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Endless Sphere Online  作者: てんぞー
序章 駆け出し編
3/64

三話 召喚師の戦い方

「大吾の奴も結構楽しんでるっぽかったなぁ、まぁいいや」


 昼食を終えてログインする頃には、此方の世界は段々と夕陽が暮れはじめていた。赤く染まる空を眺めつつ、ログアウトした時に確かめた大吾からのメールの内容を思い出し、苦笑する。一応向こうからのメールにはキャラクターネームが書いてあり、それをフレンド登録しろ、という事なのだろう。確かにそうすればゲーム内でのショートメールが出来る様になるはずだし。迷う事無くフレンドリストを開き、そこにダイゴ、とそのまんまな名前を入力して登録する。


「んじゃ、どうすっかな……」


 夜に狩りをするのは危険だと言われた覚えもあるし、ここは大人しく出かけずに金策手段や教本を読んでルーンの勉強をしておくべきなのかもしれない。となると適当にどこか宿を取っておいた方がいいのかもしれない。今日はルーン教本を読んで、そしてそれを試す事で一日を終えよう。そう決める。となるまずはベースとなる魔石を用意する必要がある。


 昼の間にファーレンと共に店の場所は確認してある。いんべんとりから地図を取りだし、それを確認すればマークしておいた道具屋等の位置が確認できる。ログアウトした場所からそう遠くはなく、歩いて余裕で行ける距離にある。場所の確認を終わったら、少しだけ速足で道具屋へと向かい、そして木の扉を開けて中に入る。


「いらっしゃい」


 そう言って迎えてくるのはパイプを口に咥え、カウンターの向こう側で椅子に座る老婆の姿だ。此方を見かけると閉じていた目を開け、


「ん、ってファーレンの所の生徒さんかい。となると魔石かねぇ」


「あ、はい、どうも……って解るんですか」


「その装備を見ればねぇ」


 そう言って苦笑する店主の言葉に納得する。今来ているインバネスコートやロングスリットシャツは元々ファーレンのものだ。となると昔の彼を知っている人物であれば、直ぐに関係が解る者だろう。


「魔石の他に何か探しもんはあるかい?」


「えーと、ルーンを始めようかと思って」


「んじゃあ彫刻刀が必要だぁね。予算は?」


「銀貨二枚で」


「じゃあ魔石を五個と彫刻刀だぁね。ほいさ」


 さくさくと道具を集めると、それをカウンターの上に並べ、支払いを完了する。残った銀貨は宿代などの為に一応残しておかなきゃいけないのだ。だからこれぐらいがちょうどいい筈だ。まぁ、五個もあれば実験にはちょうどいいだろう。精霊魔術による召喚術を使用すれば、多少威力は落ちても戦闘が行えるし、それで狩りをすればいいのだから。


「ルーンを刻んだものが出来上がったらここに持ってくるがええよ。婆さんが買いとるかんの」


「あ、はい、お世話になります」


「ええんよ、ルーン魔術は結構珍しいもんねぇ、探せば需要もあるもんさ」


 はぁ、とちょっと気の抜けた返答になってしまったが、実験用と販売用に訳て作成すればいいだけの話だ。どれだけの値段で売れるかは解らないが、これで少しでも赤字をカバーできればいいのだ。もし魔石を購入してルーンを掘る作業で黒字になるなら、それで金策をするのも悪くはない―――黒字になるとは到底思えないが。まぁ、いいところルーンを掘るバイトぐらいだろう。まぁ、これもルーン魔術に関して勉強を始めないと全くどうなるかが解らない。


 しかしなんでゲーム初めてまで勉強しているんだろうか。


「さて、んじゃ落ち着いて本を読める場所を探すか」


「別に、ここでやっててもええんじゃよ? 私もずっと一人で暇だしのぅ」


 視線をパイプを咥えている婆さんの方へと向け、どうしようか迷うが、どうせならとことん受けられる好意は受け取ってしまおうと判断する。それじゃあお世話になります、と一声を駆けてから店内の隅に置いてある椅子を見つけ、そこに座る。


「特化型召喚術士を目指しているフォウルです」


「ゲル婆さんと呼ばれてるんよ」


 本名は? と一瞬聞きたくなったが、それを何とか飲み込み、インベントリからルーンに関する本を取り出す。かけあっても敵わない様な気がするし、パイプを吸っているゲル婆さんはなんだかのらりくらりと不都合な事を回避しそうな気配がする。


