜ? こりゃあ俺とお前で行くしかないだろう」


「慣れればって……」


 それはおそらく戦闘という行動そのものに、って事だろう。まだゲームを始めて二日目なのにもうボスに挑むというのは少々早すぎると、個人的には思える。まだ戦闘を繰り返して、動く事に慣れなきゃいけない様な気がするが、きっとこの友人はノリとテンションで決めているし―――確かに、今は楽しい。だとしたらこのテンションを放り捨てて正論を言うのも空気が読めていないものだろう。死ねば終わりなリアルと違って、ここはゲームの世界なのだ。もう少し気楽にやってもいいかもしれない。


「うし、やるか」


「お、やる気あるんじゃねーか。へへっ、だとしたら話は早いな。さっさとボスを探して狩っちまおうぜ」


 やる気で満ち溢れているダイゴの姿に対して頷きを返す。やる気と覇気に満ちているのは彼だけではなく、自分もそうだ。確認するスキルのクールタイムはどれも既に解除されている。基本的な召喚術のぶっ放しは何時でもいける状態に入っている。魔石はまだ残りがあるし、ルーン石に関してはまだ未使用の状態だ。火力としては十分発揮できる。


「あぁ、やってやろうじゃんか!」


「おう! 俺達の力を見せてやろうぜ!」


 ハイタッチを決めながら腕を組み、そして【索敵】スキルを発動させる。元々この場所には、エリアの中でもかなり強い反応があった―――おそらくそれがボスなのだろう、そちらへと向かえばいいだけの話なのだ。再び林と茂みの中に身を隠す様に、雑魚とエンカウントしない様に気を払いつつ進む。ここへ来る時は戦闘しながらであった為、かなりの時間がかかった。


 だが移動するだけならそこまで時間はかからないし、距離も遠くはない。


 緊張しながらダイゴと共に下手なスニーキングで十分ほど移動する。


 そうやって移動すると、林の中に木がへし折れている為に開けている場所が存在するのが見える。その場所の中央では切り株の上に座る、おそらく全長ニメートル程の黒毛のクマが存在した。その片手には蜂の巣の様なものが握られており、それから蜂蜜を片手で掬って器用に食べていた。一瞬、和みそうな風景だったが、奇襲する為に身を低くしながら茂みの裏に隠れると、


 クマがすんすん、と鼻を動かし始める。


 ”サベージベア”と名前が表示され、その横にはBOSSの表記が出現する。それと同時にクマは切り株から立ち上がり、そして視線をまっすぐ茂みに隠れる自分とダイゴの方向へと視線を向けてくる。それは間違いなく此方の存在を捉えた、という動きでしかなかった。


「ダイゴ!」


「あぁ、バレてやがる! なんでだ!」


 匂いなんてもので解るのかよ、と毒づきながらも茂みから飛び出し、ダイゴが前へ出る。その間にもサベージベアは蜂蜜を投げ捨て、咆哮を轟かせながら威嚇する。それに合わせる様に自分も飛び出し、ダイゴの後方へと、クマとの間に彼を挟み込む様に対峙する。そのまま腰の刃に触れる。


「刃の精霊!」


 無色の斬撃が虚空を走りクマを切り刻む。その体に斬撃の線が刻まれるが、クマは平気な表情で斬りかかってくるダイゴの刃を体で受け止めつつ、反撃の爪を繰り出す。それに驚きながらダイゴが横へ回避するが、その速度は凄まじく、明らかに今までの雑魚の数倍の速度を持ってダイゴの体の端を捉える。


「クッソ速ぇ!」


「風の精霊! 土の精霊!」


 クマの攻撃で生まれた風を媒体に風の精霊を、そして大地を蹴って巻き上がる土を媒体に土の精霊を召喚する。風の精霊が出現するのと同時に烈風の斬撃をクマへと操出、その間に土の精霊が石つぶての結界をダイゴの周りの浮かべる。それを受け取ったダイゴがよし、と叫びながら烈風で怯んだクマに向かい、刃を横薙ぎに振るう。


 それを体で受け止めたクマの体から鮮血が舞う。再び、クマはダメージを気にする事無く爪を振るうが、それは浮かんでいる一礫が迎撃する様に飛翔する事で衝突し、そして速度をお幅に削られる。それに合わせて踏み込んだダイゴが刃を振るい、クマの胸に深い斬撃を繰り出す。