 ともあれ、ルーン魔術の教本を取り出す、タイトルも、そして中の文字も日本語でちゃんと書かれている。どうやらこの世界、普通に日本語が公用語らしい。一瞬この世界の言葉を習わなきゃいけないかもしれないのかと思ったが、それはそれで面白い以上に”面倒”な部分があるのだろう。ここは若干ゲームらしさがある部分なのかもしれない。


 ともあれ、集中して読み始める。



                  ◆



 気が付けば一気読みし終わっていた。ルーンの基本はその記号にあり、それぞれに名と意味があるのだ。ルーン魔術とはルーンの記号を通して力を発現させる事であり、それを通して現象を発生させるものでもある。記号、或いは文字そのものをルーン魔術として刻む事で、その力を得るという事が出来るらしい。この教本には基本的なルーン文字と、その意味や刻み方が書いてあった。それを真似し、ゲル婆さんにテーブルを借りて魔石を彫刻刀を使い、刻む。



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:5

  体力:7

  敏捷:11

  器用:8

  魔力:15

  幸運:5


 装備スキル

  【召喚術:5】【精霊魔術:2】【陰陽道:3】【ルーン魔術:5】【瞑想:2】【索敵:2】

  【鑑定:2】



 アイテム名:テイワズのルーン石

     品質:1

     説明:勝利を意味するルーンを刻まれた魔石。

         触媒の他に、消費する事によってテイワズの加護を得る。



 本を読み終わり、そして書いてある通りに魔石に彫刻刀でルーンを刻んだ結果、器用と【ルーン魔術】のレベルが上昇した。魔石は五個全部使用したが、最初の一回目で失敗したために結局成功したのは四回だった。ただそれでも十分に経験値は入っているようで、レベルは【召喚術】と並んでしまった。【鑑定】も上昇しているが、これは間違いなく刻印の時に何度もアイテムを確認したからだろう。もしくは読本を通してレベルが上がったのかもしれない。ふぅ、と息を吐くと、テーブルの上で作業していた此方へとゲル婆さんが視線を向ける。


「どれぃ、見せてみんな」


「あ、はい……」


 ルーンを刻んだ石を手に取ると、ゲル婆さんがそれを確認し、そして頷く。


「ま、買い取り価格で1個十銅貨って所かねぇ。販売するなら五十ぐらいで。品質が高ければもっと高くしてもいい感じやもしれんのぅ。まぁ、坊主の小遣い稼ぎぐらいにはなるじゃろ。こっちで魔石を提供するから、一個十銅貨で魔石にルーンを刻めるかい?」


「やります! やらせてもらいます!」


 破格の条件に即答すると、そうかいそうかい、と彼女は頷きながら近くの魔石が置いてある棚を指差す。


「んにゃ、適当にあそこから最低品質の魔石を取ったらルーンを刻んでおくれ。ルーンの内容は―――」


 そう言ってどのルーンを刻んでほしいかを彼女は指定する。正直な話自分よりもこの婆さんの方が知識が多い気がしてならないが、せっかく見つけたバイトを蹴るわけにはいかない。もう今日はこのルーン刻みバイトという苦行に近いアルバイトをする事だけを考え、そして深く考えるのをやめる。なんだかんだで、この世界はゲームなのだ。


 ユーザーフレンドリーにできていたとしても、問題はないだろう。


 何にせよ、先立つものがないと何もできない。最初はコツコツと小さなことから始めなくてはならない。冒険なんてものは明日、大吾―――いや、ダイゴと一緒にやればいいのだ。前衛と後衛が揃った状態なら此方も消費を抑えて戦う事が出来るだろうし、それに合わせて魔石も補充しておきたいのだから。


 というわけで再び、彫刻刀を片手に魔石へと向き合う、無言の時間が始まる。


 僅かにパイプから匂って来る嗅いだことのない薬草の臭いに頭がスッキリする様な感覚を受け、いつも以上に集中しながら黙々とルーンを魔石に刻み始める。



                           ◆



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:5

  体力:7

  敏捷:11

  器用:10

  魔力:15

  幸運:5


 装備スキル

  【召喚術:5】【精霊魔術:2】【陰陽道:3】【ルーン魔術:8】【瞑想:2】【索敵:2】

  【鑑定:4】



 アイテム名:ラグズのルーン石

     品質:2

     説明:霊性を意味するルーンを刻まれた魔石。

         触媒の他に、消費する事によってラグズの加護を得る。



「ん……」


 気が付いたらレベルと品質が上がっていた。ステータス画面を開き、時間を確認すると既に晩御飯の時間を通り過ぎ、寝るべき時間に突入していたことに気づかされる。いくら夏休みといえども、あまり夜更かしする事は体に良くはないよなぁ、と思いつつ体を大きく伸ばし、出来上がったルーン石の山へと視線を向ける。大分頑張ったよな、なんて感想を抱いていると、


「ん、今日はもうこれぐらいでいいだろ。また暇な時においで」


 そう言ってゲル婆さんがバイト代を渡してくる。ホクホク顔になりながらそれを婆さんから受け取り、軽く金額を確かめる。銀貨が四枚入っていた。そんなに作業してたのか、と思いつつ、ログアウトする前に、


「魔石ください」


「ういよ」



                           ◆



 近い将来妖怪魔石落とせに進化しそうな予感をヒシヒシと感じつつも、Endless Sphere Onlineの稼働二日目がやってくる。昨夜は広場でログアウトしたため、ログインしたときは同じように広場に戻ってくる。しかし今日は昨日とは少しだけ風景が違う。


 昨日までは皆、同じ様な恰好だったのが少しずつだが個性が、違いが見え始めている。床にマットを広げて露店をするプレイヤーらしき姿も見れば、パーティーを組んでいるような姿も見える。割と早い時間にログインしたつもりだったが、既に多くの人がいるのを見る辺り、徹夜でプレイしている者や、自分よりも早く起きてログインした者がいるのだろう。


 ともあれ、昨夜の奮闘のおかげで魔石が十個ある。これを元手に、今日は冒険をする予定なのだ。ログイン前に電話でダイゴとは連絡を取っておいた。故に、


「おーい! こっちこっちー!」


 手を振って自分の存在をアピールするダイゴを発見する。手を振り返しながら軽く駆け足で合流し、近づいたところでハイタッチを決める。近づいたダイゴの姿は茶色の布のチュニックに革のパンツ、それにガントレットという姿で、腰には刀の姿があった。どうやら予想通り、侍としての道を歩み始めているらしい。そのうちもっと和風っぽさを追求するんだろうなぁ、というのが見える。容姿に関してはリアルの快活さが多く残っており、此方から見て違って見えるのは髪色が灰色になっている事ぐらいだろう。


「よ―――」


「フォウル」


「うむ、俺はそのままダイゴだけどな。その姿を見るとお前、何か魔法系?」


「サマナーだよ。召喚獣だしてぶっぱする」


「お、マジか。丁度前衛後衛が揃っていていい感じじゃねぇか!」


 ダイゴのその言葉に苦笑する。元々相方である彼が前衛をやるであろうから、それに合わせて後衛職にしたというのを彼に言うのは野暮な事だろう。だから今、苦笑した意味をごまかし、そして話題を切り替える。


「んで、パーティーって話だけどどこに行くかは決めてるん?」


「あぁ、モチ! 戦士ギルドでオススメの狩場ってのを聞いたら普通に答えてくれたわ。ソロでなら南部の草原らしいけど、西へ行けば林があってそこには植物型や動物型のモンスターが出現するんだってよ。別にソロでも問題ないらしいけど、パーティー組んだ方が安全だしそっちにしようかってね……あぁ、タッグだけど」


「俺とお前なら問題ないだろ」


 根拠のない自信ではあるのだが、昨日トレインして纏め狩りをおこなっていた感じ、ここら辺の雑魚は召喚術をぶっぱする事で一撃で殺せる事が確定している。だったらちょっと上の敵が相手でも、問題はそこまでないだろうと思う。前衛と後衛で揃っているのだから、たった二人だがスタンダードなパーティーの形は出来ているのだ。まだ初期の方でこれで問題が出てきたら逆に困る。