 それを受け、クマは吠えるがその生命力に陰りは見えない。


「らぁっ」


 続けて二線、三線とスキルを使用しているのか、刃が残像を残す様な斬撃が繰り出されるが、クマはその悉くを無視して反撃を繰り出す。石つぶてが迎撃に入るも、それはクマの攻撃を受ける度に数を減らし、そして段々と威力が落とされて行く。故に回避動作を織り交ぜようとダイゴは戦いながら苦慮するが、


 明らかにタイミングを掴めずに―――いや、回避と攻撃を同時に行う事が出来ずに、体から血を流し始める。


「血が流れる辺りリアルだよなぁ! ハッハァー!」


 軽くバーサークが入っているのか、それでダイゴは止まる事がない。だがジリ貧なのは目に見えている事だった。だから此方も威力の大きな召喚術に切り替えて行く。そう判断した所で、クマの視線がダイゴから此方へと向けられる。その意図する事は何かか、解る。


「っ、クマ公! てめぇの相手はこっちだ!!」


 ダイゴが焦る様に大振りの斬撃を繰り出す。それは今までで一番大きな斬撃をクマに生むが―――そもそもクマは常時バーサークの様な状態であり、激しい攻撃を嵐の様に繰り出しながらも、一切自身へのダメージを頓着する事はなかった。だから今回もそれと同じで、ダメージを喰らいながらもそれを無視し、


 一直線に此方へと向かって来る。或いは動物的本能でこれから此方が放とうとしている攻撃を解ったのかも知れない。動物的本能、それを纏った怪物が迫ってきているが、


「おぉ―――!!」


 気合を叫ぶように込めながら、逆に逃げる事無く踏み出す。突進して来るクマの巨体に対して踏み込みから横へ斜めにぬける様に跳躍し、クマの突進を回避しつつ召喚術を発動させるために両手を合わせ、印を結ぶ。


「小鬼招来!」


 通り過ぎたクマを背後から出現した小鬼が鉈を振り回しながら突き刺す。その行動にクマが苦悶の声を漏らしながら振り返りざまに腕を振るい、小鬼をその頭から千切る。だがその間に次の召喚術の準備は完了している。此方へととびかかってくる姿を迎撃する為に再び踏み込むような回避動作に入り、


「サラマンダー! っ、幻狐招来!」


 大地を踏み潰す様に着地したクマを挟み込む様に二体の召喚獣を召喚し、その姿を大火力の炎で一気に挟み込む様に焼き尽くす。放出された火蜥蜴の炎と幻狐の狐火は合わさる事によって火炎竜巻を形成し、吹き上げる様な炎流を生み出す。体を焦がしながらクマが爪を振るう。その動きは精彩を欠いている。それに此方は武器で戦う必要がないため、回避のみに集中しながら、確実にクマの爪撃を回避し、そしてその脇を潜り抜けながら宣言する。


「火の精霊」


 予め考えていたコンボとして、サラマンダーと幻狐の狐火を媒体として使用し、出せる限り強力な火の精霊を召喚する。揺らめく炎が体を得た様な姿の火の精霊、それが出現し、笑顔を浮かべるとそのまま火炎竜巻を握りつぶす様に収束させ、クマを吹き飛ばす様に爆発を連続で発生させる。


 それで吹き飛んだクマを、


「任せた」


「通しちまって悪かったな。けどこれで―――」


 刃を鞘の中に戻していたダイゴが先回りする様に吹き飛ぶクマの前に立っていた。そのまま飛んでくるクマに合わせる様に刃を振り抜き、首筋に当て、そして勢いと重量任せに刃を首に食い込ませた。


「これで終わりだっ!」


 言葉と共に振りぬかれた刃がクマの首を完全に斬りおとした。原理としてはピッチャーとバッターが協力してホームランを放つ、それと全く同じ事だが、それがここで出来たのは完全な奇跡でしかないだろう。達成した事に満足感を感じつつも、凄まじい披露を体に感じる。息を深く吐きだしながら草地に倒れふす。まだ召喚時間が数分残っている幻狐が心配そうに近づき、そして頬を舐めてくる。