「お前、準備大丈夫か?」


「こっちは来たばっかだけど落ちる前に全部準備しておいたし余裕余裕」


「こっちも準備は完了してあるし問題ないな! んじゃ、行くか!」


 西部の林へと向けて、二人で並んで歩きながら移動を始める。きっと今日は昨日とはまた違う冒険になるであろうと予感を抱きながら。



                           ◆



 早しに到着すると【鑑定】スキルが発動し、林の名前が自動的に判明する。ランケル西部林丘、という名称らしく、ぽつぽつと生える木々がある程度視界を制限しつつも、奥へと向かって行くにつれ、段々と高地になって行くのが解る。離れた場所から見た感じ、丘のてっぺんからはかなりいい景色が見れそうな感じはした。


「とりあえずは丘のてっぺんを目指す感じで?」


「そうだな。確か【索敵】取ったんだよな? 俺そういうのとか一切取ってないから頼むぜ」


「大丈夫かよホント……」


「任せろって! その代りスキルは全部戦闘のをぶっ込んでるから! 純人種選んで刀に完全特化させてるから、こう見えてめっちゃ強いぞぉ!」


「まぁ、そう言うなら……【索敵】」


 口に出す必要もないが、口に出して言い、スキルを発動させる。近くが広がり、脳内にレーダーの様な光景が浮かび上がる。その中で、敵の気配を感じ取り、居場所を把握する。これに【鑑定】スキルが組み合わせられる事によって、気配を掴んだ相手の大体の強さが解ってくる。その反応はどれも、昨日よりも少し強いというレベルだ。おそらくは。やはり自分で戦ってみない限りにはよくわからない事が多い。刃の精霊の召喚だってまだ試していない。


 つまり、実戦あるのみ。


「ここから先進んだところに三体程固まってる。【鑑定】のレベルが足りなくて何かは解らないけど」


「いるって解ればいいんだよ。奇襲しようぜー」


 そう簡単に行くかなぁ、なんて事を思いつつ、ダイゴの数歩後ろを歩く。後衛職であれば距離感はこれぐらいだろうと、そういうイメージ距離を作る。そのまま静かに、足音を殺す様に姿勢を低くし、そして木々の合間を潜りぬけながらそれと草むらを盾に、隠れる様に動き、


 そして見つける。


 巨大な花から生える蔦や茎が体を支える触手となっている、植物型のモンスターだ。その方向へと視線を向ければ自動で【鑑定】が発動し、ヴィシャスプラントという名前を表示する。それぞれ赤、青、紫、と色が違う事から色はランダムなのかもしれない。そんな事を思いつつ右腰に装着した刃の柄を握る。無言のまま視線をダイゴへと向けると、ダイゴは軽く振り返ってから軽く頷き、


 そして飛び出す。


 ―――ちなみに特に合図とか作戦はない。頷きはたぶんノリでやったのだと思われる。


 飛び出すのと同時にヴィシャスプラントの背後に出たダイゴが腰から刀を抜きながらそのまま薙ぎ払い、斬撃を横一線に繰り出す。それを受けたヴィシャスプラントが反応する前にその頭とも言える花の部分を切り飛ばされる。昨日練習したのか、その動作に淀みはない。そうやってダイゴが一匹目を狩って注目を集めた時、此方も茂みから飛び出す様に右手で腰の刃に触れる。


「刃の精霊!」


 直径一メートルほどの半透明のブロードソードが出現し、そして次の瞬間に消えて斬撃と化していた。ダイゴの近くにいたヴィシャスプラントに無数の透明の斬撃が発生し、その体を一気に九分割し、バラバラに切り裂いていた。そこで奇襲だと気付いた最後の一体が蔦を槍の様に伸ばし、襲い掛かってくる。それを体に掠らせつつダイゴは強引に前へと踏み込み、


「これで終わりだっ!」


 兜割を叩き込み、ヴィシャスプラントを縦に真っ二つにする。豪快なその一撃を繰り出したダイゴは手ごたえにガッツポーズを決め、その姿に追いつき、そしてハイタッチを決める。


「完全しょーり!」


「意外とイケル感じじゃねぇか俺ら。つか予想してた感じとダイブ違うな、召喚術って。もっと派手な感じだと思ってたけど」


「もっと派手なのはあるけど、そっちはコスパが悪いんだよ。威力は高いんだけどさ……」


「あぁ、そういうことね。っつーことは今のがコスパのいい感じの奴なのか」


 たぶん。


 というも、今使える召喚関係で、唯一クールタイムが少ないのがこの精霊系の召喚術なのだ。精霊魔術そのものとの違いを比べる為に精霊魔術を使用してみたが、今の所は此方の方が威力が高く、そして連射は出来ないってぐらいだ。ぶっちゃけそのまま魔術として使った方が威力は落ちるが、魔力消費と金の面でオトクなのだろうと思う。