 こういうのとずっと一緒にいられるからテイマーは羨ましいが、きっとこちだって成長すれば時間を延ばしたりできる筈なのだ。それまで辛抱だ。


 ともあれ、


「お疲れ様ー」


「おつかれー……なんか予想以上に苦戦したな」


「タンクがいないのに前線で釘づけにさせられる訳ないだろ!」


「ド正論に言葉もねぇ」


 倒れつつも、目の前にはボスからのドロップが表示されている。それを確認し、個別ドロップなので分配の事を気にせずにインベントリの中へと確かめる事無くそのまま放り込む。そしてそのまま言葉を放つわけでもなく、息を吐いて休む。体には熱が溜まっていた。戦闘から来る疲労と、そして緊張から逃れられた為に発生した熱だ。その生で草地は冷たく感じ、気持ちよかった。


 どこをどう言い訳しても、練習不足というか、経験不足が現れまくっていた。今回あのクマに勝てたのは此方の状態が万全だったこと、そして綺麗にコンボが決まったことが最大の要因だったと思う。何だかんだでダイゴもスキル混じりで戦っていたし、最後のトドメは見事だったと思う。ふぅ、と軽く息を吐きだしながら寝っ転がり、仰向けの状態から上半身を持ち上げ、インベントリに叩き込んだドロップを確かめる。


 毛皮に爪、その程度しかインベントリには増えていない。どちらも防具や武器の作成材料にはなりそう、という評価だが、おそらく自分は使わないだろう。売った方がいい様な気がする。何より魔石代になるならそれがいい。



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:5

  体力:10

  敏捷:13

  器用:12

  魔力:21

  幸運:7


 装備スキル

  【召喚術:13】【精霊魔術:8】【陰陽道:8】【ルーン魔術:8】【仙術:1】

  【マントラ:1】【錬金術:1】【瞑想:4】【索敵:6】【鑑定:8】


 SP:12



 ステータスとスキルのレベルも割とガンガン上昇している。【召喚術】に関しては狩りで12レベに上がっていたものがここで13になった。結構な大成長だとは個人的に判断できる。またSPもボス討伐で5ポイント追加され、合計で12にまで上がっている。やっぱり狩りをするよりもボス戦をこなしたほうが経験値効率はいいんだろうなぁ、なんて事を思いつつ立ち上がる。


「かったぞー!」


「おー!」


「だけどしばらくはコンボとか練習しようかなぁ、って思う」


「あぁ、うん。今回戦って色々技術とか経験とかが不足しているって痛感したわ。ノリでボスに突撃するのって駄目だよな……」


「ホントそれな」


 そうは言う者の、ダイゴの表情には後悔しているような表情はなく、晴れやかに満足している感じがある。こいつ、なんて事を思いつつも苦笑を漏らす。何だかんだで自分も召喚コンボを綺麗に決める事が出来て楽しかったのだ。やっぱり超火力キャラっはボス戦でこそ輝くものだと再認識した。


「しっかしお前、思ったけど後衛ってよりは前衛の方がいいんじゃね」


「え、何言ってんだよお前」


 魔法タイプの純火力キャラが前衛とか頭おかしいんじゃないのか、と評価したい所だが、それをダイゴが否定する。


「いや、よく考えろよ。確かに基本ぶっぱタイプは後衛だぜ? だけど今の戦闘を見た感じ、お前が火力高すぎて攻撃動作に入ると、ヘイトがそっちに全部向けられるんだよ。完全にヘイト取ってくれる壁がいるならまだしも、俺達でやるなら攻撃はお前に向かうと思うぜ? だったら最初からお前前衛になっちまえよ」


「意味は解る。理解は出来ない」


「つまりはよ、最初から狙われて突破されちまうのが解るなら、突破されない様に最初から接近して戦えって事だよ。今のぶっぱ型に相手の体勢を崩す為の【投げ】や牽制の【格闘】ぐらいを追加すればいいんじゃないか? そうすれば近接戦闘で相手を投げて隙を生み出しながら召喚攻撃の行える怪物が出来るし。話しててなんだこのキワモノって思っちまったわ」