 しかしファーレンから教えて貰った事を理解すると、どうやらスキルが上昇する事で召喚できる精霊そのものが強化されたり、攻撃時間が増えたり等色々あるらしいので、最初ばかりはこうなのかもしれない。


 まぁ、オーバーキルの超火力は男のロマンだ。コスパとか知ったものではない。【召喚術】がやりたいのだ。


 言い訳完了。


「ま、オーバーキルできる感じだから、多少硬い相手が来てもタゲさえ取ってくれば一気にズドンっていけるぜ。昨日軽く10体ぐらい纏めてズドン死できたし」


「ズドン死とはまた新しい響きだなぁ……まぁ、だったら後は俺がどれだけ敵のタゲを取れるかってだけか。なんか俺次第って言われると燃えてくるよな」


 子供らしい友人の一面に軽く笑うと、お互いのできる事を確認し合いながら、再び【索敵】を起動させて敵を求め始める。今日一日は完全にダイゴと一緒に戦闘をする事を決めているのだ。やると決めたらとことん。魔石に頼らずとも十分に戦えるという事を今日中に証明してしまおう。そうすればこれからが楽になる筈だ。


 そんな事を考えつつ視界の悪い林を敵を求めて進む。



                  ◆



「―――ぶっちゃけ召喚術せずに普通の魔法技能使った方が楽じゃね?」


「うるせぇ。俺は特化型サマナー目指すんだよっ」


 三時間ほど狩りを続けながら丘の頂上を目指していると、それほど問題もなく到着する事が出来た。ぶっちゃけた話、少し驚いた。ここまでに来るのに三時間かかった事、そして三時間かかったのにまるで飽きる事も退屈する事もなかった事に。三時間だ、普通は単一の作業を続けていれば飽きるものだし、歩き回っていれば疲れるものだ。だけどモンスターを警戒しながら、倒しながら丘の頂上を目標に進む狩りは楽しかった。


 気づけばスキルやステータスも上昇している。



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:5

  体力:8

  敏捷:12

  器用:11

  魔力:18

  幸運:5


 装備スキル

  【召喚術:9】【精霊魔術:5】【陰陽道:5】【ルーン魔術:8】【瞑想:3】【索敵:4】

  【鑑定:6】



 相変わらず魔力ばかりがガンガン上がって行くのは間違いなくぶっぱ戦法を取っているからだろう。ただ召喚した後のクールタイムは【精霊魔術】で数分、【陰陽道】で十数分というレベルに到達する。その合間に基本的な召喚術や普通に魔術をそのままで使っているが、ぶっちゃけ魔術をそのままで使う方が回転効率が良かった。レベルだ、レベルさえ上がればクールタイムが軽減するのだ。それまでの我慢なのだ。


 なお【ルーン魔術】はルーン石を消費するのが勿体なさすぎて未だに使う事が出来ていない。


「アレだよ、クールタイムがなくなってからが本番なんだよ! せ、先行投資がちょっと必要なだけで、愛を込めればゆくゆくは強くなるんだよ! デモムービーでは召喚連打していたし! レベルが上がってクールタイムはちょっとずつ減ってるし。まぁ、気の長い作業だってのは認めるけどさ……」


「いや、まあ、俺もロマン派だから特に何も言えないんだけどさ! それよりもお前SP溜まって来てる? 割とガンガン入ってくるんだけど」


「あ、あるある。スキルによって消費SP変わってくるし、多分上位系のスキルとかもあるんだろうけど、逸れにはもっと多くSP消費する必要ありそうだしな。公式で課金は一切ないって断言しているから再振りとか来るとは思えないし、若干困りものだよな」


「まぁ、ある程度は取っておきたい所だよなぁ……」


 と言っても自分が取得したいスキルというのは大体決まっている。なので手に入れたSPを使ってさっさとスキルを取得してしまう。幸い、純人種はスキルのスロット数が多めだからまだまだ装備スキル枠は多い。