「どう足掻いてもキワモノじゃねーか!」


 ―――だが発想は悪くはない。


 実際ずっとパーティープレイなんて出来ないのだから、最初からある程度前衛に対する対策を練らないといけないのだ。だとしたら最初から近接戦闘の出来るサマナー、という風にしてしまえば極論、問題は解決するのだ。重要なのはそんなキワモノ今まで聞いたことすらない事で、可能かどうかという事なのだが。しかし検討してみる感じ、悪くない。実際に今のサベージベア戦では攻撃を回避しつつ攻撃を叩き込んだのだ。


 これに対して能動的に相手を崩し、召喚術を叩き込めるようであれば、かなり戦いやすくはなると思う。


 それに何だかんだで男が殴り合いをできないのはかっこ悪いと思う。


「……【投げ】と【格闘】の別種類系のはないのか」


「たぶんレベルが上がったら変化するか派生するんじゃないか? 掲示板によると柔術とか合気とか、そういうのに派生するって言われてるな」



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:5

  体力:10

  敏捷:13

  器用:12

  魔力:21

  幸運:7


 装備スキル

  【召喚術:13】【精霊魔術:8】【陰陽道:8】【ルーン魔術:8】【仙術:1】

  【マントラ:1】【錬金術:1】【瞑想:4】【索敵:6】【鑑定:8】

  【投げ:1】【格闘:1】


 SP:4



 取得してしまった。これで後戻りはできない。そろそろ本格的にSPを温存したい所だが、多分また衝動的にSPを消費してしまうんだろうなぁ、と将来の事を予想してしまう。まぁ、それはそれで仕方のない事だ。なにせゲームだ、後悔していたら何もできやしない。これでいい、これでいいのだ、近接特化型召喚師という過去に存在しないキワモノとして君臨するだけなのだ。そう自分に言い聞かせる。


「さて、これからどうする?」


 ちょくちょく動けない代わりに魔力の回復が加速する【瞑想】を発動させたり切ったりで戦闘での魔力消費を回復させつつ、それをダイゴへと尋ねる。基本的に自分はやる事が多い。特に金策も重要だったりするのだが、今日はこの友人に合わせて一日の時間を空けたのだ。だったらこの侍モドキに合わせるのがスジ、というものだろう。


「んー、クマ狩って大分満足したんだよなぁ……お前はどんな感じよ?」


「俺は割とやる事が多いんだよな。スタイルを確かめたり、新しいスキルを試したり、レベリングもあるし。あとは金策に召喚の実験かなぁ。何だかんだでルーン使った召喚とかまだやってないし。まぁ、それなりにやる事は多いけどたぶんクマのドロップ品を売ればいい金になるだろうし。まぁ、お前に合わせるよ」


「うっし、じゃあこのまま狩りを続行しよう。たぶんこのままだとだめだし俺ら。もっと戦う事に慣れなきゃ駄目だ。俺も色々と試したいし、お前も試したい事がある。だったら実験ついでにレベリングしようぜ」


「んじゃその方向でやるか」


 互いに立ち上がり、ボス戦で得た事を確かめ合いながら続く実験や戦闘の為に、準備に入る。やると言ったらとことんやるタイプなのだ。ここから、今日が終わるまでは完全にここを拠点にレベリングをする事を覚悟しながら、敵を求めて再び【索敵】と戦闘の準備を始める。体感でだが、魔力はまだ結構あるし、確認するクールタイムはそろそろ切れる所に入っている。”自分らしさ”をこの世界で求める為にも、容赦なくモンスターたちには養分になって貰おう。そう思い、


「魔石落とせぇ!」


「レアドロ落とせぇ!」


 叫びながらモンスターを探し始める。



                  ◆



「さ、流石に疲れたな……」


「お、おう……」


 そう言って、林の入り口で切り株に座り込む。空を見上げれば既に日は落ち、そして星と月が昇っている。完全に夜の闇が辺りを包み、ランタンの類を持っていない為、星の光だけが頼りとなっている。それを利用して光の精霊なんかを照明代わりに召喚するが、まだレベルが低くて持続時間が低く、まともな照明としては機能していない。夜戦も経験しよう、なんて馬鹿な言葉に付き合ってしまった結果がこれだ。ただ昼食と夕食に一回ずつログアウトしながらも継続した狩りの結果はまさに順調と言える結果を生み出してくれた。



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:8

  体力:12

  敏捷:15

  器用:14

  魔力:23

  幸運:8


 装備スキル

  【召喚術:15】【精霊魔術:11】【陰陽道:11】【ルーン魔術:9】【仙術:3】

  【マントラ:5】【錬金術:1】【瞑想:6】【索敵:9】【鑑定:10】

  【投げ:3】【格闘:3】


 SP:6



 【マントラ】が予想以上に便利だったことが今回最大の発見だったかもしれない。呼吸法がスキルの大部分であり、呼吸法を通じて力を練る事で、傷をいやしたり体に力を与えるというのがスキルを単体で使用した結果だった。身体能力の上昇や、ダメージの自己回復が結構簡単に行え、接近戦を行う上でかなり有用なスキルだと発覚した。それこそダイゴが取得しに行くぐらいには。残念ながら【マントラ】と【召喚術】の組み合わせに関しては知識が全くない。これはファーレンに適当な時に聞きに行く必要があるだろう。


 【仙術】はなんというか、他のスキルと比べるとちょっと特異な感じではあった。陣を生み出したりして場をコントロールする、風水的な要素の組み込まれた魔術スキルだった。その他にも体力を消費する事で一時的に魔力を高める事もできたりもした。チュートリアルに表示されているのはここまでであり、これ以上は教官か本を通して知識を集めないとどうにもならないが、【マントラ】との相性は悪くなかった。【マントラ】で肉体と生命を活性化させ、【仙術】で活性化された生命を魔力へと変換する。


 【マントラ】と【仙術】を通して体を鍛えつつ接近戦を挑み、【投げ】や【格闘】で隙を生み出し、そして【召喚術】による爆撃を行う。若干複雑ながら綺麗な戦闘の流れが、スタイルが出来上がりつつあった。後衛に戻ったなら【陰陽道】で妨害する事もでき、【精霊魔術】で能力の支援も行える。


 もうお前召喚諦めて魔術一本に絞れば、と言われそうな気がしてきたが、これはまだロマンを求める為の下積み時代なのだ。諦めてはいけない。


 そして最後に―――【ルーン魔術】による召喚。


 予めファーレンには強力であると聞かされており、それには納得するしかなかった。実際【ルーン魔術】と【召喚術】を組み合わせて使用して発生した召喚攻撃、それは今まで行ってきた召喚と、そしてその威力で最大級のインパクトを生んでいた。それこそ今まで使わずにいて謝りたくなるほどの。【ルーン魔術】単体はアイテムとしてはそこまで強くはないが、【召喚術】との組み合わせの為に真面目に鍛えよう、とは思わせる結果となった。これは間違いなく奥の手、切り札になるボス戦の時の最強攻撃手段である事に間違いはなかった。コスパの事を考えるとガンガン使う事は出来ない為、アルバイトを通してレベリングするしか方法はなさそうだ。


 いや、もし、魔石を【錬金術】で作成する事ができれば、【ルーン魔術】でそれに刻印すればいいのだから、かなりいい金策になるんじゃないだろうか。どう考えても魔石が自然に取れたものではなく、作成物である事はそれを扱っていて理解できる。だから材料を入手すれば、この資金難からはある程度抜け出せるかもしれない―――そんな事を考えて微笑む。


 これは明日は完全に生産か実験に時間を消費するんだろうなぁ、なんて事を考えていると、大分体力が戻ってきたのを自覚する。【マントラ】の便利さを痛感しつつ立ち上がり、軽く体を動かす。それで調子を確かめてから素早く―――とはいかないが、印を結んで本日何度目かになる幻狐を召喚する。足に体を摺り寄せてから幻狐は狐火を浮かべ、それで辺りを照らす。その明るさに頷き、ダイゴと共にランケルの街へと向かって帰路を歩き始める。