 名前:フォウル

 ステータス

  筋力:5

  体力:8

  敏捷:12

  器用:11

  魔力:18

  幸運:6


 装備スキル

  【召喚術:9】【精霊魔術:5】【陰陽道:5】【ルーン魔術:8】【仙術:1】

  【マントラ:1】【錬金術:1】【瞑想:3】【索敵:4】【鑑定:6】



 【仙術】は中華で有名な仙人の術だ。見た感じ、最初に出来るのは空腹を感じにくくなるとからしい。まるで仙人になる為の様なスキルだ。【マントラ】は神話のインフレ具合が頭おかしいという評価を受けがちなインド産の魔術であり、主に自身に対して呼吸法や詠唱を通して力を乗せる事を目的としているものが多いらしい。そして最後に【錬金術】は完全に金策用のスキル。正直完全に金策向けのスキルを用意しておかないとどこかで辛い目を見る、というのは解っている事なのだ。


 これでSPを大分消費し、残りのSPは5のみ。新しいスキルや上位スキルが解禁される事を考えればここら辺でまたSPが溜まるまで待機、という感じがベターだろう。個人的には趣味で【釣り】辺りを入れてみたいが、とりあえずは金策が安定するまではパスといった所だろうか。


 ともあれ、装備スキルがこれで10個になった。純人種が装備できるのは全部で15までであるため、後5枠残っているが、そろそろ掲示板やWIKI辺りをチェックしてオススメやスキルの使用感に関して聞きたい所でもある。これ以上情報なしで突っ走るのは怖い部分がある。


「―――【投げ】と【蹴り】は必須で【投擲】もあれば便利だよな。戦場では武器がなくなっても関節技で殺す場合とかもあったらしいしそれ系も……」


 独自方面を一切遠慮する事無く突き抜けて行く友人の姿を見ていると、悩むのが馬鹿らしくなってくる。ここは負けず、自分もマイウェイを突っ切って行こうと思う。


 新しく覚えたスキルの使用感に関しては追々、今はこの丘の上から見える雄大な景色を眺める。


 東へと視線を向ければ林の向こう側にランケルの街の姿と、そしてその周囲に広がる地形を確認する事が出来る。街から南の草原の更に南には森が広がり、街から北へと向かえば街道が伸びており、別の街へと続く様に見える。何時かは次の街へ向かい、もっともっとこの世界を探検してみたいな、なんて事を思いつつ視線を後ろへ、ダイゴへと戻す。


「すげぇな、この世界」


「あぁ、ホントな。これがゲームだって言われてもいまだに信じられねぇよ」


「だよなぁ……」


 完全にシステウムを利用し、その恩恵で超人的な強さを振るっているが、それでもまだ、こういう光景を見てしまうとゲームである事を信じられなくなってしまう。しゃがんで土に触れてみれば、ちゃんとそこには大地が存在し、土の匂いがするのだ。こんなにもリアルなのに―――現実と一切変わらないのに、この世界は完全にゲームとして存在しているのだ。それは物凄く、そして同時に勿体なくも感じられた。


 だからどこまでも、極限までに楽しまないと、それこそ本当に勿体ないのだろうと思う。


「なんかアレだな、こういう光景を見るたび改めて凄いって思うわ。なんつーか、よくこんなもん作れたよな、って。純粋に尊敬する感じで」


「あぁ、それは何か解る気がする。途方もない苦労してるよな。おそらく俺らが一生理解できないレベルで……」


「こうやって凄さを感じる度にさ、この世界をもっと見たい、もっと感じたい、どこまでこの世界が広がっているんだろうって気になってくるわ。きっと砂漠とか雪山とか、火山とかもあるだろうし、海の方へと行けば港町もあるんだろうなぁ」


「ここはまだまだスタート地点なんだろうな」


 そう言って二人で並んで、ここから見える景色を数分間、無言のまま眺め続ける。きっとこの世界には、遊ぶために払った金額以上にも途方もない価値があると思う。


 だから、


「遊び倒そう」


「おう、そうだな。とりあえずここまで来たんだ。手ぶらでは帰れねぇよな」


 ダイゴの言葉に首を捻り、振り返る。そこには良い笑みを浮かべた彼の姿があり。


「エリアを攻略するなら最後にやる事は決まってんだろ? ―――ボス戦だよ」

 ひたすら石に文字を刻むというブラックな気配しかしないアルバイトがあるらしい。


 召喚師サマナー調教師テイマーを混同する作品が多かったから、純サマナーなお話が書きたかったのよね。それでも召喚したらしばらく顕現している、とかは若干テイマーと被る要素でもあるんだよねぇ。

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