 今のいる場所からランケルまでは完全な一本道、迷う事はない。


「いやぁ、真面目に楽しかったなぁ。明日どうするんだ? もっかい行くか?」


「いや、ほら、俺ってば金のかかる職業だから明日は生産とか金策で一日潰すよ。今日戦ってて解ったけど、ガンガン魔石持ち歩かないとこの先やっていけそうにないし……つか魔石による召喚が一番クール短くて連射できるんだよな。その事を考えるとやっぱり魔石を大量にストックしないといけないんだけど、一個銅貨で四十だし。まぁ、金策して余裕ができたら格上の所へ突っ込んで、爆撃しながらレベリングって感じかな」


「まさに金の暴力だな」


 世の中金だ―――とは言わないが、資金力は重要である事に間違いはない。特にMMORPGなんてゲームジャンルだと、それは戦力に直結される。お金があれば装備を整えられ、ステータスに補正を見込める。そうすれば戦闘を有利に進める事が出来る。なので金策を通した資金の確保は非常に重要な事である。ぶっちゃけ、最初は戦闘するよりも安定した金策を生み出す事から始めた方がいいのではないかと個人的には思う。ステータスやスキルが生産行動を通して上がるのだから、戦闘をしなくてもレベリングは出来るのだ―――一部能力だけだが。


 実戦経験がなくなってしまう事は確かに辛いが、それでもそれはお金が溜まってからでも十分できる。だから個人的には戦闘でレベリングするよりは、落ち着いて戦闘に望める様に安定した資金の供給方法を作る方が重要かと思う。


 まぁ、それは理想の話だ。物事はそういう風に回る訳じゃない。気分で狩りへ出かければ、テンションのままにボス討伐にだって出かける。そういうムラっけがあるのが人間という種で、それが楽しいからゲームをやっているのだ。まだまだ夏休みは始まったばっかりだ。そう考えれば自由にやる時間はまだ多い。好き勝手やるのがいいだろう。


 そう決断し、月が照らすランケルの街並みを外側から眺める。街を区切る壁や門があるわけではない為、外から街の様子が良く見える。暗くなった空の代わりに家に光がともされ、明るく地上の星の様に輝いている。その光景は、現代の、現実では決して見れる事のない光景だろう。少なくともどんな田舎へ行こうと、もう地球そのものが汚染されている。ここまで澄んだ空気と空を見る事は出来ないだろう。


 たとえそれがデータだとしても、それでもいいじゃないか、と思う。


 明日はどうする、将来的にこうしたいな。そんな馬鹿話をしながら歩いていると、自然と召喚時間が切れて幻狐が消える。それにも構わず、少し警戒しながら夜の闇を並んで歩き、そしてやがて街の光に照らされるような距離まで近づき、漸く街へと戻ってくる事が出来る。丸一日外で戦闘をこなしていたため、こうやって文明のあるところに戻ってくるのが物凄い久しぶりに感じる。ログアウトしたら今日はシャワーじゃなくて風呂に入ろう。そんな事を考え、そのまま中央の広場へと到着する。


 既に時間は夜遅い。0時近い時間となると人は―――減るどころか増えている。おそらくはこの時間から接続し始めた社会人等もいるのだろう。そのせいか昼間以上に賑やかになっているような気さえする。露店も前確認したときよりも増えており、確実に活気が増していた。露店が増えている、という事は商売を始めたプレイヤーがいるという事なのだろう。何を売っているのかは正直気になる所ではある。


「ログアウトする前に露店めぐりでもしようかなぁ……」


「あー、確かに気になる所だけど、ぶっちゃけクタクタなんだよなぁ」


 ダイゴの言葉に苦笑する事で同意する。割と疲れているから露店めぐりは別に今である必要はないのだろうが……それでも相場のチェックとかは重要な事だったりするのだ。もうちょっとだけ、ログアウトせずに露店巡りをし、それからログアウトしよう。


 やる事を決めてしまえば簡単だ。


 先にログアウトして寝ると言ったダイゴのログアウトを見送り、インバネスコートの前を閉め、夜の涼しさを頬を感じつつ、これもまた楽しみ方の一つだろうな、と思いながら夜の街へ繰り出す。きっと、見ているだけでも楽しい時間が過ごせるに違いない。そんな事を考えながら人の集まりへ、


 少しだけ楽しみに頬を緩めながら向かって行く。

 vsクマさん、そして近接というキワモノの道へ……


 生産にレベリングに実験と情報収集、やる事が多くて大変だけど、充実している事なのよね。

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